通りを曲がる前から、甘く芳しい香りが風に運ばれてきて、思わず歩みを緩めてしまう。
純白のリラの花房の重みで細い枝がしなっている。見上げると青い空。
この香りを届けたくて、袋に白、薄紫、赤紫の花房を一杯に入れ、何人もの友人宅に押しかけて行ったことを思い出す。思い込みが激しく、思い込んだら突っ走る性格。あの時の情熱はどこから溢れてきたのだろうか。もちろん、皆喜んでくれたが、大ぶりな枝ごとのダイナミックな花束に面食らった人もいたろう。
そんな友人たちの多くは、日本、北欧、パリ、南仏にとそれぞれに引っ越してしまっていた。それでも、庭に出て、見事な花房をつける枝を斬り落とし、花束を作る。ご近所に一人で住む85歳になるマダムに届けようと思い、末娘バッタにその旨声を掛けると、マダムの家にはそれは見事なリラの木があると言われてしまう。我が家のドアを開け、お向かいにあるマダムの庭に目をやると、確かにそこには色とりどりのリラが初夏の風に光っている。それもそうかと、我が家の玄関に飾ることにしてしまう。それが10日前の土曜日のこと。
その後末娘バッタから、マダムが体調が悪くて寝込んでいたことを聞かされる。高熱で意識が朦朧とする日々が続いたらしい。「ママがあの時、リラの花束を持って行ってあげたら、と思うと!」末娘の心配そうな顔。学校の帰りに顔色のすぐれないマダムに通りで会って、話を聞いたらしい。
会いに行こうとの思いがあったなら、庭にリラが咲いていようと、我が家のリラの花束を持って行けばよかったと、後悔してしまう。
ちょっとしたお菓子を作って届けようか。キッチンにはちょうど色付いてきたバナナが2本。最近お気に入りのシナモンたっぷりのバナナケーキにしようかと卵を割り始めたところに、末娘バッタが登場。バナナのケーキなら、シフォンケーキ以外には考えられないと主張する。ママが作るケーキで一番好き、とまで言われてしまい、ここは喜んでシフォンケーキに変更。
ふっわふわのバナナシフォンケーキが焼き上がる。生クリームと苺で飾り、マダムの家の前に立つ。藤の花の香りに優しく包まれながら。
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