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2023年8月28日月曜日

晩夏

 







一時思い出したかのように暑さがぶり返したが、それも二、三日のこと。すぐに朝は肌寒く、長袖のジャケットを羽織らずにはいられない日に戻ってしまった。通りでは子供たちの声が聞こえ出し、路上駐車の車の数も増えだした。バカンスも最後の週となり、月並みな表現とはなるが、正に光陰矢の如し。


この9月からフランスの理系エコールの最終学年となる末娘バッタ。単位互換制度を利用して、ダブルディグリーを目指すとかで、オランダのデルフトに旅立つ。そこでの大学院のディプロムを得るには二年間の就学が必須なので、留学期間は二年となる。日本での研修を終えて帰って来たばかりなのに、もう旅立つ準備をする彼女は、頼もしくもあり、消化不良にならないかと心配にもなり、親としては不安を抱かずにはいられない。


若さとは、そんなものなのかもしれない。新しいことに向かって突き進む時の高揚感。それが全ての原動力となり、自分の人生を切り拓いていくのである。大いに鼓舞激励せねばなるまい。大した相談もされずに一人で出発の日を決め、電車の切符を手配し、見送って欲しいとも言われてはいなかった。それでも前日になって、ここは盛大に送ってやれねばとの気持ちになり、会社がまだバカンスモードで仕事がフル稼働していないことをいいことに、急遽休みをとり、北駅まで見送ることにした。


オランダでは長女バッタが3年間、学生生活を送っている。北駅で彼女を見送ってから、もう7年になることに、月日の流れの早さを改めて感じてしまう。未だ20歳になっていない長女バッタを見送る時の悲壮感はない。ぱんぱんの大きなスーツケースに、彼女の姿を隠してしまう程のリュックを背負った22歳になった末娘バッタの姿は、頼もしい限り。


テロの関係で、以前はホームには乗客しかアクセスできなかったが、どうやら規制が緩んだのか、誰もが見送れるようになっている。末娘の車両は先頭近くで、プラットフォームのずうっと端だった。そこまで見送ってあげようかとも思ったが、雨が降り出したこともあって、ちょうど屋根が途切れたところで別れの挨拶をした。


いってらっしゃい!元気でね!風邪ひくんじゃないわよ。ちゃんと勉強してね。困ったことがあったら、いつでも連絡するのよ。それじゃあ、またね。びず!



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2023年8月20日日曜日

パパラッチ






日本での4ヶ月の研修を終えて帰ってくる末娘バッタを迎えに、空港に向かった。さすがにバカンスもそろそろ終盤のフランス。空港はバカンス帰りの人々でごった返している。COVIDで渡航が制限され、閑古鳥が鳴いていた2年前が嘘のよう。あれは、もう3年前になるのだろうか。


喉元過ぎればとは、よく言ったものだが、人間とは忘れることができるから、こうしてしぶとく生きて行けるのだろう。その意味では、お互い許し合って、妥協していくことは、生きていく上で、実に重要なことなのだろう。


最近は携帯の普及およびwifi環境の充実から、空港での出迎えも非常に楽になった。ドゴール空港の第2ターミナルはガラス張りなので、税関検査を終えて出てくる人々が見える仕組みになっている。ターンテーブルに荷物が出てくるのを待つ間、ガラス越しに再会の喜びを伝えることが出来る。


到着ゲートを挟んで、左右両方に同じだけの数と規模のターンテーブルが設置されているので、どちら側から出てくるのか見当を付けねばならない。思い込んで別の場所で待機して、出迎えの相手が既にゲートから出てしまったこともある。荷物を待っている人々の様子を観察し、日本からなのか、成田なのか、羽田なのか、判断しないとならない。


日本からの場合は比較的分かりやすいが、これが他国からの便となると、非常に分かりにくい。それが、最近は携帯で連絡を取り合うことで、間違いを防ぐことができる。


今回は、末娘バッタから、搭乗口がひどく混んでいたので、最後までのんびりと座りながら落ち着くのを待っていたが、待てど暮らせど混雑は収まらず、出発時刻ぎりぎりになってきたので焦ったところ、日本のラグビー代表チームと同じ便で、人込みはパパラッチだったことが分かり、慌てて乗り込んだとの情報を得ていた。どうやら彼女は最後から3番目の搭乗者だったとか。


しかし、パリではパパラッチらしき人々の姿は見られず、それが目印になる様子はなかった。それでも、ガラス越しに眺めていると、すこぶるガタイの良い人々の集団が目に入った。あっ!彼らに違いない。ターンテーブルで荷物が出てくるのを待っている様子だった。末娘バッタは未だ税関検査を終えていないので、彼らの方が先に出てくるであろうと推定した。


そこで、到着ゲートの真ん前に陣取り、いつでも写真撮影できる体制をとった。拍手をして歓迎しようか、とも思い始め、勝手に興奮してしまっていた。しかし、そんな人物は私一人。歓迎クルーも見当たらない。そういうものなのだろうか。ピンクの揃いのTシャツを着ている若者が数名、手持無沙汰気にカフェの前でたむろしていたが、彼らがそうなのだろうか。


そうこうしているうちに、ぱっとゲートが開かれ、満面の笑みを浮かべたグリーンのTシャツを着た末娘バッタが出て来た。思わず写真を撮ってしまう。照れくさそうな彼女。あはは。とんだパパラッチ。お帰り!



