早朝のバスに乗っていると、声を掛け合わなくても知り合い気分になる。
一番前に座っている白髪のマダムがいないと、今日はどうしたのかな、と心配したりする。皆、話し合ったわけでもないのにちゃんと指定席があって、知らない人が自分の席に座っていたりすると、あら、といかにも席を奪われたような気持ちで落胆してしまうから、変なもの。勿論、席には座らずに、立っている人も数人いる。
ある日、いつもは誰もが無口なバスの中で、ちょっと華やかな雰囲気を醸し出している家族の存在が目立っていた。どうやら、小学三年生ぐらいの息子の初めての研修旅行らしく、小さなスーツケースを持った少年と、その両親と思われるカップルがにこやかに話をしている。女性のボリューム豊かな黒髪を眺めるともなく見ていると、ふと、その隣の男性に目がいく。
えっ?
彼は、いつも一人物憂げに席に座らずに立っている、ジャンバー姿の背が高くて、やや精彩を欠いたような青年ではないか。いや、精彩を欠いたなどと言っては失礼だし、その日は背筋をちゃんと伸ばし、息子に諭すようなまなざしを向けた横顔などは、しっかりとし、輝きさえ放っている。そして、よく見れば、青年ではなく、父親の横顔である。
なんだか、電撃にでも打たれたような思いがする。
こちらもしゃきっと目が覚め、背筋伸ばしバスを降りる。
ボンジョルネ。いってらっしゃい。
早朝の暗闇を明るい駅に向かって走り出す。
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