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2023年10月1日日曜日

中秋の名月

 





ノルマンディーに週末出掛けるという友人夫婦と食事をして、外に出たら月が出ていた。中秋の名月。中国では大々的にお祝いするとかで、何度も彼らのホームパーティーに呼ばれたものだった。初めこそ、彼女が振る舞う本場の月餅は、日本で食べる甘いだけの月餅と似て非なるもので、大いに違和感を覚えたものだったが、今ではその味が懐かしく思われるのだから不思議なものである。


そう、今年も彼女は中秋節のお祝いをしなかった。あら、忘れていたわ、と軽く受け流したが、確か去年も同じように答えていたように思う。そして、夕食はスペイン料理のタパスか、レバノン料理にしようかと言ってきたのは彼女の方だった。以前だったら、中華料理に行こうと誘ったところなのに。


こうして、彼女は徐々に、しかし確実に母国の文化や風習をフランスで再現することをやめ、フランスの文化や風習に溶け込んできている。かくいう私も、似たようなものなのだろう。それで彼女らしさがなくなるということでもない。



明月幾時有 明月 幾時よりか有る

把酒問青天 酒を把りて青天に問ふ

不知天上宮闕 知らず 天上の宮闕には

今夕是何年 今夕 是れ何の年なるかを

我欲乘風歸去 我は風に乗じて帰り去らんと欲するも

惟恐瓊樓玉宇 惟だ恐る 瓊楼 玉宇の

高處不勝寒 高き処は 寒に勝へざらんを

起舞弄清影 起ち舞ひ 清影を弄すれば

何似在人間 何ぞ似ん 人間に在るに

轉朱閣 朱閣に転じ

低綺戸 綺戸に低れ

照無眠 眠り無きを照らす

不應有恨 応に恨みは有るべからざるに

何事長向別時圓 何事ぞ 長へに別事に向いて円かなる

人有悲歓離合 人には悲歓 離合有り

月有陰晴圓缼 月には陰晴 円欠有り

此事古難全 此の事 古より全うし難し

但願人長久 但だ願はくは 人の長久にして

千里共嬋娟 千里 嬋娟を共にせんことを



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2023年9月6日水曜日

門出に

 





今年の夏は猛暑日が少なく、8月に入ると涼しくなってしまって、このまま秋に突入かしらと思いきや、意外にしぶとく、熾火が時々ぱっと燃えあがるかの如く、太陽がぎらぎらと大地を照らし、アスファルトは焼けた鉄板のように熱くなっている日々が戻ってきている。


それでも日照時間は明らかに短くなってきており、朝の散歩の時には薄暗くて、LEDの首輪が必要になる程。通りの家々はひっそり閑としており未だ暗く、時折ぽっと明かりが灯っている場所があると、そこからやわらかな珈琲の湯気や、ホットチョコレートの香りが漂っていて、幸せが漏れ出しているように思われて心が温まる。


そんな朝の風景など、実生活では無縁であったはずなのに、おかしなものである。バッタ達が未だ寝ている時に起きだして、暗闇で着替えて脱兎のごとく玄関を飛び出し、車にエンジンを掛けて会社に向かったあの日々。


ふと、バッタ達に可哀想なことをしてしまったかしら、との思いが過る。しかし、自分が自分であること以外に何ができただろう。そう思うと、バッタ達、君たちは偉いよ。これからの人生で、どんな苦難にも立ち向かえる鋼の精神を養えたのではあるまいか。どんなことにも、幸せを見出すことができる能力を身に着けたのではあるまいか。


新学年がスタート。これからの人生、幾つものスタートがあるだろう。その度に心機一転し邁進して行かんことを。そして、そんな君たちに、幸多からんことを。



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2023年7月28日金曜日

西へ

 





もう夏は過ぎてしまったかのように、吐く息が白い朝を迎える日が続くと、庭のミラベルやクエッチが気になりだす。せっかく今年は豊作となりそうで、枝にたわわにぷっくらとした青い実がなっていたのだが、夜中じゅう降りしきる雨や、激しい風で熟さぬ前に地面に落ちてしまいそうで、気が気ではない。


それでも良く思い起こしてみれば、パリの夏はいつもこんな感じではぐらかされてしまうのはなかったか。フランスに留学した最初の夏こそ、暑い日が続いたものだったが、あれは例外的な猛暑で、普通の家庭には冷房設備はなく、今でこそ普通車に冷房機能が備わっていることは当たり前になったが、当時は車に冷房機能などなかったし、必要でもなかった。


先日のことだが、朝の散歩の途中で、大層けたたましく鳴きながら飛んで行く鳥の群れに、トンカと一緒にあっけにとられて空を見上げたことがあった。鳴き声と、体長や色合いから、恐らく灰色ガンと思われる。確か「ニルスの不思議な旅」でニルスが乗って旅をしたのではなかったか。彼らが向かっている方向には、大きな沼地があったと思ったが、ひょっとしたらモネの生家のあるジヴェルニーあたりまで飛んで行くのではないかしら、と思った。