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2023年6月24日土曜日

仙人の落とし物




トンカと森の奥で散歩をしていた時、木の枝に鍵が引っかかっていることに気が付いた。見たところ家の鍵で、門扉用と思われるリモコンキーも付いていた。この辺はマウンテンバイクに乗ったサイクリストがいるので、彼らの一人が落としてしまったのだろうか。或いは、散歩やジョギングをしている時に誰かのポケットから落ちたのかもしれない。


近所の散歩仲間のグループで、時々「うっかりと鍵を失くしてしまったので、見つけた人は連絡を!」とか、「ハーネスを森に置いてきてしまったので、見た人は至急連絡されたし」とか、「リードを発見。広場のベンチの傍の木に掛けておいたので、心当たりのある方はピックアップしてね」といったメッセージが回覧されることがある。


我が家のバッタ達も、何度か鍵を失くしている。末娘バッタは高校最後の年に、最後の授業の日のお祭り騒ぎの時に、ちょっとリュックを校門の傍に置いておいた隙に、リュックごと何者かに盗まれてしまった。最初は仲間内のいたずら程度と思っていたらしいが、他にも同様に携帯やお財布を盗まれてしまった友達もいて、馬鹿なお祭り騒ぎをする高校生を狙った、ワルの仕業であるらしいことが分かった。


一緒にいた彼女の友達の場合は、アプリで位置情報を確認したところ、携帯が近くの郵便受けに入れられていたことが判明。カバンは、その近くのゴミ箱に捨てられていたらしい。


末娘バッタの場合は、リュックには家の鍵しか入れていなかったらしく、所有者を判別できる書類もなく、どこの家の鍵かも分からないのだから、利用価値無しと、せめて学校の近くにでも置き捨ててくれればありがたいと思ったものだが、それから数日、真っ青になって探す彼女からの朗報はなかった。それこそ、どこの家の鍵なのか分からないのだから、その鍵を使って侵入される可能性は皆無に等しかったので、仕方なしと諦めるしかなかった。


家の鍵を失くすこと程、困ることは無い。持ち主が家の前で立ち往生する姿が目に浮かび、心が痛んだ。なぜか、一人の若者がアパートの前で泣きそうになっているように思われてならなかった。せめて、独り住まいではなく、家族の誰かが家にいることを願わずにはいられなかった。


ひょっとしたら、散歩仲間の誰かかもしれない。そう思って、鍵の写真を撮り、忘れ物発見としてメッセージを送ってみた。


すると、仲間内の一人が「森の木々と語り合う仙人の落とし物に違いない」と書いてきた。


ふふふ。そうかもしれない。森は時に人を詩人にさせる。


さあ、トンカ、お待たせ。先に進もうか。仙人に出会えるかもしれないよ。



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2023年4月1日土曜日

旅立ちの日に

 





ネコヤナギが好きだった。あのビロードの艶やかな房が、なんの変哲もない枝からにょきりと出てくることが、摩訶不思議でならなかった。以前、道路の脇のあぜ道で、自由気ままに咲き誇っているネコヤナギの枝を失敬してきたことがある。庭の片隅に植えてみたが、残念なことに根付かなかった。


あれから、何度も同じ場所に行くのだが、刈り取られてしまったのか、ネコヤナギの姿を見かけることはなかった。


それが先日、長女バッタとトンカと午後の散歩を楽しんでいた際、小川のほとりに、それらしき枝を発見した。枝には幾つも、尖った芽の先が見え隠れし、銀色に輝いていた。ネコヤナギの季節にしては、ちょっと遅すぎはしないかと思ったが、今年は急に寒くなったり、暖かくなったり、そうかと思うと、また寒さがぶり返したりと、季節感が分かりにくい日々が続いていた。出遅れた枝があっても、いいではないか。


これから化けるぞとの生命感にあふれる枝を、申し訳ない、失敬しますよ、と手折る。トンカが眩しそうに見上げている。ふふふ。大切に持ち帰って、瓶に差して置いた。


毎日、膨らみの変化を楽しみながら、水を変えていたのだが、奇しくも長女バッタがフィレンツェに旅立つ朝、芽がぱっと出ていた。それはネコヤナギの房などではなく、黄緑色のやわらかな葉となるようだった。拍子抜けはしたが、却って愛おしく思われたことも事実。


長女バッタの旅立ちの日ということも、いいではないか。生命力あふれる、逞しい、その身体で、新たな挑戦に一人旅立っていく貴女。皆の期待なんか、かっ飛ばすぐらいの勢いで、大いに化けておくれ!


いってらっしゃい


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2023年1月28日土曜日

凡夫のつぶやき

 






長女バッタから、イタリアの研究機関の研究職のポストに採用されたと連絡が入った。彼女の研究分野では非常に注目されている機関らしく、大いに喜んでいる様子が手に取るように伝わった。採用を伝えるメールの一部を転送しての報告だったので読んでみると、満場一致の高得点で採用が決まった旨書かれていた。これまでの彼女の経歴は素晴らしく、インタビューで見せた深い洞察力と鋭い切り口での考察に皆が感心したとのこと。


振り返れば、三人の子供たちの中で、研究職になるなど一番思っていなかった。中学の頃に、夕食後半泣きで数学の問題が分からないと言ってきたことがあった。聞けば、明日が試験だという。実は、その夜、私自身やりたいことがあった。


ぱっと問題を見て、簡単に教えられる内容ではないと判断。寝不足になるよりは、しっかりと寝て、翌朝気持ちよく試験に臨むべきだと諭し、寝るように仕向けてしまった。なんと自己中心な母親だったのか。


翌日、改めて問題を一緒に取り組むことはなかったように思う。恐らく長女バッタは、ママには聞いても仕方がないと思ったのだろうし、私は私で、別のことで既に頭が一杯だったのだろう。大袈裟なようだが、これまでの人生の中で後悔していることの一つである。


それなのに、長女バッタは自分の力で多くの難題を解決し、困難を克服し、掃き溜めに鶴のごとく美しく、力強く育った。その彼女が羽ばたく時。


嗚呼、娘よ。母はあなたを誇らしく思います。


そして、同時にとても寂しくも思います。あなたの旅立ちを思うと、こんなにもおろおろとしてしまう、情けない母親です。高校卒業と同時に、スーツケース一つで海外に飛び立っていったあなた。世界中のだれよりも応援しているし、何かあれば、すぐさま駆けつけるからね。



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2022年11月9日水曜日

飛翔のとき

 




