雨が降るたびに秋は深まる。
森では、ばらばらと栗が落ちてきて、イガの中から艶やかな茶色の実を幾つものぞかせている。胡桃の実も、ぽとんぽとんと落ちてくる。子供たちのポケットがリスの頬の様に、ぷっくらと膨らむ時期。真っ赤に染まった掌の大きさの葉、濃い黄色の葉。どんぐり。
故郷の秋に思いを馳せる。山はすっかりと趣を変え、道は赤や黄色の絨毯に彩られる。
当たり前のように享受していた日本の秋をバッタたちに見せてあげたいと思う。
マルシェにも秋の香りが満ちている。
大きなオレンジ色のカボチャ、飾っておきたい程の様々な形と色をしたカボチャ。バッタたちに、日本のホックリとして甘い栗南瓜を食べさせてあげたいと思う。
茸コーナーでは、種類がいつになく豊富。
セップに目がいく。トリュフ程ではないが、フランスでは高級な茸として分類されようか。それでも、セップのオムレツなど代表料理は庶民的。いつの頃からか、このセップを日本の松茸の様に思い始めていた。多分、人々がセップについて話す時の思い入れが、日本人が松茸について語る時の様子に似ていたからだろう。値段だって、普通に手に入るシャンピニオンとは比べられまい。
柚子の香りと松茸。土瓶蒸し。
子供ながらに、贅沢だと思っていた。一人ひとりに小さな土瓶。蓋の上にちょこんと載っている、これまた小さな受皿に、土瓶から香り豊かな松茸のお吸物を注ぐ。そのお味ときたら、豊潤な秋を凝縮している。
紛いなりにも、このお吸物をバッタ達に味あわせてあげよう。
おもむろにセップを手にする。これまで、マルシェで買ったことがなかったが、贅沢への抵抗感がなかったとは言えまい。しかし、バッタ達に贅沢を経験させるのも、親の務めではあるまいか。
そうして、丁寧に出汁をとり、薄っすらとセップを切り、お吸物を作る。セップの笠がどうもしゃんわりしていることが気になるが、さてさて。
バッタ達はママがまた何か新しいことをしていると期待に満ちた面持ちで揃っている。
湯気には幸せ感をもたらす何かがあるのだろう。一口含んで、これはいけると思う。
美味しいっ!
声が挙がる。が、すぐにトーンが曖昧になる。具を口にしたバッタ達が、これは何だと訝しがっている。
ママ、何入れたの
えっ?セップぅ?
ニヤニヤしている。
ママ、今度はオムレツにしてね。これはオムレツ向きだよ。
長女バッタがつなぐ。
まさか。
慌てて口する。
とろりととろけんばかり。
おおっ。
セップと松茸は似ても似つかぬ別物。何だってこれまで一緒だと思い込んできたのだろう。西洋カボチャと栗カボチャの違いどころではない。
人間、謙虚でいなければ。これまでの知識なんて、思い込みの積み重ねに過ぎまい。ふやけた味のセップを口にして、しみじみ思う。
さて、次回はオムレツとするか。
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