「今度の夏のコンサートだけど、ソロをしてもらおうと思っているの。やってもらえるかしら。」
金曜の夜の息子バッタのヴァイオリンの練習が始まる前のこと。
7月の第一週に、フランスの田舎の村で三日間に渡るコンサートが催されることになっている。今年が初めての試み。フランス全国からヴァイオリニストやチェリスト、ピアニストが集まり、共通のテーマの下で、会場別にコンサートをする。第一日目はバロック。二日目は確か午前中にジャズ、午後が映画音楽、三日目はクラシックといったところ。
息子バッタにソロとの大役の声が掛かった曲は、バロックがテーマの第一日目の夜のコンサート曲、Corelliのコンチェルトグロッソ―第8番。その第一ヴァイオリン。
リヨンからも一人ソロが選ばれており、最終的に一緒に弾くのか、直前にどちらか一人にするのか、未定という。「それでも、引き受けてくれるかしら」、とヴァイオリンの師、マリは息子バッタに尋ねる。
固唾を飲んで見守る。
昨年の春のコンサートでは、人前でソロはしたくないと言い張り、皆を当惑させていた。それでも、上手にマリは導いてくれ、ヴィヴァルディの4つのヴァイオリンのためのコンチェルトの第二ヴァイオリンを練習の為といって皆と弾くには弾いていた。最終的に当てにしていたヴァイオリニストチームの参加が無理となり、当日はソロとして演奏することになったが、苦虫を潰したような顔ながらも、しっかりと演奏してくれた時には、涙ぐんだもの。
彼は、今回はどう反応するだろうか。
マリは随分長いこと考えた末の結論だと言う。「引き受けてくれるかしら。」
「分かりました。」
はっとする。
彼は新たな扉を開け、一歩踏み出した。
透明な音の粒がきらめきながら天空に舞い上がっていくような彼の弾くバッハのヴァイオリンコンチェルト第一番に聴き入りながら、心の震えが止まらない。
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皆さんからのコメント楽しみにしています
バッタくんの答えをきいた瞬間のお母さんの気持ち。。。
返信削除涙が出てしまいました。
ポッサムさん
返信削除フェアディンカム!
ダウンアンダーからコメントをいただき、ありがとうございます。そして、あの瞬間を共有いただき、嬉しいながらも恥ずかしい思いです。
どうぞ、これからもフランスにいる、ちょっと調子はずれなクッカバラの囀りを聞きにいらしてください。