そうこうしていると、他にも、どんどんと別の鳥の群れが、やはり灰色ガンの群れが飛んで行った方向を目指して、一直線に飛んで行っている。一体何があるというのか。あちらは、日が沈む方向、つまり西である。西に、西に行けば、そこはもうブルターニュ。


おおい。鳥たちよ。ブルターニュの海にある小さな島にちょっと立ち寄ってくれないかい。そして、潮風に吹かれながら青い空を見つめているだろうパピーに、こんにちは、って挨拶をしてくれないかい。お元気ですかって、聞いてくれはしまいかい。今年の夏は、バッタ達がそれぞれに忙しくて、遊びに行くことは叶いませんが、きっと時間を作って皆で会いに行きますって、伝えてくれはしまいかい。


西へ、西へ。


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2023年7月21日金曜日

雨を待つ

 




このところ、猛暑とまではいかないが、とにかく雨が降らない日が続いている。パリ程天気予報があたらない場所はないだろうし、そして、空模様が頻繁に変わるものだから、誰しもが天気予報をあてにしなくなる。それなのに、つい毎朝見てしまうのは、トンカとの散歩があるからだろうか。


気温が30℃を超えそうな時は、南に面したシャッターを下ろして外出しないと、留守番をしているトンカが煮え上がってしまう。雨が降りそうな時には、全ての窓がちゃんと閉まっているか確認する必要がある。


天気予報情報によれば、午後の降水確率が80%であったとしても、いつの間にか20%となり、次第に0%になってしまうことも少なくない。だから、森の中は乾燥しきっているし、地面がひび割れしている場所も出てきている。下草は焦げ茶色だし、藪を形成している植物は項垂れている。


それが、久しぶりに昨晩は静かな雨音が聞こえていた。朝には既に大地は水分を吸い取ってしまったかのように乾いてはいたが、トンカの足取りにもしっとりとした優雅さを感じることが出来た。草原も青々とした香りが匂い立っていた。


もう少し雨が降ってくれないものか。そうしたら、出来損ないの折り紙の様にくちゃくちゃにたたまれた私の心も、湿り気を帯びてふわりと膨らむだろうのに。




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2023年4月1日土曜日

旅立ちの日に

 





ネコヤナギが好きだった。あのビロードの艶やかな房が、なんの変哲もない枝からにょきりと出てくることが、摩訶不思議でならなかった。以前、道路の脇のあぜ道で、自由気ままに咲き誇っているネコヤナギの枝を失敬してきたことがある。庭の片隅に植えてみたが、残念なことに根付かなかった。


あれから、何度も同じ場所に行くのだが、刈り取られてしまったのか、ネコヤナギの姿を見かけることはなかった。


それが先日、長女バッタとトンカと午後の散歩を楽しんでいた際、小川のほとりに、それらしき枝を発見した。枝には幾つも、尖った芽の先が見え隠れし、銀色に輝いていた。ネコヤナギの季節にしては、ちょっと遅すぎはしないかと思ったが、今年は急に寒くなったり、暖かくなったり、そうかと思うと、また寒さがぶり返したりと、季節感が分かりにくい日々が続いていた。出遅れた枝があっても、いいではないか。


これから化けるぞとの生命感にあふれる枝を、申し訳ない、失敬しますよ、と手折る。トンカが眩しそうに見上げている。ふふふ。大切に持ち帰って、瓶に差して置いた。


毎日、膨らみの変化を楽しみながら、水を変えていたのだが、奇しくも長女バッタがフィレンツェに旅立つ朝、芽がぱっと出ていた。それはネコヤナギの房などではなく、黄緑色のやわらかな葉となるようだった。拍子抜けはしたが、却って愛おしく思われたことも事実。


長女バッタの旅立ちの日ということも、いいではないか。生命力あふれる、逞しい、その身体で、新たな挑戦に一人旅立っていく貴女。皆の期待なんか、かっ飛ばすぐらいの勢いで、大いに化けておくれ!


いってらっしゃい


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2023年3月17日金曜日

予兆





 


学校の校門のところで何かを咥えたので、また子供達が捨てたパンの切れ端か何かだろと思っていた。どうやらずっと口に咥えている様子だったが、グラウンドの手前でぽいっと咥えていたものを落とした。それを見て、なんだか違和感を覚えた。芯とは言え、まだ瑞々しい実がたっぷりとついている林檎だったからだった。


広場には犬一匹おらず、なんだか拍子外れな思いをしているのか、トンカの足取りもいつもよりは緩慢な気がした。厳密にいえば、今から思えば「緩慢な動き」だったが、その時は気にも留めていなかった。


