2015年6月16日火曜日

真っ白な飛行機雲








丈高くローズレッド色の野薔薇が咲き乱れる様を仰ぎ見れば、
真っ白な飛行機雲が透明な空にしゅっと走っている。

丁度あの日のメッセージのように。

どうしても話がしたくて、SMSを送り、後から電話を掛けてみたが、つながらない。忙しいことは分かっている。それでも、緊急を要することは分かってもらえているだろうのに。必死の思いが伝わっていないのか。優先順位という言葉が頭を過ぎる。

8500kmも離れた距離にいる別の相手にスカイプ。時差もあるし、夜更けの時間だろうのに、すぐに応答してくれる。必要以上に感傷的なやり取りとなり、電車の中で人目も憚らず涙ぐんでしまう。

今度は50km離れたところにいる別の相手にメール。電話をしようかと思うが、メールにしてしまう。彼の返事はいつだって示唆に富んでいるし、含蓄があって読みごたえがある。彼の言葉が欲しかった。期待通りに、長い返事がくる。涙が溢れてちゃんと読めない。何度も何度も繰り返し読む。

翌朝には目の前の相手に話をしてしまう。ばしっと悟らされ、素直に頷く。

段々と気持ちが収まり、落としどころが定まった頃にSMSが届く。「今日の午後会おう。」いつだって唐突。こちらの状況なんてお構いなし。でも、それが本当にびっちりとしたスケジュールの中で、突然ぽっかりと空いた空間であることも承知している。だから、相手の都合など気にする前に、兎に角、宣言してしまうらしいことも、分かってきている。

午後って、こっちも忙しく仕事をしているのに、どうやって抜け出せと言うのか。それとも、夕方のことなのか。ただ、その気持ちが嬉しくて笑ってしまう。昔、大好きな俳優そっくりの医師が近所に住んでいて、風邪を引いて具合が悪くて診察を受けに行くと、医師の顔を見ただけで、風邪などいっぺんに治ってしまう思いがしたもの。その時と同じように、何かに悩んでいたことが嘘のように思われる。

こうやって親身になって相談できる仲間達がいることに感謝。
真っ白な飛行機雲に大きく手を振る。










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2015年6月12日金曜日

決断







「それで、最終的に何を望んでいるの?」


えっ?
それは、それは息子バッタの幸せ。
そう、彼の幸せ。



既に答えは出ている。
感傷的になってしまっていただけ。
ここは毅然とした態度をとらねば。



ママは、あなたがこの家を出て行ってしまうことは辛いし、悲しいけれど、けれど応援するよ。だから、しっかりと初志貫徹してくれ。泣き言は言うな。感謝の気持ちを忘れずに、愛し、愛されて欲しい。








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2015年6月7日日曜日

緑の風








そろそろ手をつけないと、
そう思って芝刈り機を庭に運ぶ。
膝頭まで伸び切った雑草。朝顔だろうが昼顔だろうが情緒あふれる蔦だろうが、ペスト。そう、雑草。ヒメジョオンもタンポポもペスト。あの固いヘーゼルナッツから、どうやって、と思いながらも、あちこちに枝を伸ばしているヘーゼルナッツの木もペスト。

昔、オーストラリアでジョンが憎々しげに「ペスト!」と叫んでいたことを思い出す。庭の手入れをしている者の心の底からの声。今なら分かる。あの当時は、ジョンのストレートな物言いに面食らったものだった。

藤はどうだろう。紫と白のうっとりとする花房で楽しませてくれる。そして、あの甘く高貴な馥郁たる香り。ところが、枝の強さ、どこにでも這い上がり、全てを絡み取り、我が世を築く強かさといったら、どうだろう。正直なところ、我が家の二ヵ所に藤が枝を張っているが、どうしようかと悩んでしまっている。ちゃんと枝を伐り、手入れをしないと、藤に食われてしまう。

杉の木の下で芝刈り機を使うと、爽やかな香りが舞う。緑の芝を刈ると青い刈りたての香りが舞い立つ。ヒメジョオンとタンポポを刈りとり、ようやく玄関前の庭は小ざっぱりとする。後ろの庭が控えているが、日曜のお昼は皆BBQやら外で食事をするだろうし、芝刈り機は使えまい。のこぎりで、気が付かないうちにあちこちで3m以上の大木になりつつある木々を根元から切る。

汗にぐっしょりとなりながら、木陰で一休み。緑の風がやわらかに吹き過ぎる。緑の風にぼんやりと我を忘れる。




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2015年6月3日水曜日

星屑の花








星屑の花が咲く頃になると
思い出すことが星屑の数程ある

今は思い出に耽る余裕もない筈なのに
眩しさに目を瞑る




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2015年5月31日日曜日

羊歯の涙








価値観の違いと片付ければ良いのか。

音の粒を宇宙に響かせることなく、息子バッタのヴァイオリンはケースに仕舞われてしまう。「えっ?未だ練習これからじゃない!」という師の声に「父が来たので、今日は帰ります。」と答えている息子バッタの声が聞こえる。

