住所を見た瞬間、
記憶の断片がよみがえり、
21年前の夏、
毎日のように歩いた場所じゃない、と
地図を確かめずに出かける。
不思議なくらい昔と同じように若者でにぎわい、
通りに所狭しと並べてあるブラッスリーやカフェのテーブルで
皆それぞれにそれぞれの時を過ごしている。
いつの間にか、本格的な夏がパリにも訪れていて、
明るい日差しがまばゆい。
確か、ここに道があるはず、
記憶をたどりながら自信を持って歩いていたはずなのに、
どうやら記憶はそこまで厳密ではない模様。
約束の時間に遅れてしまう。
小走りになると
爽やかなパリでは珍しく、
汗がじんわりと感じられる。
キオスクに駆け込む。
それこそ21年前に、必死で何度も繰り返して覚えた丁寧な言い回しで道を尋ね、
煙たがれ、悲しくなった思い出がよみがえる。
きっと、ボンジュール、と笑って声を掛けるなんてできずに、真っ青で、早口で、何を言っているのか分からない口調だったのだろうと当時を振り返る。
「そこの道を入って真っ直ぐ行くと、すぐに分かるよ。」
にっこり笑って、お礼を言って、慌てて駆け出す。
そうか、この道なんだっけ。
なんだか、とっても嬉しくなる。
記憶って本当にあてにならないし、
どんなことでも、いずれ忘れてしまうという、当たり前のことが、
今はなんだか嬉しい。
新たな出会い。
いや、改めての出会い。
目指した通りはすぐに見つかる。
結婚式の為に駆けつけてくれた祖母を始め家族と泊まったホテルが見える。
今回は、そこではなく、
ちょうど斜向かいとなる別空間に。
ほら、
凛とした笑顔がもう見える。
遅れちゃってごめんなさいね。
急いで駆け込む。
芍薬の芳しい香りがひんやりとした中、静かに迎えてくれる。
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