森の中では珍しく、小径が三差路になっていたり、十字路であったりする場所で立ち止まり、こちらの様子を窺っていた。というより、私が近づくまで待っていてくれていた。


学習効果、というのだろうか。むしろ、前日のトンカとは別人の様で怖い程だった。


そう、その前の日、トンカはいつも以上にはしゃぎまくり、すっ飛んで行ってしまったので、十字路に差し掛かる場所で、一体どこに行ったのか分からなくなってしまったのだった。いつもなら、暫くすれば茶色い塊がどこからか飛んでくる。ところが、その日は待てど暮らせど姿は勿論、音さえもせず、気配が忽然となくなってしまっていた。


大声で名前を呼び、口笛を吹き、音を立て、トンカを呼び戻すもなしのつぶて。既に小半時間は経ってしまっただろうか。段々と焦る思いが募ってきていた。散歩しているカップルやサイクリストに声を掛け、細身の茶色い犬を見なかったか、と尋ね、もしも見たらサインをしてくれないか、とお願いをした。


夕方近かったので、散歩をする人もまばらだったが、声を掛けて数人目となるランニングをしていた高校生ぐらいの女子学生が、犬なら農場付近で首輪をつけた茶色い犬を見たと言ってくれた。トンカに間違いあるまい。


急いで農場の方に走っていく。前回と同じように農場の門が開いていて、そこに入り込んでしまったのだろう。果たして、農場の門はどうぞと言わんばかりに大きく開いている。大声でトンカの名前を呼ぶが、ちっとも手ごたえがない。一体、あいつはどこに行ってしまったのだろう。


と、遠くでこちらに向かって手を振っている人がいるように思えた。あまりに遠くで自信はないものの、すがる思いでその方向に走って行った。と、綱をつけられたトンカが、バゲットにむしゃぶりついているところだった。森の端に住む農業学校の施設の管理人一家が、何かに怯えるかのように道を突っ走っているトンカを見て、車に轢かれないようにと捕まえてくれていたのだった。


無事にトンカが見つかったことに心から安堵し、お礼をいってトンカを引き取った。トンカからは田舎の香水の匂いがぷんぷんしていたし、勝手に走っていってしまったことにちょっと腹が立っていたし、随分と気を揉んで精神的にも肉体的にも疲れていたので、その夜はハグもせずに、早々にお休みと、私は二階の自室に入ってしまった。


次の日、思えば、一日中トンカはソファーの上で寝ていた。テレワークをしていると、決まって遊んで欲しくてまとわりつくのだが、その日は甘えることもなく、静かに大人しく寝ていた。今から思えば、それも予兆の一つと言えよう。


いつもより早めに仕事を切り上げることができ、早めに散歩に行くことにした。じゃあ、ちょっと早いけど、腹ごしらえをしてから行こうか。そう誘って、ドッグフードをお皿に盛った時、非常に遠慮がちにこちらを見ていたので、なんだか違和感を覚えた。まさか、前日のことを引きずっているわけでもあるまいに。


トンカが食べ物に興味を見せないことは、これまでかつて一回もなかったので、何かがおかしいと感じがしたが、その時はまだ何かの予兆とは思ってもいなかった。


こう考えると、幾つもの予兆があるではないか。


果たして、森の散歩の途中でトンカは急にしゃがりこんでしまった。今まで嘗て、そんなことなどしたこともなかったのに。もう、動けません、そう身体からメッセージが発信されていた。


そうして、漸く起き上がったかと思うと、嗚咽をし、黄色い汁とともに先ほどのドッグフードを全て吐瀉してしまった。そして、また、ぐったりと大地にへばってしまった。


トン。君の具合が悪かったなんて、ちっとも分からなかったよ。そんなことなら、こんな遠くまで散歩に行かなかったのにね。無理させちゃったね。さあ、頑張って歩いておくれね。


トンカは、本当にふらふらと歩き、気のせいかお腹の肉がげっそりとこそげ、今にも倒れんかのばかり弱々しい様子で、なんとか家に戻って来た。そして今、ソファーに伸び切って寝ている。身体を伸ばして寝ている様子に、ちょっと安心する。


農場でまた何か変なものを食べてしまったのだろうか。先ずは、しっかりと落ち着いて様子をみてみよう。


バッタ達にトンカの近況を報告すると、末娘バッタから「ママが隣にいるから大丈夫だよ、きっと!」とメッセージが届いた。親に全幅の信頼を寄せてくれる一言に、ぐっとくる。よし、トンちゃん。安心しておくれね。根拠のない自信で、翌朝元気なトンカを想像し、大丈夫だと強く思う。



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2023年2月4日土曜日

恵方巻き

 






節分となりて大阪人がすなる恵方巻きといふものを、我もしてみむとてするなれば、あやしうこそものぐるほしけれ。


具材にとぼしけれど、我が家にあるものを総動員し、作ってみるなり。


黄金の厚焼き玉子

ディジョンの粒マスタードを絡めた、しっとりむっちり手作り納豆

ぱりりと細切り胡瓜

ジューシーツナ

大塚さん手作り梅干しの紫蘇

ペルーのぽってりアボカド

炒り胡麻


カマルグの無農薬玄米と焼き海苔


切らずに食するなど、はしたなきこと、いかに縁起担ぎとはいえ、えせず。福を逃がすことにならぬようにぞ、念じけり。



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2023年1月8日日曜日

新年の抱負




 


