2018年9月30日日曜日

風が凪ぐ






ホテルからRiffelalpの駅までカラマツの林を歩き、9時3分発のゴルナグラート行きの登山電車に乗る。




スイスの登山電車は驚くべきことに、どんな無人駅だろうが、電光掲示板がついていて、何時にどこ行きが通過するのか、分かるようになっている。そして、その時間になると、にぎやかな構内放送など一切なく、なんの前触れもなく静かに電車が滑り込む。更に、特筆すべきこととして、線路と道路の高さが同水準なのである。プラットフォームというのは、周辺よりも高くなった水平で平らな場所(台地)を指す言葉なので、スイスの駅は厳密にはプラットフォームがない。そして、何よりも、景観が素晴らしい。







そして、マッターホルンが気高く、誇らしげに立ちはだかっている。



なんという快晴だろう。あの雨模様の天気予報はなんだったのだろうか。今回も父が便宜を図ってくれたのだろうか。









氷河が押し迫って見え始める。






あまりの雲一つない快晴に、青空にくっきりと聳え立つマッターホルンに、涙がこみあげてきてしまう。









ゴルナグラートからローテンボーデンを通り、リッフェルベルクまで歩いて降りることにする。






こんなに素晴らしい景観を母と二人だけで味わっていること自体が信じられない。我々、二人以外に、周りには誰もいないのだから。



この空の青さといったらどうだろう。空気が透明だからか。








逆さマッターホルンで有名なリッフェル湖が遠くに見えてきた。遠めからも観光客でにぎわっていることが見える。どうも風があるらしく、湖面にはくっきりとした姿が映ってくれていない。














プロの写真家なら、じっと時を待つに違いない。しかし、真っ赤な帽子の母の姿はずんずんと先を行く。後ろ髪を引かれながらも、母の後を追うしかあるまい。








湖をぐるりとしたところで、どうやら風がやみ、湖水がぴたりと静まり、美しく周囲の景色を映していることに気がつく。思い切って、戻ろうかと思うが、これも出会いなのだろうな、と思う。一瞬の出会い。まあ、マッターホルンが映ってはいないが、雪を抱いた山脈の景観も壮大ではあった。






と、どうしたことだろう。別の湖が見えてくるではないか!






風が凪いでくれない。焦るが、今回はじっと待つ。




そう、そろそろ凪いでおくれ。










なんてことだろう。心が震えてしまい、どうしようもない。






ああ、最高じゃあないか!どうだろう。この壮大さは!













写真を撮っても、撮っても、次々に心震える景観が迫ってくる。








リッフェルベルクでゴンドラに乗り、今度はマッターホルン・グレッシャー・パラダイスを目指す。ホテルのフロントの女性のお薦めだった。晴れている時にできるだけ移動するようにと。













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2018年9月29日土曜日

燃える山頂










何かに突き動かされてベッドから飛び起きる。
窓辺に駆け寄り、ぴったりと閉まっているカーテンの隙間から外を覗き込む。えっ!思わず声を上げる。マッターホルンの尖った山頂がうっすらと燃えているではないか。慌てて母を起こす。ジャケットを着てベランダに駆け出す。

















最初は先っぽだけだったが、そのうちに段々と二等辺三角形程度には赤みが広まっていった。そして他の山頂にも赤みが差してきた。

静かに、しかし、刻一刻とスポットライトがあたる範囲が広がり、とんがりコーンのような山頂全体が、赤といおうか、黄金色に染まる。

その神々しさに、声も出ない。









夢のようなショータイムは一瞬にして終わりを告げ、朝の透明な真っ青な空に、山頂は白く眩しく輝き続けていた。






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2018年9月25日火曜日

暮れなずむマッターホルン






祈るような思いだった。ルツェルンで土砂降りに遭って、傘を買った途端に雨が上がり、晴れたとは言え、各地の天気予報を見ると、いつも雨だった。ツェルマットにいる間中、雨模様。どうにか晴れて欲しい。

マッターホルンを部屋の窓からのんびりと眺める。そんな贅沢を母に味わって欲しかった。ツェルマットのホテルも、景観の良さを最重要項目とし、厳選していた。気が付いたら、ツェルマットの村ではなく、そこから登山鉄道で数駅いったリゾートを予約していた。

日本から母がマッターホルンをとても楽しみにして来ます。素晴らしい景観とバスタブのある部屋をお願いします。

ホテルにメッセージを送ると、「この度はご予約を承り誠にありがとうございます。喜んでお客様のご要望にお応えしたいのですが、お客様がお選びになったお部屋は景観が山に面しておりません。また、バスタブもついていません。景観を楽しみ、かつバスタブ付きのバスルームをご希望でしたら、ご用意できますお部屋タイプが3つございます。」とすぐに返事が来る。

思い切って予約した値段だっただけに、この内容には驚いてしまった。1ランク引き上げるだけで一泊100€以上料金が高くなってしまう。しかし、せっかく高いお金を出してマッターホルンの近くのホテルに行くのに、山が見えない部屋では流石に惨めであろうし、バスタブへの母の思いを知っているだけに、ここは思い切ることにした。清水の舞台から飛び降りることに。

しかし、お天気だけは、お金を出しても準備できなかった。晴れて欲しい。マッターホルンよ。その雄姿を見せておくれ。






ゴルナグラート登山鉄道はゆっくりとツェルマットの村を登り始める。と、進行方向右側に、煙を吹いているような山が見えてきた。おおっ!あれが夢に見たマッターホルンではないか!母と二人、食い入るように見つめてしまう。開け放たれた縦長の窓に、正にかぶりつき。

二つ目の停車駅で、自転車の男性が降りる時に、母の肩を軽く叩き、左側を示した。右側ばかり見ていた我々は、一瞬にして左側を見ると、なんとそこには滝が勢いよく流れていた。これには予想だにしていなかっただけに、驚いた。興奮は高まるばかり。

Riffelalpという駅で降り、迎えに来てくれていたトロッコ列車に乗り込む。18世紀に避暑地として建てられたというホテルが見えてくると、マッターホルンもその雄姿をすっきりと見せてくれた。

レセプションの応対もすこぶる気持ちよく、優雅なリゾートホテルとしての落ち着きが温かく迎えてくれた。チューリッヒ駅から送っていた荷物もちゃんと部屋に届いている様だった。案内された部屋は広く、ツインのベッドは大きく心地よさそうで、申し分なかった。大きな窓にはカーテンがかかっていたので、ここからマッターホルンが見えるのでしょうか、と案内の女性に聞いてみると、にっこりと微笑み、「さあ、ご覧になってください」と促す。どきどきしながら、そっと開けてみると、嗚呼!そこには雄姿を余すところなく見せているマッターホルンが認められた。思わず、母に抱きついてしまう。案内の女性も嬉しそう。

暮れなずむ中、部屋のテラスに出て、ソファーに身体を沈めながら母と無言でその雄姿を飽くることなく食い入るように眺めていた。














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