3匹のバッタ達、三人三様で驚くほどにそれぞれに性格が違う。ママは3人を深く愛しているが、彼らへの愛情は同じようで同じではない。親への愛と、子への愛の種類が違うように、子への愛も、子供一人一人違っていることは、極自然なことではないかと思う。愛とは対象が増える度に増え続けるものなのだから。


そして恐らくバッタ達は、皆それぞれ、ママからの愛情が自分の方がちょこっとだけ多いと感じ、他のきょうだいに対して申し訳ないなと思っているのではないか。いや、そうであって欲しいと願っている。


末娘バッタへの母親としての思いは、長女バッタ、息子バッタのそれに対して、かなり異なるものである。それは彼女の性格に起因しているし、その性格というものも、我が家の末っ子というポジションから大いに影響を受けていることも否めまい。


中学3年ぐらいまでは、顔一つママよりも背が高くなっていながらも、ママとずっと一緒に住むと言い張っていたのが、高校3年になった頃には、私は一人でやっていくから、ママはママの好きなことをして自分の人生を楽しんでね、などと大人びたことを言ったものだった。


彼女の高校卒業を機に、子供達はしっかりと自立し、親がいなくても十分に我が道を切り拓いていける力を有していると判断し、これからは日本の実家の力になれるものならなろうと、日本に戻り、人生の新たな展開を試みた。


しかし、フランスにいる子供達こそが自分にとっての大切な家族ではないか、と目を覚ますに至り、今がある。そのきっかけを作ったのは、末娘バッタだった。その割には、週末やバカンス中でも、あまり家には帰ってこない。帰ってきても、すぐに友達と会う約束をとりつけ、家を空けることが多いのも、彼女ならではのこと。


しかし、それこそが彼女らしいではあるまいか。若さならではの根拠なき自信に満ち溢れ、常に仲間から必要とされ、仲間を必要とし、明るく、ほがらかで、好奇心に満ち溢れ、向学心に燃えている。そんな彼女の笑顔を、しっかりと支え、見守り続け、いつでも必要な時に帰ってこれる場所であることが、親の務めであろう。


21歳のお誕生日おめでとう。

さあ、どんどんと力強く思う存分羽ばたいていってね。ママはいつだって応援している。


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2022年11月4日金曜日

雑草の魂を秘めて

 




第一子ということで親が特に手塩に掛けて育て、幼稚園、小学校、中学校、高校とあらゆる節目で親子ともども大騒ぎし、誕生会から始まり、お泊り会、お友達とのプチ旅行、そして、フェット、ガラと続いて行く社交イベントの度に、親も一緒にどきまぎしてプレゼントを用意したり、洋服を新調したり、ハイヒールを購入したりする。


つい親が先回りをして色々と準備をしてしまうので、どちらかと言えばのほほんとした気性になりがちで、おおらかでのんびり屋さん。


それが正しく第一子の運命ではなかろうか。しかし、それこそ運命とは分からぬもので、色々なところで落とし穴や地雷が潜んでいて、波乱万丈となるのが常。長女バッタに至っては、そうなのだろうなとつくづく思ってしまう。


何不自由なく育ち、お嬢さん街道まっしぐらであった筈なのに、小学生の低学年にして親が離婚し二つ下の弟と四つ下の妹を連れて、隔週の週末にはパパの家庭にボストンバックを抱えて行くことになるのだから。嫌がろうと、ママと一緒に残っていたいと主張しようと、問答無用で連れ出される。二ヶ月ごとの学校のバカンスも然り。期間の半分はパパのところ。


気が付いたら、10歳下の弟も加わり、4人きょうだいのしんがりを務めることになっていた、といったところだろう。ヌヌ(ベビーシッター)の時代を経て、朝起きて学校に行くまで、そして、学校から帰って来てママが夜帰ってくるまで、自分だって幼いのに、幼い弟と妹を上手に御し、家の鍵を預かっていたのだから、大したものである。


従い、中学生になり、背も大きくなり、体力だって勝るであろう息子バッタに恐れられる存在になったのも、むべなるかな。ムードメーカー、影の番長、そんな存在にのし上がっていった。


彼女が企画するイベントは数知れず、上手に仲間を引き連れてしまう。今年に入ってからは、研究室の仲間たちとイタリアでの学会に乗り込んだり、南仏で勉強会合宿をしたかと思えば、ヴァンセンヌの森でのハーフマラソンに皆で参加したり、モンマルトルの丘を走りぬくイベントに参加したりしている。


ばらばらの地で生活している4人のきょうだい達に声を掛けて、週に一回のきょうだいコールを実施しているのも、彼女ならではのもの。ひとえにパパの努力の賜物と、ここは素直に脱帽するところだが、異母きょうだい達はいたって仲が良く、純粋に「きょうだい」という絆で結ばれていて、結束力は抜群である。それを上手に支えているのが、しんがりの長女バッタ、といったことろか。


博士課程の二年目で、今年は経済を専攻する大学一年生に数学を教えているというから驚いてしまう。長女バッタが数学を大学生に!彼女の中学時代の数学の教師が知ったら、あまりに驚いて椅子から転がってしまうのではあるまいか。


そんな彼女の25回目の誕生日。

誕生日おめでとう。明るく、ほがらかで、雑草の魂を秘めながら、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!

これからも堂々と我が道を突き進め!その道に幸多からんことを!



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2022年9月24日土曜日

ツキを戻す!