人生は一回だけ。だから、今年は本当に好きなことをして生きる。


そう長女バッタが宣言するや、「人生は一回だけって思っていたの?そんなことないのよ。今の身体は洋服のように脱いで、また別の身体を纏って生きていくのよ。」とか、「これまでも好きなことしてきたじゃない!」といった突っ込みが入った。


皆楽しそうに、明るく、嬉しそうに好きなことを話しては、大笑いが巻き起こる。新年恒例の日本の母とのビデオコール。実家の母のもとには兄の家族も皆揃っていて、一年に一度の新年の挨拶を交わす。


そうね。今年の抱負ね。


博士課程2年目の長女バッタは、研究の拠点をフランス国外に新たに増やす計画を温めているし、博士課程1年目の息子バッタも、英国の大学の研究室との合同研究に参画していて、いずれ英国に研究拠点を移す可能性が濃厚だった。末娘に至っては、既に4月から短期間とはいえ日本の大学院の研究室でインターンが決まっていたし、その後はフランス国外の大学に留学することを視野に入れていた。


今年は皆それぞれに羽ばたく年。


フランスにずっと残って欲しい、と泣いた末娘バッタだったが、いざ私が残ってみると、実際には家には寄り付かない、帰って来ても友達と出掛けて行く、といった調子だが、「それが家族でしょ」と言われてしまっていた。そう、確かにそれが家族。尾羽打ち枯らした時に帰ってくることができる場所、それが子供達には必要なのである。そして、何歳になっても子供は子供、変わらない。


彼らがいつでも帰ってこれる場所を親として確保していてあげよう。


新年の抱負としては、いささかお粗末だろうか。いや、それほど自分に言い聞かせないと、親としての自覚が薄れつつある昨今、どこぞそぞろ神のものにつきて心をくるはせ、道祖神の招きにあひて、取るもの手につかずの状態になるか分かりはしない。



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2023年1月1日日曜日

謹賀新年

 




明けましておめでとうございます

新年が希望に満ち満ちて、幸多く、心豊かな年となりますように

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます


クッカバラ


2022年11月9日水曜日

飛翔のとき

 




3匹のバッタ達、三人三様で驚くほどにそれぞれに性格が違う。ママは3人を深く愛しているが、彼らへの愛情は同じようで同じではない。親への愛と、子への愛の種類が違うように、子への愛も、子供一人一人違っていることは、極自然なことではないかと思う。愛とは対象が増える度に増え続けるものなのだから。


そして恐らくバッタ達は、皆それぞれ、ママからの愛情が自分の方がちょこっとだけ多いと感じ、他のきょうだいに対して申し訳ないなと思っているのではないか。いや、そうであって欲しいと願っている。


末娘バッタへの母親としての思いは、長女バッタ、息子バッタのそれに対して、かなり異なるものである。それは彼女の性格に起因しているし、その性格というものも、我が家の末っ子というポジションから大いに影響を受けていることも否めまい。


中学3年ぐらいまでは、顔一つママよりも背が高くなっていながらも、ママとずっと一緒に住むと言い張っていたのが、高校3年になった頃には、私は一人でやっていくから、ママはママの好きなことをして自分の人生を楽しんでね、などと大人びたことを言ったものだった。


彼女の高校卒業を機に、子供達はしっかりと自立し、親がいなくても十分に我が道を切り拓いていける力を有していると判断し、これからは日本の実家の力になれるものならなろうと、日本に戻り、人生の新たな展開を試みた。


しかし、フランスにいる子供達こそが自分にとっての大切な家族ではないか、と目を覚ますに至り、今がある。そのきっかけを作ったのは、末娘バッタだった。その割には、週末やバカンス中でも、あまり家には帰ってこない。帰ってきても、すぐに友達と会う約束をとりつけ、家を空けることが多いのも、彼女ならではのこと。


しかし、それこそが彼女らしいではあるまいか。若さならではの根拠なき自信に満ち溢れ、常に仲間から必要とされ、仲間を必要とし、明るく、ほがらかで、好奇心に満ち溢れ、向学心に燃えている。そんな彼女の笑顔を、しっかりと支え、見守り続け、いつでも必要な時に帰ってこれる場所であることが、親の務めであろう。


21歳のお誕生日おめでとう。

さあ、どんどんと力強く思う存分羽ばたいていってね。ママはいつだって応援している。


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2022年11月4日金曜日

雑草の魂を秘めて

 




第一子ということで親が特に手塩に掛けて育て、幼稚園、小学校、中学校、高校とあらゆる節目で親子ともども大騒ぎし、誕生会から始まり、お泊り会、お友達とのプチ旅行、そして、フェット、ガラと続いて行く社交イベントの度に、親も一緒にどきまぎしてプレゼントを用意したり、洋服を新調したり、ハイヒールを購入したりする。


