細長く尖った蓋が美味しさを保証してくれるかのようなタジン鍋。
青が基調の華やかな模様が施されており、
鍋というよりは深皿のようなものを直火に晒して大丈夫かとの心配が先に立つ。
数年前に友人がモロッコ土産といって買ってきてくれたが、
その巨大さと、華やかさから、
置物のような気がして、
それならば、どこかに飾れば良いものを、
クローゼットのある部屋の片隅に押し込み、
好きなだけ埃が被るに任せたままにしてしまっていた。
今年、バッタ達がパパとバカンスで行ったモロッコのお土産といって、
幾つかの香辛料とともに、クッキングブックを買ってきてくれており、
夏に台湾から遊びに来た妹から、ぜひクスクスを食してみたいとのリクエストを受け、
改めて、クッキングブックを読み直していた。
カラフルな写真が満載で、
沢山のレシピを眺めながら、色々と想像することは、この上なく楽しく、
香辛料だけでなく、レモンやパセリがふんだんに使われていることに、
新たな発見をしたり、
どれに挑戦しようかと思いをめぐらしたりと、
夜寝る前の貴重な時間を飽きることなくクッキングブックの熟読にあてていた。
そして、写真の幾つかに、我が家の片隅に置き去りにされている、
タジン鍋そっくりな姿を確認する。
そうか、やっぱり、あれは置物ではなく、正真正銘のタジン鍋。
いつか、あの鍋でタジンを作ろう。
そんな思いが強くなった。
そして、今年は太陽の恵みである黄金の粒、ミラベルが豊作で、
日本から遊びに来ていた母が滞在中に、妹の子供達と大騒ぎで収穫し、
30以上の瓶詰めにしてくれていたが、
ちょうどタジンに入れるにぴったりではないか、と思うに至る。
こうして、
様々な思いが入り混じり、考えが発酵し、
ついに、或る日、タジン鍋を取り出す。
やっぱり、どう見ても、綺麗な深皿。
でも、細長く尖った蓋が、何かを主張している。
よし。
心が決まる。
じゃが芋、玉葱、コージェット、ポワブロン、茄子、
手元にある野菜を超特急で切り分ける。
2リットルの瓶にとっぷりと漬かっている黄金ミラベルを沢山取り出す。
プルーンも用意しておく。
そうして、深皿、もとい、鍋を火に掛ける。
こわごわと息子バッタが覗いて呟く。
「割れないのかなぁ。」
割れたら、割れたで、それまでよ。
オリーブオイル、
野菜を盛り付け、
骨付きの鶏の足を重ねる。
おっと、香辛料。
サフラン、クミン、ターメリック、塩コショウ。
そして、意外に重い細長く尖った蓋を落とす。
火を弱め、
見守りつつ、呪文を唱えたくなる。
長女バッタにベリーダンスでもさせようか。
おっと、そろそろ、彼女を迎えに行かねばならない。
心配そうな息子バッタ。
大丈夫。何もしなくていいわよ。
大きな瞳を一層大きく見開いて末娘バッタが驚嘆の声を上げる。
すごいね、ママ。
ママって、色んなお料理をして、すごいね。すごいね。
ふふん。末娘バッタには、未だ、ママの魔法がかかっている。
色鮮やかで細長く尖った蓋をしたタジン鍋を見つめる息子バッタにも、未だ魔法が効いているか。
にんまり。
さて、長女バッタは、なんと言うだろうか。
慌てて、車のキーをとり、外に駆け出す。
薄暗くなった空に、
くっきりと伸びた枝の先に赤い薔薇の蕾。
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