確かに、練習は16時には終わると伝えてあった。良かったら前の生徒と交換してもらって早目にしようか、と言うと、いつもの16時半と変わらないじゃないか、と返事がある。だから、そんなに気にしていなかった。息子バッタには、先に練習を見てもらうように告げていた。そんな彼に、会った途端、ヴァイオリンの師の4歳になる末っ子君がヴァイオリンを見て欲しいとねだってしまう。それなら、と庭に出て見てあげている息子バッタ。微笑ましい光景に、つい写真を撮ってしまう。

暫くすると足音が聞こえ、父親が円満の笑みで登場するが、息子バッタの練習が始まってもいないと知るや、激怒。それならそうと、何故事前に教えてくれないのか。いや、もっともな話。でも、こんなに良いお天気で、子供達は、こんなに楽しそうにしている。ちょっとばかり、いいじゃない。

怒りを隠すこともなく、足早に去って行く。そして、SMS。「一体、何時に終わるんだ?」
今の時間から30分後を記した。息子バッタが泣きそうな顔で「ママ、いいんだよ。僕、もう行かなきゃ。こんな時のパパは酷いんだ。あとあとまでひどく怒るんだよ。」
すぐに返事がくる。「馬鹿にするのもいい加減にしろっ!」

どうしてだろう。
息子バッタは夏のコンサートで、オーケストラの第一ヴァイオリンを任されていると告げたばかりなのに。だから、練習は彼の為に必要なんだと。どうして、彼の授業が始まっていないなら、彼の演奏を聞いていこうと思わないのか。

いつだって、そう。ヴァイオリン(音楽)は父親にとっては、彼がバッタ達と過ごす時間の障害物でしかない。

涙が止まらない。
ヴァイオリンは彼にとって、大切なんだよ。
私のためじゃない。


いつか彼に分かる時がくるのだろうか。










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2015年5月29日金曜日

卯の花








じっくり考えると真実にたどり着くべくヒントは出ていた。
それを見落としていた。
というより、軽視していたと言えよう。

真実は一つではない。
真相は玉虫色。

幾つもの真実の前で立体的な真相が浮かび上がる。
今まで見えてこなかったものが、急に色を持って迫ってくる。
これまでの意味合いが、別の色合いを放ち始める。

戸惑うよりも、受け止めよう。
こうまでも未来は過去を常に変えているのか。

卯の花が今年も純白の蕾を膨らませている。










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2015年5月26日火曜日

さくらんぼの唇







「明日は第二ヴァイオリンになったからと伝えておいて。」
夜中のSMS。末娘バッタへのメッセージ。これまで第二ヴァイオリンとして練習をしてきたが、土曜の段階で第一ヴァイオリンだと言われ、週末に必死に練習し、月曜もダンスの練習の後へとへとなりながらも、練習していた彼女のことを思う。ちょっと待ってよ。そうならそうと、何故夕方の段階で教えてくれなかったのか。一体どう言えばいいのか。翌朝は6時半に出発するというので、6時起床。

ヴァイオリンのクラスに、バカロレアでオプションに音楽を選ぶ仲間がいて、彼女がRameauのガボットを弾くというので、末娘バッタが応援隊として選ばれていた。他にも別の高校生が応援隊にいたが、自分たちの試験と重なり突然参加ができなくなっていた。そこで助っ人が登場。二年前にバカロレアを取得している先輩仲間。末娘バッタが唯一ダンスの練習の為に参加できなかった最終調整の場で、彼女が第一ヴァイオリンで加勢することになったらしい。

まあ、いわば応援隊。だから、メインの彼女にとってベストであれば、それにこしたことはない。そう末娘バッタに諭すか。

朝の6時に、末娘バッタを起こしながら、そっと囁く。今日は第二ヴァイオリンをお願いするって、と。すると、眠気眼で返事が返ってくる。「そんなことになると思っていたよ。」と。そして「でも、第二ヴァイオリンのパート、全然練習していないよ。」

思ってもみなかった意外な反応。気にしていない筈はない。
それなのに、このしなやかさ。

午前10時頃にSMSが届く。
「素晴らしかったよ。音が響きあって最高だった。」
慌ててヴァイオリンの師、マリにその旨SMSを送る。
すぐに返事が返ってくる。
「子供たちの素晴らしさに感動して泣いたわ。彼らのこと、とっても誇りに思う。」
そう、末娘バッタが傷つかないかと心配してくれていたマリ。でも、そんな心配を吹き飛ばすような明るさで、最高の演奏をしたと感激のメッセージを送った末娘バッタ。私の方こそ泣きそうになる。


夜8時。外は未だ昼間の明るさ。一緒に庭に出てさくらんぼを摘む。末娘バッタがぽろりとこぼす。「多分、去年だったらショックだったと思う。でも、今日はそんな風には感じなかったよ。だって、あの演奏はバックを受ける彼女のためなのだもの。彼女のために皆で演奏しなきゃって思ったよ。そして、本当に素晴らしい演奏ができたんだよ。」

さくらんぼのような唇で楽しそうに話してくれる。いつまでも続く彼女のおしゃべりは、さくらんぼを狙って姦しい鳥たちの賑やかな歌い声と一緒に青空に吸い込まれていく。







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