つい親が先回りをして色々と準備をしてしまうので、どちらかと言えばのほほんとした気性になりがちで、おおらかでのんびり屋さん。


それが正しく第一子の運命ではなかろうか。しかし、それこそ運命とは分からぬもので、色々なところで落とし穴や地雷が潜んでいて、波乱万丈となるのが常。長女バッタに至っては、そうなのだろうなとつくづく思ってしまう。


何不自由なく育ち、お嬢さん街道まっしぐらであった筈なのに、小学生の低学年にして親が離婚し二つ下の弟と四つ下の妹を連れて、隔週の週末にはパパの家庭にボストンバックを抱えて行くことになるのだから。嫌がろうと、ママと一緒に残っていたいと主張しようと、問答無用で連れ出される。二ヶ月ごとの学校のバカンスも然り。期間の半分はパパのところ。


気が付いたら、10歳下の弟も加わり、4人きょうだいのしんがりを務めることになっていた、といったところだろう。ヌヌ(ベビーシッター)の時代を経て、朝起きて学校に行くまで、そして、学校から帰って来てママが夜帰ってくるまで、自分だって幼いのに、幼い弟と妹を上手に御し、家の鍵を預かっていたのだから、大したものである。


従い、中学生になり、背も大きくなり、体力だって勝るであろう息子バッタに恐れられる存在になったのも、むべなるかな。ムードメーカー、影の番長、そんな存在にのし上がっていった。


彼女が企画するイベントは数知れず、上手に仲間を引き連れてしまう。今年に入ってからは、研究室の仲間たちとイタリアでの学会に乗り込んだり、南仏で勉強会合宿をしたかと思えば、ヴァンセンヌの森でのハーフマラソンに皆で参加したり、モンマルトルの丘を走りぬくイベントに参加したりしている。


ばらばらの地で生活している4人のきょうだい達に声を掛けて、週に一回のきょうだいコールを実施しているのも、彼女ならではのもの。ひとえにパパの努力の賜物と、ここは素直に脱帽するところだが、異母きょうだい達はいたって仲が良く、純粋に「きょうだい」という絆で結ばれていて、結束力は抜群である。それを上手に支えているのが、しんがりの長女バッタ、といったことろか。


博士課程の二年目で、今年は経済を専攻する大学一年生に数学を教えているというから驚いてしまう。長女バッタが数学を大学生に!彼女の中学時代の数学の教師が知ったら、あまりに驚いて椅子から転がってしまうのではあるまいか。


そんな彼女の25回目の誕生日。

誕生日おめでとう。明るく、ほがらかで、雑草の魂を秘めながら、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!

これからも堂々と我が道を突き進め!その道に幸多からんことを!



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2022年9月24日土曜日

ツキを戻す!

 





通常サイレントモードにしている携帯に、誰かから電話が入っていたことが表示されていた。仕事中ではあるものの、一応確認をせねばとチェックしてみると、相手は末娘バッタ。


どうしたのだろう。メッセージではなく電話。週末は学校の別のキャンパスに行くといっていたが、何か問題が生じたのだろうか。慌てて電話をしてみるが、案の定通じない。彼女も携帯をサイレントモードにしていることが多く、電話を掛けて一発でつながった試しがない程。まあ、大した問題ではないのかもしれない、と思っている時に、彼女の方から電話が掛かってくる。


「ママ、運転免許合格したよ!」


威勢の良い声が鳴り響く。おめでとう!「風邪を引いていて体調は最悪だったし、ずっと忙しかったから無理かと思っていたのだけど、満点だったんだよ!嬉しいっ!」


彼女にとって二度目の挑戦だった。運の悪いことに彼女が登録していた自動車学校が倒産し、他の学校にたらい回しされ、漸くしっかりとしたモニターと出会ったかと思いきや、末娘バッタ自身がコンクールなどで忙しくなり、そうこうしているうちに、今度はそのモニターが引退宣言をし、別の学校を探さねばならくなるなど、最初に学科試験に合格してから随分と時間が経ってしまっていた。


慌てて夏前に試験を受けさせてもらったが、今度は彼女の準備不足で、試験場に持参する資料を夜中まで探したり、大学の期末試験の日とバッティングし、アクロバティックな時間割で双方に特別に配慮してもらったりしたにも関わらず、焦りか、疲れか、試験官の意図するメッセージをつかみきれずに、試験途中で既にアウト。


試験の前には家族全員に連絡をしており、皆から応援メッセージをもらっていたが、残念な結果に。免許取得を目指してから随分と時間が経っていることもあり、本人もすっかりしょげてしまい、もう無理かもしれない、と弱音を吐き始めてしまっていた。


落ち込む彼女に、たかが運転免許じゃない、と諭したのは、この夏のこと。


たかが運転免許、されど運転免許。周囲の友達の多くが取得し、楽しそうに運転している様子に、自己嫌悪を抱いてもおかしくない環境ではある。


今回は、誰にも試験の日を告げず、大騒ぎをして結果を待つこともなく、自分なりにしっかりと試験に臨んだと思われる様子に、末娘バッタの成長をみた。大袈裟ながら「臥薪嘗胆」の精神を、会得したのではないかとさえ思ってしまう。