 





通常サイレントモードにしている携帯に、誰かから電話が入っていたことが表示されていた。仕事中ではあるものの、一応確認をせねばとチェックしてみると、相手は末娘バッタ。


どうしたのだろう。メッセージではなく電話。週末は学校の別のキャンパスに行くといっていたが、何か問題が生じたのだろうか。慌てて電話をしてみるが、案の定通じない。彼女も携帯をサイレントモードにしていることが多く、電話を掛けて一発でつながった試しがない程。まあ、大した問題ではないのかもしれない、と思っている時に、彼女の方から電話が掛かってくる。


「ママ、運転免許合格したよ!」


威勢の良い声が鳴り響く。おめでとう!「風邪を引いていて体調は最悪だったし、ずっと忙しかったから無理かと思っていたのだけど、満点だったんだよ!嬉しいっ!」


彼女にとって二度目の挑戦だった。運の悪いことに彼女が登録していた自動車学校が倒産し、他の学校にたらい回しされ、漸くしっかりとしたモニターと出会ったかと思いきや、末娘バッタ自身がコンクールなどで忙しくなり、そうこうしているうちに、今度はそのモニターが引退宣言をし、別の学校を探さねばならくなるなど、最初に学科試験に合格してから随分と時間が経ってしまっていた。


慌てて夏前に試験を受けさせてもらったが、今度は彼女の準備不足で、試験場に持参する資料を夜中まで探したり、大学の期末試験の日とバッティングし、アクロバティックな時間割で双方に特別に配慮してもらったりしたにも関わらず、焦りか、疲れか、試験官の意図するメッセージをつかみきれずに、試験途中で既にアウト。


試験の前には家族全員に連絡をしており、皆から応援メッセージをもらっていたが、残念な結果に。免許取得を目指してから随分と時間が経っていることもあり、本人もすっかりしょげてしまい、もう無理かもしれない、と弱音を吐き始めてしまっていた。


落ち込む彼女に、たかが運転免許じゃない、と諭したのは、この夏のこと。


たかが運転免許、されど運転免許。周囲の友達の多くが取得し、楽しそうに運転している様子に、自己嫌悪を抱いてもおかしくない環境ではある。


今回は、誰にも試験の日を告げず、大騒ぎをして結果を待つこともなく、自分なりにしっかりと試験に臨んだと思われる様子に、末娘バッタの成長をみた。大袈裟ながら「臥薪嘗胆」の精神を、会得したのではないかとさえ思ってしまう。


さあ、そうやってツキを戻し、あらゆることに果敢に挑戦していくのだよ。

おめでとう。



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2022年6月24日金曜日

真夜中のメッセージ

 






夜中、暑苦しいわけでもないだろうのに、目が覚めてしまった。どうやら珍しく蚊がいたようで、腕や足が痒い。気休めとは思いつつも、洗面所に歯磨き粉を取りに行き、ペーストを少しだけ部屋のランプの台に塗り付ける。こんなことなら、就寝前にしておくべきだったな。


そして、ふと携帯を手にしてしまう。夜中に携帯を見ることは良くない、とは知りつつも、ついつい見てしまう。そして、ニュースやら、メッセージ、時には動画さえも見てしまう。


と、その日は末娘バッタからのメッセージが入っていた。しかも、今さっきもらったばかり。機内モードにしていたので、時刻はオンにした時のものなのかとも思うが、いやそうでもなさそう。


漸く年度末の試験が終わったからと、友人の引っ越しを手伝ってパリに行っている筈だった。恐らく、羽目を外してパリの暮れない夜を楽しむんだろうと思っていたが、どうもそうもいかなかったらしい。セーヌ川沿いを歩いていて、おっちょこちょいにも躓いて小さな五寸釘に腕をひっかけ、かなり出血したらしい。


友人のアパートで消毒してもらったものの、一応見てもらおうと行った近所の薬局で、かなり傷が深いので救急病院で縫ってもらった方が良いとのアドバイスをもらう。そこで慌てて最寄りの救急病院に向かうも、気温も穏やかな中々暮れない夜のことで、緊急患者がひっきりなしに救急車で運ばれてきて、末娘バッタの傷は深く、縫合処置をすることになったものの、優先順位が低く、後回しになってしまっている、とのことだった。


一瞬にして目が覚め、のろのろとしていた思考回路がフル回転する。パリだからなのではないか。今から迎えに行って、こちらの田舎の病院で診てもらってはどうだろう。そうメッセージを送ってやると、大丈夫とのこと。


大丈夫、か。


せっかくのバカンスの第一日目にケチがついてしまったが、バカンスの日で良かったと思わねばなるまい。試験に臨めなかった日には、泣いても泣ききれまい。結局朝まで一睡もできずに、待合室で声を掛けられるのを待っていたとか。いやはや。


掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 

筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等

諸々の禍事 罪 穢 有らむをば 

祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと 

恐み恐みも白す



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2022年6月19日日曜日

猛暑に熱々のクミンの香り豊かなブリックを頬張る

 




末娘バッタが週末に帰ってくるなり、ブリックが食べたいとリクエストする。この暑さの中で、ブリック?と思わなくもないが、食事のリクエスト程嬉しいものはなく、いつだって張り切ってしまう。


息子バッタだと、こうはいかない。何故か彼はママに遠慮するのか、ママが作るものなら何でも美味しいという、いわば、どうでもいいよとのメッセージに受け取りかねない姿勢を貫く。それは彼の優しさであって、実は何を作ろうかと既にアイディアがあって、材料も揃っている場合が往々にしてあるので、それであれば料理人の意思を尊重する、というもの。


長女バッタは、やや複雑。時々菜食主義者になってみたり、お腹の調子が悪いからとスキップしたりする。好き嫌いはないし、のんびりマイペースで食べるが、ちゃんと美味しく食べてくれるので問題はないが、料理の相談をするには、なんとなく物足りなさを感じてしまう。


だから、末娘バッタが好き勝手なことを言ってくれると、料理人としては嬉しくてしょうがない。


しかし、猛暑の中、煮えたぎったような熱風が入らないようにと窓を閉め切っているのに、火に油を注ぐかのようにブリックを作るとは。まあ、チュニジアの眩しい太陽の光に思いを馳せ、乾燥した空気と真っ青な空を思い描いて、クミンの香りをたっぷりと効かせて作ろうではないか。


先ずジャガイモを茹で、その間に玉ねぎをみじん切りにする。マッシュポテトを作り、ツナ缶をほぐし入れ、塩コショウ、そしてクミンをたっぷりと入れる。せっかくだからと、マッシュルームのみじん切りもたっぷり入れる。


