バイオリン仲間のサンドリーヌ。
最近はチェロの先生となるべく研修に余念がなく、
今度の土曜日に、息子バッタと同じ年の娘さんをバイオリン教室に連れて行って欲しいと頼まれていた。
彼女自身はフランス人で、旦那は確かアルジェリア人。
下の男の子は末娘バッタと同じクラス。その下に二人のお嬢さんが続く。
彼女が怒った顔など見たことがない。
いつも、こぼれんばかりの笑顔。
ただ、その笑顔で、お願いを当たり前のようにされることも度々で、
しまったと思うことも少なくはなかった。
でも、実はお互い様。
週日のパリでのコンサート、
水曜の午後のコンサートなど、
私の都合がつかない時は、
当たり前のようにバッタ達を一緒に連れて行ってくれる。
彼女にとっては、どの子供も自分の子供であり、
もっと言えば、子供は世界に属すると思っている。
だから、時々、私が世界に属する彼女の子供の面倒をみることは、
人間として当然の義務、らしい。
その彼女からの電話。
暫く、6月の土曜の送迎アレンジを話し合い、
子供の数が多いとバイオリンのレッスン料も馬鹿にならないこと、
学校の話などをしながら、
近所で売り物件はないかと聞いてくる。
確かに、学校の近くではないが、
緑豊かな場所に、大きな庭のある一軒家を持っているではないか。
どうしたのだろう。
小鳥のような囀る声が続く。
「別れることになったの。」
えっ?
まさか。
つい、この間のバカンス中のコンサートで、
いつもは愛らしい子供達を引き連れて参加するサンドリーヌが、
チェロを抱えて一人で来ていたことを思い出す。
前日に子供たちを旦那がスペインにバカンスに連れて行ったと聞いて、
コンサートなんかに来ないで、
さっさとスペインにジョインしなさいよ、と言ってやったことを思い出す。
そうしたら、
小鳥のような楽しそうな囀る声で、
子供達がいない時間なんて初めてであり、
たまには息抜きも悪くない、
など言うものだから、
ひょっとしたら、4人の子供達でいつも大変なサンドリーヌに、
旦那が気を利かして、数日のバカンスをプレゼントしたのかしら、
などと思ってしまう。
でも、ちょっと気になり、
とにかく、コンサートが終わったら、すぐに駆けつけてね、
とお節介にも言ってしまう。
すると、
こぼれんばかりの笑顔で、
「このごろ貴女のことを考える日が多いわ。」
えっ?
えっ?
何?超、意味深。
冗談言っちゃ、駄目よ。
それでも、コンサートが始まる直前であったことからも、
心に何かひっかかりを感じつつも、それ以上の会話はなかった。
その後、
彼女が新車を買ったことを、息子バッタが教えてくれる。
着々と独立に向けて準備していたのか。
4人の子供達は?
どうして?
駄目よ。後悔するわよ。
立て続けに騒ぐ私に、
相変わらず楽しそうな囀る声で、
旦那とは、この4年、関係が悪く、
昨年9月にはっきりと別れを告げられ、
迷ったけれど、漸く、この4年間の暗い時間から自分と子供達を解放してあげたくなった、
と告げる。
「私のことを否定しかしない人と、これ以上一緒にい続けてもお互いに良くないのよ。子供たちにとっても。」
彼は、これまで大変な人生を送ってきていて、
傷ついていて、頑固で、可哀想な人なのだ、と。
彼の選択を尊敬し、彼女を解放してくれる彼に感謝こそすれ恨みはない、と。
サンドリーヌの旦那は、背が高く、
昔は幼い子供達を連れてコンサートを観に来ていたが、
確かに最近は現れなくなった。
最後に見かけた時は、
お嬢さんの送迎を私が担当した時。
随分前に、森にあるバイオリンの先生の庭で、
薔薇の棘が彼の手に刺さり、
その場にいた私が、棘の入った彼の腕をとって、必死で取ろうとするも、
ちっとも上手くいかず、
かえって、だらだらと血が出てしまったことを思い出す。
いや、栗のイガだったか。
あの時、
血が出てしまっても、未だ棘が突き刺さったままでも、
ありがとう、
と感謝してくれた。
初めて、彼と会話をした気がしたものだった。
それほど、コミュニケーションが苦手なタイプ。
そうか。
それなら、私も、あれこれ言わずに、サンドリーヌの選択を尊重しよう。
向日葵のような、こぼれんばかりの笑顔の裏に、
苦しみを抱えていたことなど、
全く気がつかなかった。
彼女はきっと、これからも、小鳥の囀りのように明るくおしゃべりをするのだろう。
サンドリーヌ、
。。。
いつか一緒に『浜辺の歌』を弾こうよ。
貴女がチェロ、私がアルトで。
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皆様からのコメント楽しみにしています
くっかばらさん その時は私はコーラの瓶に小豆を詰めて しゃかしゃか しますね。
返信削除あかうなさん
返信削除ありがとうございます。応援いただけ嬉しいです。感傷的になるところ、しゃかしゃかと楽しいリズムが入り、ぱっとチューリップが鮮やかに咲いて歌い出した感じがします。
サンバのリズムにしましょうか。楽しみにしています。♪