2018年9月15日土曜日

カペル橋






ルツェルンの駅に降り立ち、向こう岸にあるというホテルまで歩いて行こうと近代的な橋を渡り出した途端に空から大粒の雨が落ちてきた。その雨さえも心嬉しく感じてしまうのだから、旅の効果とはすごい。チューリッヒ駅でスーツケースを預けているので、荷物は肩のザックのみ。いかにもプロっぽいザックにレインカバーを取り付け、防水通気性に優れていると謳っているジャケットを早速着込む。にわか雨の中、皆が駆け回っている様子も活力に満ちていて、こちらまで嬉しくなってしまう。残念なことと言えば、写真。ルツェルン湖の向こうに真っ白な氷河を抱いた山脈が見えた時には、雨の降りしきる中暫し立ち止まってしまう。慌ててカメラ、もとい携帯を向けるが、ファインダーの向こうの景観は何かが違う。そんな思いも、悪くない。






しかし、橋を渡り切った頃には、呑気なことを言っていられない程の土砂降りとなってしまう。軒下で雨宿りとかこつが、雨は容赦なく降ってきて、遠くで雷さえ聞こえてくる。地図によれば、目的のホテルまで5分。あまりの雨量に、裸足になってしまう若い女性さえいる程。買ったばかりのトレッキングシューズは快適さを十分保っていたし、ちょっと高かったトレッキング用のジャケットも申し分ない活躍ぶりを発揮していた。それでも、いかに山歩きに慣れているとは言え、この雨の中、母を連れ回すことは憚れた。傘を持ってくれば、雨が降ることを予測しているようで、旅行の際には持ち物リストから外していたが、止むどころか、どんどんと雨脚が強くなっている様子に、一本ぐらいちょいと入れてくれば良かったと、後悔することしきり。

ホテルまで、もう少しの距離であることは分かっていた。ここは思い切ってホテルに着いてしまい、部屋でくつろいだ方が得策ではあるまいか。少しずつ軒下を変え、ホテルに向かう。


今回の旅で一番宿泊費を倹約したホテルだったが、濡れそぼったジャケットと靴で入っても気兼ねなく、大きなベッドはスプリングもしっかりとしていて快適だった。探検と称して一人雨の中をホテルの近くを歩いてみたが、雨はやみそうになく、見つけたレストランもスノッブで高そうに思えた。こんなひどい雨の中を歩くよりは、スーパーで簡単に夕食を買って、明日に備えてホテルの部屋でのんびりするのも一案ではあった。ルツェルンでは、ケーブルカーでピラトゥス山頂まで行き、連なるアルプスの山々と美しい湖、牧歌的な谷が目の前に大パノラマとして広がる景色を堪能したかった。この雨では難しいだろう。母は母で、ルツェルの街自体に思いがあるようだった。

部屋に戻り、状況を報告し、幾つか夕食の案を出す。先ずは近くのスーパーで傘を買って、近くにあるレストランを幾つか覗いて決めようとなった。雨は未だしょぼしょぼとなってはいたが、降り続けている。先程雨宿りした一つのスーパーで折りたたみ傘を2本、ゲット。母が支払ってくれる。スイスは物価が高いと聞いてはいたが、随分と高い値段に驚いてしまう。さあ、傘を使おうか、そう思って外に出ると、どうだろう。雨が止んでいるではないか!






足取りも軽く、せっかくだからと先程雨が降りしきって上手く写真が撮れなかったルツェル湖の畔まで行ってみる。それからは、導かれたかのように地図も見ずに街を歩く。ああ、これがカペル橋。屋根のついた橋は真っ赤なゼラニウムで縁取られている。街を流れるロイス川にかかっているが、向こう岸と最短距離でつなぐ橋としての機能が求められておらず、橋の途中の塔から、なんとものんびりと、それぞれ対岸まで一直線に伸びている。14世紀の建築とか。












ロイス川にかかる別の橋を歩いていると、賑やかな歓声に包まれる。母の興奮した様子に、慌てて周囲を見渡すと、青年が泳いでいる。どうやら、橋の欄干から一回転宙返りをしてダイブしたらしい。その一部始終を見ていたという母。ここからのカペル橋の撮影に気を取られてしまって、パフォーマンスを見逃してしまったが、嬉しそうな母にこちらまで嬉しくなってしまう。スイスといったら、チーズフォンデュかラクレットを食べないと、と呪文のように唱えている母のリクエストに従い、小洒落た河畔のレストランに入り、チーズフォンデュを注文。










レストランを出ると、ロイス川が夕日に輝き、周囲の建物を鏡のように写し取っていて、立ち竦んでしまう。























旧市街の中をさまよい歩き、城壁の塔の一つに上り、ルツェルンの街を俯瞰。ようやくヨーロッパの夏の夜の帳が下り始めた。














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