ブリックの皮に円くおき、真ん中に卵をそっと割り落とす。皮を二つ折りにし、水溶き小麦粉で回りをしめらせ、封をする。うっかりしていたが、我が家にはオリーブのエクストラバージンしか置いていない。勿体ないとの思いが過るが、ままよ。たっぷりと鍋にとり、オイルを熱し、そこにするりとブリックを滑りこませる。じゅわじゅわと心地よい音が聞こえて、暑い中にも香ばしさでキッチンが豊かな楽しさに溢れ始める。


目を丸くして、固唾を飲んで末娘バッタと息子バッタがブリックが揚がる様子を見ている。卵に十分火が通り、それでも半熟の状態が理想。相変わらずの欲張りで、ポテトの量が多かったかもしれないが、なかなかどうして美味しそうじゃないか。


さあ、熱いところを食べてちょうだい。ボナペティ!



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2022年6月8日水曜日

お好み焼きの夕べ

 







ママ、あのね。


トンカを一日面倒を見てくれた末娘バッタが、夕食に彼女の大好きなトロロ芋を摺りながら、とつとつと話を始めた。


冷蔵庫には鶏のモモ肉、ダチョウの胸肉、前日の海老とキノコのリゾットが眠っていたが、お好み焼きが食べたいと言うリクエストに応え、もう暫くは眠ってもらうことにする。キャベツの千切りをし、意外に美味しい繋ぎとなるズッキーニを削る。卵は一つでいいかしら。


キッチンの小さな空間を一緒に肩を並べて、いや、彼女の方が頭一つ以上大きいのだが、Yuvuzela亭のアレンジで特別に美味しくなれとお好み焼きの準備を一緒にしながら、彼女の話を聞いた。


恐らくパパとママとでバカンスの期間を分けていたことに由来するのだろうか。ぎりぎりまで日本に行っていて、帰って来たその足でパパとブルターニュに行くこともあった。むしろ、それが当たり前の様に、ブルターニュから帰って来た翌朝にはイギリスに出発していたり、とにかく時間の有効利用と言えば言葉はよいが、ぱつんぱつんのスケジュールで走って来た。


だからか、末娘バッタはいつだって幾つもの予定を同時に抱えている。子供の頃も友達の誕生パーティーの梯子を提案したのも確か彼女だった。今はパーティーの梯子など、当然のことのようにしているのだろう。分刻みの生活。この間の私とのブルターニュ行きも、帰って来たその夜にはノルマンディーの友人とのキャンプに出掛けていた。そして戻ったかと思ったら、今度はトライアスロン大会にと出掛けて行き、そのまま新学期を迎えていた。


大学生活も、同時に別の大学で単位を取得し、ディプロムを獲得するように頑張ったり、そうかと思うと中学生に日本語を教えてみたり、自治会選挙に出たり、スポーツイベント企画をしたりと、いつ自分の机でしっかりと勉強をする時間があるのか、正直謎だった。


人間は平等に一日24時間しか与えられていない。


ふと、我が身を振り返り、似ているな、と苦笑してしまう。そんな生活が続くわけがなく、どこかで破綻してしまう。しかし、誰かに指摘されても、むしろ反発するだけで自覚しないことには改善できないので、質が悪い。


トンカと一日を過ごして、少しは落ち着いて考えることができたのだろうか。これまでのぱつんぱつんの夢計画の一つを少し考えなおしたい、と告げられた。そう焦らずとも、後二年後にチャレンジしても良いのかと思った、と。


親が自分の夢を子に託しているのではないか、そんな過ちを犯してはいないか、と自戒していたが、彼女は自分で考え、自分の言葉で、自分の夢として語ってくれていることに、心から嬉しく思う。


そうだよね、ママも賛成よ。


肩の荷が下りたのか、すっきりとした笑顔が戻って来た。そして、どんどんと強いエネルギーがあふれんばかりの笑顔にと広がっていく。その夜のお好み焼きが格別に美味しかったことは言うまでもない。



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2022年6月2日木曜日

酔いしれて

 





ピンクの芍薬の硬い蕾が、どんどんと膨らみ大輪の花となって香気を放っている。長女バッタが通っていたダンス教室の隣の花屋さんで、毎年芍薬の花束を買ってきてくれて、もう何年になるだろう。


初めて彼女から花束を受け取った時は、あまりに幼く、ダンス教室にピックアップしに行ってくれた友人が気を利かせて買ってくれたのかと勘違いをしてしまったことを、今でも恥じている。小学生がお小遣いを手に、花屋さんに一人で行って花束を買うなんて想像だにしなかった。


先日、知り合いがFBに、母の日を悲しく過ごす人々、というテーマで記事をアップしていた。子宝に恵まれない人、晩婚で妊娠適齢期を過ぎてしまった人、子供を事故で亡くしてしまった人、など10ぐらいあったろうか。


ノエルを悲しく過ごす時がある自分を思い、母の日を悲しく過ごす人々の存在に思いを馳せる。


3人のバッタ達を授かったことに深く感謝し、エレガントで甘い芍薬の香りに酔いしれる。




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2022年5月11日水曜日

末娘バッタの信念

 







エスカラッド、いわゆるロッククライミングをしているかと思えば、キャンパスからエッフェル塔までの早朝マラソンに参加したり、大学対抗バドミントン大会に出場したりと、何かとスポーティーな、いや、かなり体育会系の学生生活を満喫している末娘バッタ。今度はレッド、つまりマルチスポーツイベントに参加をするという。


レッドはトライアスロンをイメージすれば分かりやすいだろうか。二人でチームとなり、一人が自転車、相方がその脇でランニング。交代しながら進んでいく。カヌーあり、泳ぎあり、とコースによって様々。前回、キャンパスからエッフェル塔までマラソンした仲間の一人から声が掛かったという。


へー、すごいねえ。場所はどこなの?自転車は自分たちで調達するの?何人ぐらいがエントリーしているの?