さあ、そうやってツキを戻し、あらゆることに果敢に挑戦していくのだよ。

おめでとう。



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2022年7月8日金曜日

祈り

 






流れる風に雨の匂いを感じた。

かさかさに乾燥した大地が少しは潤うのだろうか。


衝撃的なニュースを受けて、これ以上書くことができない。

心中よりご無事をお祈りすることしかできない。





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2022年7月1日金曜日

捜索願い

 





黒のイングリッシュコッカーの捜索願いが近所の犬コミュニティから回って来た。あの時の犬が未だ見つかっていないのか、と胸が痛む。夕方トンカといつものように森を散歩をしていた時、必死に犬の名前を呼んで、犬笛を鳴らしてる二人と出会っていた。


あそこなら、いつもトンカと散歩をしている場所ではないか。どうしていなくなってしまったのだろう。そして、今、その子はどこにいるのか。身につまされる。コミュニティの人々は、いなくなった犬、シリウスのことを心配し、可哀想に、どこにいるのかしら、と呟いているが、シリウスもそうだが、彼の飼い主の心情を思いやると、もう胸が張り裂けんばかりになってしまう。


兎か鹿を見て、追いかけていったのだろうか。時々、トンカも耳をピンと立てて、カンガルー立ちをし、ぱっと藪の中に駆け込んでいくときがある。深追いしないでおくれよ。そう願うが、トンカは早々と切り上げて戻ってくる。トンカがなかなか戻ってこない時は、トンカにとっての餌にありついた時。それはティッシュの時もあるし、馬の糞の時もある。


一度、ブルターニュの島に行った時には、大平原で兎を追いかけて行ったが、やはり早々に戻ってきていた。あの頃は未だ幼かったが、6ヶ月になった今はどうだろう。


あれほど真夏日が続いていたのに、ここにきて急に秋かと思う程涼しくなっていて、朝夕は寒い程。しかも夜には銀の粒がばらばらと天から落ちてきている。熱中症の心配はないが、雨露、ちゃんと凌いでいるのだろうか。


森にはイノシシもいるし、写真で見る限り毛並みも上等な品のよい純血種。ふとした出来心で連れて行ってしまう人が出てこないとも限らない。いや、取り敢えず元気であれば、良いのか。


シリウスが飼い主のもとに無事に戻ってくることをただただ祈るばかり。森の主様、どうぞシリウスをお守りください。


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2022年6月24日金曜日

真夜中のメッセージ

 






夜中、暑苦しいわけでもないだろうのに、目が覚めてしまった。どうやら珍しく蚊がいたようで、腕や足が痒い。気休めとは思いつつも、洗面所に歯磨き粉を取りに行き、ペーストを少しだけ部屋のランプの台に塗り付ける。こんなことなら、就寝前にしておくべきだったな。


そして、ふと携帯を手にしてしまう。夜中に携帯を見ることは良くない、とは知りつつも、ついつい見てしまう。そして、ニュースやら、メッセージ、時には動画さえも見てしまう。


と、その日は末娘バッタからのメッセージが入っていた。しかも、今さっきもらったばかり。機内モードにしていたので、時刻はオンにした時のものなのかとも思うが、いやそうでもなさそう。


漸く年度末の試験が終わったからと、友人の引っ越しを手伝ってパリに行っている筈だった。恐らく、羽目を外してパリの暮れない夜を楽しむんだろうと思っていたが、どうもそうもいかなかったらしい。セーヌ川沿いを歩いていて、おっちょこちょいにも躓いて小さな五寸釘に腕をひっかけ、かなり出血したらしい。


友人のアパートで消毒してもらったものの、一応見てもらおうと行った近所の薬局で、かなり傷が深いので救急病院で縫ってもらった方が良いとのアドバイスをもらう。そこで慌てて最寄りの救急病院に向かうも、気温も穏やかな中々暮れない夜のことで、緊急患者がひっきりなしに救急車で運ばれてきて、末娘バッタの傷は深く、縫合処置をすることになったものの、優先順位が低く、後回しになってしまっている、とのことだった。


一瞬にして目が覚め、のろのろとしていた思考回路がフル回転する。パリだからなのではないか。今から迎えに行って、こちらの田舎の病院で診てもらってはどうだろう。そうメッセージを送ってやると、大丈夫とのこと。


大丈夫、か。


せっかくのバカンスの第一日目にケチがついてしまったが、バカンスの日で良かったと思わねばなるまい。試験に臨めなかった日には、泣いても泣ききれまい。結局朝まで一睡もできずに、待合室で声を掛けられるのを待っていたとか。いやはや。


掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 

筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等

諸々の禍事 罪 穢 有らむをば 

祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと 

恐み恐みも白す



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2022年6月8日水曜日

お好み焼きの夕べ

 







