今年は最初から乗り気がしなかった。
いや、実は、毎年、直前まで気乗りしない。躊躇してしまう。
せめて週末だけでも運動をしているなら違うのだろうが、
ランニングに短パン姿で、日曜の朝、パリに繰り出して走ることを思うと、
どうも気持ちが萎えてしまう。
特に、今年は、社内でちょっとしたゴタゴタがあったことから、
社名を背負って走ることに、正直喜びを感じることはなく、
チームスピリッツなんて、ちゃんちゃらおかしくて、臍で茶が沸かせられるほど。
「だけど、名乗りを挙げたんですよね。」
とは、隣の席の学生研修生。
そりゃあそうだけど。
金曜の夜、8時半。
陸上の練習を終えた長女バッタを迎えに行って、
その溌剌とした姿にまぶしさを感じながら、膝を打つ。
そうだ、長女バッタに代わって走ってもらおう。
土曜の夜、私よりも背も高くなり、ボリュームも勝ってきた彼女を膝に乗せ、
それこそ、猫なで声を出して頼んでみた。
「えっ ?明日の朝なの?で、私がママの代わりに走るって ?何考えているのよ。できないよ、そんなの。心の準備もあるし、私、宿題だってあるんだから。」
嘘ばっか。さっき、宿題は金曜の夜に終わったから、日曜はゆっくり遊ぶって言っていたじゃない。しかも、貴女にとって、6kmの距離なんて、へいちゃらよ。朝飯前じゃない。
ママを助けてよ。
「そんなに嫌なら、ママが行かなければいいじゃない。」
そんなわけにはいかないのよ。会社でエントリーしているんだもの。
なんで、ママの尻拭いを私がするの?とばかりに、冷たい視線を突きつけてくる。
「わかった。ママが行く。だから、もう、寝る。」
ぶっきら棒に告げ、布団にもぐりこんでしまう。
娘に頼んだ自分が馬鹿だった。そもそも、毎回、あんなに楽しんでいるではないか。
タイムを競う必要はない。朝から晩まで、休む間もない過密スケジュールをこなしているのだから、疲れていて当然。せめて、今年はアルコールの摂取はしていない。
昨年、友人宅に呼ばれて、遅くまで飲み食いした翌日の走りが辛かったことを思い出す。
明日は、とにかく楽しもう。それでいいじゃない。
臍を固める。
翌日、息子バッタの部屋から筋肉マッサージ用のクリームを失敬し、丹念にすり込む。
今年の夏、母が教えてくれたパワージェルなるエネルギー補給食を確保。
ピンクのランニングなんて、一体うちの会社は何を考えているのか。
ゼッケンをつけようと思って、のけぞる。
なんと!慣れ親しんでいる我が名ではなく、別人の名前が明記されている。
やはり、これは、やめるべきとの神からのお達しなのでは。
そう思うが、仲間の顔が浮かぶ。
ゼッケンが入っていた封筒をもう一度確かめると、手書きで名前の変更がなされている。
色々あったことは聞いている。担当者の苦労もいかばかりか。
まあ、いいではないか。
参加することに意義あり。
眠い目を擦るバッタ達にビズをして、いざ、出陣。
雲一つない晴天に恵まれたパリ市主催の女性向けプチマラソン、パリジェンヌ。
今年で16回目となるが、エッフェル塔の下からスタートし、大通りをイエナ広場に向かって上り、ダイアナ妃の事故現場アルマ広場でセーヌ河沿いにユータン。ビアアケムで橋を渡り、反対側のセーヌ河沿いを改めてエッフェル塔に向かう。何度か迂回し、最終的にシャンドマースの反対側でゴール。6キロのコース。
早朝の空気にきらめくパリでは、3万人近い女性たちの笑顔が輝いて待っていた。
誰もがはちきれんばかりに嬉々としている。
スタートを待つ間に、彼女達に揉まれ、気分が高揚し、気がつくとNikeのインストラクターに倣ってパリジェンヌたちと準備体操に飛び跳ねていた。
いつになくリラックスしている自分にちょっと驚く。
そして、待ちに待ったスタート。
沿道からの声援はもとより、ジャンベ部隊、金管楽器部隊、フラダンス部隊、皆が応援してくれる。
途中の配給所で水のコップをさらうように奪いとりつつ、「メルシー」と叫べば、「メルシーなんて、あんた嬉しいこと言うじゃないか。偉いよ。頑張ってよ。」と応援の声。
毎年、ゼッケンの名前を見て、全く知らない人たちから声が掛かる。
去年など、仏語なのに、既に亡くなった日本の祖母にそっくりの声音。
今年は、ブランコで消したにもかかわらず、走りながらブランコが剥げ落ち、
ファニーという名前が浮き出てしまう。
そこで、ファニー、頑張れよ。どうしたファニー、と声を掛けられる。
ファニーでも、なんでも、とにかく、嬉しい。
通りでも、どこでもブラボーの声、声、声。
パリ中が応援してくれている、いや、賛辞を送ってくれている。
人間は所詮一人、などと思うこと多い此の頃だったが、かくも多くの人々に応援され、生かされているのか!
最後の1km。
お得意のラストスパート。
後は、死んでも構わない。今走らずして、いつ走る、とばかりに、馬鹿力発揮。
ゴール近くに、カメラマンが構えている。
沿道の観衆に、応援してよ、のジェスチャー。
そしてカメラマンに、笑顔。
自分でも驚く余裕。
カメラマン達から「ブラボー!」
ゴールインしてからも、暫くは足が止まらず、火照った頬は火を噴かんばかり。
水を先ず受け取り、渇ききった喉に流す。
そして、
5つ目となるパリ市庁からのメダルと
一輪の薔薇を手にする。
よし。
爽快さと満足感が心を満たす。
ふっふっふ。
まだまだ長女バッタになぞ渡せまい。
現役。
意気揚々と仲間が待つ会社のスタンドに足を向ける。
空はますます青く、
まだまだ続く出走者を応援するジャンベの音が遠くに響き渡る。
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