矢継ぎ早に質問を投げかけるが、末娘バッタは相変わらず至ってマイペース。詳細は分からない、という。分からないのではなくて、調べればわかるのだが、今は面倒くさいので、取り敢えず無難な答えをするといったところ。まったく誠実さに欠ける、が、これが彼女のキャラ。


しかし、週末に行われ、金曜の夜から現地入りをし、二日間にわたって競技が行われるという。宿泊施設はどうなるの?また、質問をしてしまう。


ああ、テント買わなきゃ。


ふーん。その友達は持っていないの?


ん?ああ、マルタン?持っていないよ。


あ?相手って、男性なの?


そうだよ。マルタンに誘われたって最初っから言っているじゃない。


まさか、男性とチームを組むとは思わなかった。体力も持久力も全く違うだろう。それで彼はいいのか。いや、それより、彼と一緒のテントに寝るのか?


ママ、ただの友達。なに心配しているの?


ちょっと待ってよ。それでなくともテントは小さいんだから、その狭い空間に若い男女が二人だけで寝るって、ちょっと、大丈夫なの?ちゃんと考えたの?


母親の心配など、どこ吹く風の末娘バッタ。彼女の奔放な意見に、これまで何度も度肝を抜かれているが、さすが二十歳の大切な娘をそうおいおいとオオカミに手渡すわけにはいかない。


議論は堂々巡りをするだけ。仕方がないので息子バッタに加勢してもらう。彼に事情を説明すると、リスクはできるだけ回避すべきとの意見がでる。そう、当たり前ではないか。


釈然としない末娘バッタ。まあ、後は本人が決めるだけだが、一人ずつのテントを二つ持っていけば良いだけのことではないか、と思ってしまう。さあ、どうするのか。


一週間後、マルタンに確認したが、本人は全くそんな気はないので心配無用と答えたし、周囲の友達に意見を聞いたが、イベントに参加するのは男性が多く、後はカップル同士。なので、男性ばかりのテントの中に、一人だけ女性がテントで寝ることと、知っている男友達と一緒のテントで寝るのとでは、どちらが安全か考えてみると良い、と言われたらしい。


おい、おい、おい。


かくして、意気揚々と二人用のテントをスポーツ専門店で買い、現地入りした末娘バッタ。マルタンと二人の写真が時々送られてきて実況中継をしてくれるが、自転車とランニングの場所ではマルタンが完走してくれて助かったとか、道に迷って10キロもロスしてしまったとか、大変ながらも楽しそう。


これでは、若者たちは、疲れていて何も考えずにバタンキューの世界か。


翌日も疲れた体に鞭打って、二人で仲良くゴールインしたらしい。お疲れ様。こうして、末娘バッタは自分の信念を貫き通し、友情を確かめ合い、更に仲間を増やしていく。あっぱれなこと!まったく、若さとは素晴らしい!彼らの未来に乾杯!



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2022年5月8日日曜日

海の申し子

 






山と海とどちらが好き?


幼い時から頻繁に問いかけられ、その度に真剣に考えてきた難問。


山は身近だった。だからこそ、海に憧れたものだった。浜辺に行くと自然と走り出し、いつの間にか大声で笑っている自分に気が付き、不思議に思ったことがある。砂浜を走らなくなったのは、大人になってからだろうか。海の中にいるだけで幸せだった。


一方、だからといって山の魅力は捨てがたい。緑の風が吹き、鳥たちが囀り、険しい山道を上り詰めた先にある開けた景観の素晴らしさは何ものにも勝る。滝の流れもいつまで見ていても飽きない。山があるから、登ろうと思い、挑み、頂上に達した時の満足感は言葉にならない程である。


トンカはどうだろう。森の中で、生き生きと飛び跳ねるトンカだったが、潮の香りに敏感に反応し、海岸線上の細い小径をややもすると大海原に落ちかけない勢いで飛び回り、砂浜を大喜びで転がりまわる。掘っても、掘っても、砂しか出てこない砂浜で、嬉々として延々と掘り続けるトンカ。カリカリに乾燥した海藻の根っこを、両手で上手に押さえながらがりがりと嬉しそうに齧るトンカ。


正に、海の申し子ではあるまいか。





トンカのそんな様子に、まるで自分を重ねるかの様に満足そうな末娘バッタ。二人はまるできょうだいの様。いや、きょうだいなのか。



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2022年5月3日火曜日

末娘バッタとトンカとの珍道中

 




末娘バッタが試験明けの休みに、パピーに会いに島に行くと言う。長女バッタはパパ達家族とロンドンに行く予定にしていたし、息子バッタは研修が始まったばかりで、休みは取れなかった。ママ、一緒にどう?


そうね、じゃあ車で行こうか。週末前に二日休みを取って、4日間で往復しよう。車で行くなら、トンカのママにもせっかくなら会ってこようよ。


とんとん拍子に話は進んだ。トンカのママ、ウシュカのご家庭への連絡は末娘バッタが担当することになったが、残念なことに彼女の友人は試験明けで両親のいるモロッコに行ってしまっていた。彼女のマミーに連絡をすると、大喜びで歓迎するとの返事がすぐに返って来た。


島にパピーに会いに行くことが主目的なので、末娘バッタの友人がいなくとも、トンカのママのウシュカと友人のパピーとマミーに会いに立ち寄ることに決定。後は、トンカが5時間の車での移動をいかに快適に過ごすかに問題の焦点は移った。まあ、なるようにしかなるまい。


早朝に立ちたかったが、末娘バッタが午前中にどうしても外せない用事があるというので、11時の出発に決定。ご飯を炊いて海苔巻きを作り、トンカを1時間程度の森の散歩に連れ出し、のんびりと出発しよう。そう思っていた矢先、長女バッタからメッセージが入る。


ロンドンに行くには、身分証明書だけではなく、パスポートが必要だったの!ママ達はいつ出発予定?