ママ、あのね。


トンカを一日面倒を見てくれた末娘バッタが、夕食に彼女の大好きなトロロ芋を摺りながら、とつとつと話を始めた。


冷蔵庫には鶏のモモ肉、ダチョウの胸肉、前日の海老とキノコのリゾットが眠っていたが、お好み焼きが食べたいと言うリクエストに応え、もう暫くは眠ってもらうことにする。キャベツの千切りをし、意外に美味しい繋ぎとなるズッキーニを削る。卵は一つでいいかしら。


キッチンの小さな空間を一緒に肩を並べて、いや、彼女の方が頭一つ以上大きいのだが、Yuvuzela亭のアレンジで特別に美味しくなれとお好み焼きの準備を一緒にしながら、彼女の話を聞いた。


恐らくパパとママとでバカンスの期間を分けていたことに由来するのだろうか。ぎりぎりまで日本に行っていて、帰って来たその足でパパとブルターニュに行くこともあった。むしろ、それが当たり前の様に、ブルターニュから帰って来た翌朝にはイギリスに出発していたり、とにかく時間の有効利用と言えば言葉はよいが、ぱつんぱつんのスケジュールで走って来た。


だからか、末娘バッタはいつだって幾つもの予定を同時に抱えている。子供の頃も友達の誕生パーティーの梯子を提案したのも確か彼女だった。今はパーティーの梯子など、当然のことのようにしているのだろう。分刻みの生活。この間の私とのブルターニュ行きも、帰って来たその夜にはノルマンディーの友人とのキャンプに出掛けていた。そして戻ったかと思ったら、今度はトライアスロン大会にと出掛けて行き、そのまま新学期を迎えていた。


大学生活も、同時に別の大学で単位を取得し、ディプロムを獲得するように頑張ったり、そうかと思うと中学生に日本語を教えてみたり、自治会選挙に出たり、スポーツイベント企画をしたりと、いつ自分の机でしっかりと勉強をする時間があるのか、正直謎だった。


人間は平等に一日24時間しか与えられていない。


ふと、我が身を振り返り、似ているな、と苦笑してしまう。そんな生活が続くわけがなく、どこかで破綻してしまう。しかし、誰かに指摘されても、むしろ反発するだけで自覚しないことには改善できないので、質が悪い。


トンカと一日を過ごして、少しは落ち着いて考えることができたのだろうか。これまでのぱつんぱつんの夢計画の一つを少し考えなおしたい、と告げられた。そう焦らずとも、後二年後にチャレンジしても良いのかと思った、と。


親が自分の夢を子に託しているのではないか、そんな過ちを犯してはいないか、と自戒していたが、彼女は自分で考え、自分の言葉で、自分の夢として語ってくれていることに、心から嬉しく思う。


そうだよね、ママも賛成よ。


肩の荷が下りたのか、すっきりとした笑顔が戻って来た。そして、どんどんと強いエネルギーがあふれんばかりの笑顔にと広がっていく。その夜のお好み焼きが格別に美味しかったことは言うまでもない。



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2022年5月24日火曜日

口どけよく、軽くて華やかな苺のヨーグルトムース

 





先日は写真だけにしてしまったが、遠方からの親友を迎えるにあたり、何を作っておもてなしをしようかと楽しく考えた末、勝手に師匠と呼ばせていただいている塩の華さんのブログから「苺のヨーグルトムース」にすることに決定。


当初ランチにくる筈が、ご主人の友人のお見舞いに行く必要があるので、午後のお茶にしてもらえないかとの連絡があったのが前日。もともとソライヤは華奢で小鳥が啄む程度しか食べない。それでも、華やかさが大好きで、いつも美味しそうな料理の前でモデルのようにポーズをとった写真をSNSでアップしていた。とにかくご主人がソライヤにベタ惚れで、常にカメラマンの様な多種機能付きカメラを持っていて、喜んで彼女を撮影している。


そんな彼女を喜ばせる、午後のお茶に向いたデザート。それが今回のお題。


もともと小食の上に、恐らくランチをどこかで食べてきている筈なので、そうお腹は空いていないだろう。なので、シフォンケーキやロールケーキといったケーキ類は選択肢から外す。そうなると、ババロアやゼリーなどかしら。珈琲ゼリーか、今が旬の苺ムースか。


そんな折、塩の華さんのブログの「苺のヨーグルトムースケーキ」に目が留まる。これだわ!ヨーグルトを使っているので生クリーム使用に比べ軽やかだし、とにかく華やか。ソライヤにぴったり。


トンカを一人でお留守番させて、急いで買い物に出動し、新鮮なBIOの苺を買い求める。ゼラチンは、確か常備していた筈、とスルーしてしまうが、買っておけば良かったと思うも後の祭り。ちょっとゆるめのムースになってしまったことが残念至極。


苺ムースを型から取り出すと、ぷるるん、と良い感じで出来たが、ゼラチンが少なめなので、次第にどろろん、としてしまう。気を取り直して、庭の深紅、赤、パール色の薔薇を飾ってソライヤ達の前に持っていく。笑顔が広がる。


