外に出ると銀の雨が降り始めていた。
息子バッタから滅多にお願いなどされないから、なんとか手に入れたいと思っていた。しかし、携帯のメッセージある製品名はちっともちんぷんかんぷんだった。
日本の秋葉原になら売っているものだよ。
そんなことを言われても、ここはパリ。
トランジスタIRFP250nにラジエーター、そしてDJトランス1503。
電気部品を販売している店など、どうやって見つけ出そうか。
幾つかの店に電話をするが、携帯電話の部品を扱っているだけと言われてしまう。漸くオフィスからも程遠くない場所に一つ、ちょっと離れているが郊外電車の駅なので帰宅前に寄るには好都合の店が一つ見つかる。
ダメ元で行ってみよう。
そうして早々とオフィスを出て夜の街に繰り出す。
雨の中を足早に歩きながら、変に胸騒ぎがした。これは、まるで先週の場所に向かっているのではないか。
雨脚はどんどん強くなる。借り手のいないうらぶれた店先に入って場所を確認する。どうやらもうちょっと先らしい。早いところその場所に行ってしまおうと思っていた。想像していたよりも歩くには遠く、そして、本当に先週歩いた場所に近づいていた。
ここを右かなと思って曲がるが、どうやら通りは暗い。店の前には鉄格子のシャッターが下りている。もう早々と店じまいをしてしまったのか。それとも店を畳んでしまったのか。電話をしなかったことが悔やまれた。
さあ、次の店に行かねば。
となると、確実に先週歩いた軌跡をたどることになる。
したたかに降る雨にぐっしょりとオーバーが濡れ、重くなってきていた。雨のせいで、うつむき加減になる視線を一層うつむかせて、さまよわせる。
ない。どこにも気配はない。
ふっと顔を上げる。
そうか。すっかりと銀の雨が洗い流してしまっていたのか。
ぬらぬらと濡れて黒やかな通りにノエルの青いイルミネーションが印象的な駅の入り口が見えてくる。思い切って入ると時間帯が違うからかすごい人混み。すっかりと名残さえもなくなっている中、足早に次の目的地に急ぐ。
振り返らずに。
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