しっかり者のようで、おっちょこちょいの長女バッタ。北駅の改札で思いつかないだけでも、良しとするか。聞けば夕方のユーロスターを予約しているという。それなら、朝取りにくれば、ママ達はまだいるわよ。でも、駅まではいろいろ準備があるから行けないから、よろしくね。


そう言ってやると、いろいろ準備って何よ?と返事。大統領選挙の時には、パリのパパの家の選挙区で登録しているからと、やはり身分証明書を忘れた彼女に、駅まで渡しに行ってあげていた。やれやれ。バスを使っても、往復小一時間はかかってしまうだろうか。トンカの散歩の時間を少なめにすれば良いだけのこと。車でパスポートを持って行ってあげよう。


いつも週に一回はトンカと一緒に家にいて仕事をしてくれているのだから、これぐらいのサービスはしてあげないと。


以前だったら、予定を狂わされるような横やりが入ると、非常に機嫌が悪くなったものだが、予定といっても適当なもの。ウシュカに会いに行く時間だって、トンカとの道中でハプニングがあれば、遅くなってしまうだろう。まあ、これぐらい、いいじゃないか。それよりも、どうだろう、この晴天!久々の小旅行に心がうきうきとしてしまう。こうして、末娘バッタ、トンカとの珍道中が幕を開けた。



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2022年1月3日月曜日

できる女はDIYがお得意

 





こんなタイトルにしてしまったら、今ではジェンダー平等の精神に反するとか、言われてしまうのだろうか。まあ、ここはクッカバラが好きに囀る場なのだし、ポイントは全く違うところにあるのだから、このままにしておこう。


母の本棚にあった本のタイトル、「聡明な女は料理がうまい」。確か赤毛のアンシリーズやスタインベックの「怒りの葡萄」、バルザックの「谷間の百合」と一緒に並べてあって、いやに存在感があったことを覚えている。中学生時代の単純な私は、聡明になるためには料理をしなきゃとばかりに、夏休みには毎日一品を作っていた。もともと台所にいることが好きで、母が料理をしている時には必ず傍にいて、手伝いたがったものだった。


料理がうまい人間がすべて聡明ではないことは自明なのだが、そんなことは生意気な中学生には問題ではなかった。


二番煎じはいただけないとは分かりつつも、この「聡明な女は料理がうまい」のタイトルをもじって、「できる女はDIYがお得意」と宣言したくなってしまう。


が我が家のソファーカバーを型紙から起こして、選んだ生地を裁断し、2、3日で縫い上げてしまったことは以前ここでも紹介したが、なんだかそのDNAを色濃く受け継いでいる様子なのが長女バッタ。


食器洗浄機の取り付け(排水、注水といった水回りを含めて)、シャッターの巻き上げ修繕、暖房機の修繕、とにかく何でも手掛けてしまう。つい先日もトイレの水タンクの調子がどうもおかしいと分解し始め、ゴムのバルブの調整をし、必要な部品を買い求め、さっさと修理してしまったのだから、舌を巻く。本当に関心してしまう。


最近は何でもYouTubeで丁寧に説明をしている動画があるので、DIYの対象幅も実施する層も広がっている気がする。そのうちに、庭の片隅に放置されているおんぼろ小屋を使えるように改修するかもしれない。その気になるように、ちょっと仕向けてみようか。



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2021年12月16日木曜日

まさかのまさか

 





勝負カットならぬ決断カットをしてもらおう。そう思い立ってヘアサロンに予約の電話を入れる。新緑が眩しい頃に出会ったヘアサロン。カットが素敵と末娘バッタに好評で、その後彼女自身もカットしに行っているので、お世辞ではなく本物。しかも、娘がママと一緒のヘアサロンに行くって、ママとしてもちょっと嬉しいではないか。


ところが、末娘バッタらしいというか、お財布を忘れて行ってしまったと後で聞いて呆れてしまった。翌日彼女が行けそうにないのなら、ママが行くから遠慮なく言ってね、と伝えていたが、何とか都合をつけて夕方支払いに行ったらしい。もう夏のことだから、記憶はおぼろげになってしまっている。


ガラス扉を開けてサロンに入ると、カットをしてくれる女性が私を認めて嬉しそうに笑顔で迎えてくれる。もう半年近い前のことなので、さすがに覚えてはいないだろう。それでも、娘がお財布を忘れてしまい、ご迷惑をかけたことをお詫びすると、遠くを見つめるようにして、破顔する。よくあることですよ、気にしないでくださいね、と。


勝負カットならぬ決断カットをして欲しい旨伝え、どんな風にカットしていくかを相談する。


小さめの鋏を丁寧に、細かく、俊敏に使って、気持ちよくカットしてもらいながら、やっぱりここに来て正解だったなと思う。髪の毛一本一本が喜んでいる。


決断カットと言ったからか、開運メイクについて話しをしてくれる。特に眉毛が決め手になるとのこと。額を出して、三つめの目を隠さないことがポイントだとか。


なるほどねぇ、と感心しながら聞いているうちに、5歳は優に若返ったと思われる自分自身が鏡に現れる。


よしっ!決断カット完成。大いに満足し、お礼を言って支払いをしようとカードを探した途端、しまった!ハンドバッグを置いてきてしまったことに気が付く。なんとなんとなんと!末娘バッタと同じ過ちをしてしまうなんて。しかも置いてきた場所は、翌日にならないと行くことは出来ない。ハンドバックにはお財布はもちろん、パスポートも身分証明書、運転免許書まで入っている。


あちゃあ。


決断ねえ。勇ましいことを言っているけど、脇が甘いってことかしら。颯爽と出ていくところ、サロンには平謝りに謝って、出てくる。末娘バッタのこと、もう何も言えまい。


実は後日談があって、すぐには支払いに行けない私に代わって、なんと近くで講義があるからと息子バッタが自分のカードで支払いに行ってくれた。ちょっと情けない母親。息子よ、ありがとう。慌てて彼の口座に銀行振り込みをする。「ママ、カット代、結構高いんだね。しかも、こんな遠いところまで、わざわざ来るんだ。」息子バッタの声が耳に残る。それもそのはず。うるさい彼のヘアカットは長女バッタか私が担当するから、散髪代とは無縁の男なのだから。


さあ、改めて身を引き締めて参りましょうか。多くの方への感謝の気持ちを忘れずに!