幾つかグラスにも作っておいたので、その一つを真向いのマダムに進呈。美味しさは皆で分かち合わないと!塩の華さんに感謝💞




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2022年5月15日日曜日

さくらんぼ

 







今年に入って二度目の草刈りをする。するとどうだろう。この間と同じように、夕方から久しぶりにでぶっちょの鳩軍団が遊びに来たし、黄色い嘴が特徴のメールノワー、黒歌鳥(クロウタドリ)がこれまた大勢で遊びに来たし、このところちっともご無沙汰のピーやカケス君まで遊びに来ている。


仮説として、土が掘り起こしやすくなった、ミミズが這い出て来た、或いは、これまで来ていたが雑草に隠れて気が付かなかった、などがあるが、どうだろう。


まあ、我が家のさくらんぼが色付いてきたことに起因するのかもしれない。


トンカは案の定大喜びで青くて堅い時期から、落ちて来た実を拾っては食べていた。赤い実が落ちていても、突進するわけでないことに気が付いたが、視覚よりも臭覚が発達している所以だろうか。


そう考えると、真っ白なティッシュに目がないことも、トンカの視覚に由来するのだろうぁ。いやいや、使い終わったティッシュなので、やはり臭覚か。


鳥君たちよ。大いに遊びにきて欲しいし、さくらんぼも好きなだけ食べてもいいよ。でも、できたら木の上の方のさくらんぼを啄んでね。今日は小さなお友達が遊びに来るので、彼らの為にとっておいて欲しいんだ。


願いよ届け。





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2022年3月19日土曜日

向こう見ずな魔のジャンプ

 






猫は木にも登るし、屋根で日向ぼっこなんてお茶の子さいさいだってことは、知っていた。実際にこの間も夜中にトンカとがっちゃんこし、さくらんぼの木の高い幹の上まで登って行った猫を見たばかり。


しかし、犬もすばしっこくて、猫のような動きをするとは知らなかった。子犬だからだろうか。


トンカはちょっとしたドアの隙間から外に走り出てしまうのは日常茶飯事で、通常は閉まっている玄関ホールへのドアも、週末にバッタ達が帰ってくると誰かは必ずと言っていい程ちゃんと閉めないことがあるので、開かずの間の扉を抜け出てしまうことがある。この間は瞬く間に二階まで突っ走ってしまい、その瞬発力に驚いてしまった。


息子バッタが帰って来た晩、相変わらず開かずの間の扉を抜け出て、一階のベッドの下に入り込んで出てこないので、大騒ぎせずに放っておいて、リビングに戻ってみた。しばらくすれば、にぎやかなリビングに戻ってくるだろうと踏んだのだが、どうしたことかちっとも戻ってこない。しかも、音や気配さえもしなくなってしまった。


どこで何をしているのか、心配になって玄関ホールに出てみると、なんと!二階に向かう階段の一番上から、こちらをのぞき込むいたずらっ子の茶目っ気たっぷりの顔を発見。ちょっと待ってよ。ただでさえ滑りやすい石のフローリングの階段。トンカの足では滑ってしまいかねない。しかも急勾配。行きは良い良い、帰りは恐い、の典型例。迎えに行って、抱っこして降ろすしかあるまい、と、そこまで思考が巡ったかどうか。


あっという間に、トンカは私目がけてまさかのジャンプ。情けないことに、私は凍り付いてしまった。ぱしゅっと着地した、というよりも、頭もがんっとぶつけた様に見えた。トンカの体が打ち砕かれて木端微塵になるのではないか、との恐怖で、気が付いたら悲鳴を上げていた。私の悲鳴を聞いてか、自分のした行為に驚いたのか、はたまた、本当に痛かったのか、トンかは2度ほど、きゃひん、きゃひん、と泣いた。


息子バッタが慌てて飛んできて、ママ、どうしたの、と私を気遣う。いや、ママじゃなくて、トンカよ!泣き崩れんばかりの私に、トンカが飛びこんできて顔をべろべろと舐めてくれる。無事だったの?階段の高さは優に2メートル半はあるだろう。そこから飛び降りて無事って、奇跡ではないか。それとも、キミは、やっぱりチーターの血を引いているのか。


嗚呼。神様、仏様。トンカをお守りいただき、ありがとうございます。これに懲りてトンカが開かずの間の扉の隙間をすばしっこく抜けて魔界に出たとしても、二階にだけは行かないようになると良いが、どうだろうか。そして、ゆめゆめ飛び降りジャンプなんてしないで欲しい。果たして、学習してくれただろうか。度胸が良いというのか、肝が据わっていると言うのか、いやいや、向こう見ず、ということだろう。


トンカよ。我が相棒よ。我々には、これからアルプスの山々に行ったり、ノルマンディーの海岸を走ったり、海辺で朝日を拝んだりする楽しい冒険が待っている。お互い、健康体でいようよね。



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