「結局のところ、男って夢見るばかりで、女は現実的なのよね。夢を持つことは素晴らしいけれど、夢を見ているだけでは実現はしない。行動に移さないと。」
そう書いてしまってから、しまった、と思うも後の祭り。
相手は9千キロの彼方にいる初恋の彼。このところ、すっかり音信不通状態。厳密には、こちらから連絡を途絶えていた状態であった。最後の交信は年始の挨拶に遡ろうか。簡単な挨拶で済ませたくない間柄とのお互いに思い入れがあるから始末が悪い。ハローだけでは、物足りず、だからといって、事細かに今抱えている問題を報告し合う程、近距離にいるわけではない。いや、そもそも、20年以上も会っていない。しかも、こちらには報告する程の話はない。むしろ、根掘り葉掘り問われれば、正直に答えざるを得ず、そうしたら説教されるに決まっている。そんなことよりも、突き詰めれば、再会のときめきの可能性など皆無に等しいと悟ってから、どうも彼に対するテンションが下がってしまっていた。
それでも、時々、チャットが入る。ああ、元気にしているんだな、と確認し、返事もせずに放っておくと、また忘れた頃にチャットが入るといった感じであった。そして、アカウントのステータスは常にアイドル状態。「こちらは常に繋がっているから、何かあったら連絡を。」といったメッセージが隠されているようで、どうにも重たく感じていた。勿論、本当の理由なんて説明されたこともなく、相変わらず、こちらが勝手に解釈し、勝手に感じているだけに過ぎないことは分かっていた。
そして今回も、いつも通りの元気確認チャットが入る。
ここのところ何か思うように掴めず、若干投げやりな気分にもなっていて、それでいて、現状打破を焦燥感を持って願っており、「変化は自分から」との言葉が胸に突き刺さるように思われ、それでも右足と右手を一緒に出して歩ってしまっている様な変な感覚が続いていた。
9千キロ彼方の彼は元気なのだろうか。
「久しぶり。元気にしている?」そう打つと、連打で答えが返ってくる。
暫く、たわいない話をする。それから、再会を希求する言葉が連なり始める。
リッピサービスだ、なんて思わない。真摯さに欠けるとは決して言わない。でも、現実味を伴わず、どこか空疎で、そこに悲しみを見出してしまう。何度エアチケットを調べ、ホテルを探し、色々な再会の場を思い描いただろう。そうしてはっきりと分かったことがある。彼は国に全てを捧げており、24時間、時間的な拘束がある。そして、常にボディーガードに見守られ、プレイべートな時間などない。国外に旅行など考えられず、詳細なる計画を政府に提出し承認される必要があり、現実的に旅行などほぼ無理。辛うじて、相手国から正式な招待を受けてのミッションとなれば、国外に出られるが、その時には過密なスケジュールが待っている。分かってはいるが、つい、書いてしまった。
「いつ正式に遊びにおいでよって招待してくれるのかしら。」
「いつでも大歓迎だよ。ずうっと会いに来てくれるのを待っているよ。」
だから、誠実さが伴っていないのよ。嘘ばっかり。無理じゃない。
「ありがとう。でも、本当に私がそこに行ったら、困るでしょう。」
すると、これまたいつものことで、「なんとかするよ。シンガポールかバンコクあたりに行けたらいいんだけど。」
「公式ミッションで?」
「いや、違う。」
「そんなこと、できるの?」
「できたらいいと思っているよ。」
「退職するまで、そんな自由はないのかと思っていたわ。ねえ、じゃあ、私はあなたの国に行くよりも、東南アジアに行く方がいいのかしら。」
「いろんな選択肢を考えて、チャンスを待つ。」
その答えを聞いて、先程の言葉を書いてしまっていた。
「結局のところ、男って夢見るばかりで、女は現実的なのよね。夢を持つことは素晴らしいけれど、夢を見ているだけでは実現はしない。行動に移さないと。」
「君の言う通りだよ。」
一体、それがどんな意味なのか。どんな結果に繋がっていくのか。
一つ変わったこと。それは、彼のアカウントのステータスがアイドル状態ではなく、ログアウトの状態となったこと。
夢は実現させないと。
今、天空に放たれたその言葉が、確かな重みを持って戻ってくる。
行動せよ。
活力が腹の底から湧いてくる。
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