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2021年11月18日木曜日

柚子ピールで深まる秋を堪能

 






ママ、おみやげよ。


友達と会うと言ってパリに行って帰って来た長女バッタが、掌にちょうど収まる大きさの、黄色い蜜柑を手渡してくれる。


あら、柚子ね。


ひんやりとした感触が手に心地よく、柔らかい黄色い皮からは、独特の爽やかな香りが放たれている。


柚子のおみやげなんて、なんて粋なことをするのか。



柚子の皮が入った土瓶蒸しや茶わん蒸しを想像し、松茸の季節であることに思いを馳せる。


幼い頃に、この柚子の「柚」の字を私の名前に使おうと一時考えたものの、当時は人名用漢字なるものが存在し、当用漢字として認定されていない漢字は新生児の名に用いることができないと戸籍法に定められていたので、断念したと聞いている。私自身は、私の名前に使われている漢字をいたく気に入ってはいるが、その話を聞いて以来、「柚」には何か親しみを感じている。


そのことを知ってか知らずか、今回の思いもよらない長女バッタのおみやげに、にんまりと悦に入ってしまう。


さて、どう美味しくいただこうか。


柚子の香りをしっかりと味わえる、ピールはどうかしら。


可愛らしい柚子の実を丁寧に水で洗い、皮を四つ割りにして一晩水に浸しておく。翌日、柔らかくなった皮の白い綿の部分をゆっくりと皮を壊さないように削り落とす。薄くなった皮を鍋に入れ、ひたひたの水入れ沸騰させる。綺麗な黄色に染まった湯を流し、新たにひたひたになるぐらいの水を入れ、加熱。これを2回繰り返し、最後は皮の3割程度の砂糖を入れて煮詰める。シロップが飴状になって皮に付くようになって、漸く火を切り、ベーキングペーパーの上で乾燥させる。この時に細く切っておく。十分乾燥したところで、改めて砂糖をまぶして出来上がり。


深まる秋にぴったりの柚子ピールはいかが。

おひとつ、どうぞ。



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2021年11月9日火曜日

二十歳になった貴女に

 





ぽかぽかの小春日和の日だったよ。のんびりといつもの定期検診に歩いて行ったら、診察してくれた看護婦さんに、通りで産むつもりだったのかと怒られたっけ。そう、貴女はのんびりと、それでいて着実に、ママのお腹から順調に出てきてくれた。


ちっとも手のかからない赤ちゃんで、いつでも良く寝てくれていた。4つ上のお姉ちゃんと、2つ上のお兄ちゃんがにぎやかで、彼らと大騒ぎをしている時は、貴女が大人しく寝てくれていることに、とても感謝していたけど、一歳の誕生日を迎えても一向に歩く様子を見せないので、それはそれで心配もしたもの。


貴女が一歳半の頃、日本からマミーが来てくれて随分と貴女と遊んでくれたっけ。マミーが帰ったその日に、突然サロンをだっと走り出した時には、ママは本当にびっくりしたのよ。


あの頃は二歳になった貴女のお兄ちゃんがやんちゃで、とにかく大変だったの。だから、ママはいつでもお兄ちゃんの名前を呼んで怒ってばかりいたっけ。だからなのか、貴女が初めて発した言葉は、お兄ちゃんの名前だったのよ。驚きよね。


その割には、大好きなミルク、大好きなご飯、大好きなヨーグルトは全て「白いの」で済ませていたのよ。言葉の詳細にこだわるお兄ちゃんとは正反対で、集合体の名称で呼ぶのだから、面白いよね。ちゃんと色を識別し、同じグループにいれていることには、感心してしまうけれど。他にも、集合体の名称を使っていたけど、それが何であったか、もう忘れてしまったわ。


本当に貴女はびっくり玉手箱だった。一人の世界を楽しむタイプで、鏡に向かって何時間でもおしゃべりをしていることがあったり、みんなでおしゃべりをしている時に、一人だけ違う世界にいる様子だったりしたのよ。


フランスで生まれて、フランスで育って、フランスの学校に通うっているのに、何故かフランス語に対して外国人のように接していたよね。敏感にママの様子を察知して、ママと同じになりたかったのかな。貴女はそういう意味では精神面で本当に努力した。


毎年夏に行っていた日本の学校では、いつもたくさんの友達が出来て、お手紙をもらってきてはママをびっくりさせた。我が家では一番のべべだったのに、いつの間にか学校では大勢のお友達が貴女を頼りにし、気が付いたら毎年級長を務めていたよね。フランスの学校の級長はクラスメートの成績会議にも出席するのだから、びっくりしてしまう。成績会議の日には遅くに帰って来て、それから遅くまでクラスメートに電話を掛けたり、相談に乗ってあげていたっけね。


貴女にとって、仲間が重要になってきて、仲間と過ごす時間が増えていった。週末やバカンスになると、勉強している以外は、常に外に飛び出して仲間たちと会う。


ママは本当に二年前には分からなかったけれど、貴女のおかげで今はちゃんと分かることができた。外に飛び出して行く子供たちが、ちょっとした時、帰ることができる場所こそが家庭であり、家族なんだよね。


世界地図を片手に、どこにでも簡単に行ける時代ではなくなってしまった今、ママは貴女たちがいつでも帰ることができる場所にいることにしたよ。それが親の務めだと思うし、そうすることはママの幸せでもある。


そんな大切なことに気が付かせてくれた貴女に、ママは感謝の言葉しかない。これから益々勉強に勤しみ、自分の魅力をどんどん高めていって欲しい。今、そうできる土俵に漸く立った貴女は、自信に溢れて、快活で、眩しい程に輝いているよ。


20歳のお誕生日おめでとう。



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