聞いていなかった、と思う話が多いこの頃。末娘バッタにしてみれば、ママにはいつだってちゃんと話をしているとのこと。私がうっかりして、話を半分にしか聞いていないのだろうか。
この金曜の夜の話も聞いていなかった。一人の友達の誕生日を祝うために、もう一人の友達と夕方からパリに行って、帰りが遅くなるので皆で我が家に泊って、翌日お昼前に解散。試験や研究発表会、コンサート、色んなイベントが目白押しでとにかく忙しいと言っていたのに。誕生日だから、特別らしい。確か、プレゼントを別の4人ぐらいの友達と贈るのではなかったか。それはそれで、今回のイベントとは違うらしい。
これまでにも、一人の友達の誕生日を、別のシチュエーションで何度も祝っていることには、気づいていた。祝う友達の顔ぶれ、場所、内容がそれぞれ違う。最近はそんなものなのだろうか。
あいまいな返事をしていたが、夜になって、実はパリに出掛ける案はなくなり、よって、誰も泊りに来ないことになったと言われる。そうなると変なもので、娘が不憫に思われてしまう。親御さんにしてみれば、二週間ものバカンスが漸く明けて勉強モードになったと思えば、イベント尽くし、飛び石連休ありで、子供たちの学習態度が心配なのだろう。そりゃあそうだ。それでも、友達のためにアイディアを練って企画した末娘バッタが淋しそうな様子に、優しい言葉を掛けてしまう。残念ね、仕方ないわよ、次回は皆泊ってくれるといいよね、などなど。
ところが、その夜になって、二人とも親の承認を得られたので、イベントを決行すると言う。軽食を持ち寄って、セーヌの川沿いでピクニックをするらしい。寒かったら、家で皆でピザでも作って食べることを提案してみたが、16歳の少女たちは雨が降ってもパリに行くだろうことは容易に想像がついた。
時計の針が既に翌日の時を刻み始めた頃、SMSを送る。「もう帰ってこないと駄目だよ。家に鍵をかけちゃうぞ。」すぐに返事が来る。「今電車の中。もうすぐ帰ります。気を付けるから大丈夫だよ。」
8月にはブルターニュ地方のパピーの故郷である小さな島で、夜遅くまで友達と自転車で遊び回っていることは知っていたが、ここは、あの平穏な誰もが誰をも知っている島ではない。この間だって、自転車に乗っていて、知らない男性にクラクションを鳴らされたと言っていたではないか!挑発するつもりは本人たちには毛頭なくとも、存在自体が挑発している年齢層にあることを全く自覚していない。末娘バッタに何かあったら、というよりは、そのお友達に何かあったら、との心配の方が募ってしまう。
「知りません。」
そう書き送ったものの、何事もないことを願うというよりは、ありとあらゆる最悪の事態を考えてしまい、心配で目がぎらぎらとしてしまう。
随分と時間が経ったようにも思えたが、実際はそうでもなかったのかもしれない。扉の開く音がして、家の空気が動いた。友達も遠慮してか、その後の音がない。こんな時間なのだから、恐縮して当然だろう。ひょっとしたら、末娘バッタから私のメッセージを聞かされ、怒られては敵わないと、皆それぞれ家に帰ったのだろうか。そう思いつつも安心して寝てしまう。
翌朝、玄関には丁寧に靴が並べられていて、友達が泊っていることが分かる。朝食にパンケーキでも焼こうか。いや、ケーキにしよう。ふんわりと優しくて、中がしっとりとしているレモンケーキがいい。レモンの代わりに燦燦と降り注ぐ太陽を一身に浴びて育ったオレンジを入れよう。元気な16歳のお嬢さんたちにはぴったりではないか。
ふと、そのうちの一人が17歳になったことを思い出す。甘い香りがキッチンに溢れてくる。
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