2017年1月21日土曜日

緑の芋虫君







モバイルオペレーターからのセールスコールが煩わしい。
一体、いつライバル社に携帯番号が伝わったのか。着信拒否としても、いつの間にか別の番号を使って掛けてくる。次第に、登録していない番号からの電話は機械的に取らなくなっている。

それでも、呼び出し音は鳴るので、仕事中はボリュームを消していることが多い。
後からメッセージが入っていることに気が付き慌てることもあるが、大して支障はない。

そんな状態で見つけたLINEメッセージ。
送られてきた画像には、バイオリンケースの中にバイオリン、もとい、緑の芋虫君のぬいぐるみが収まっている。

おいおい。
中学生の息子のバイオリンケースに、そんな悪戯をするなんて。
だから声変わりしても、彼はいつまでたってもママっ子なんじゃないか。そろそろ、そんなママの行為を嫌がっても良さそうなのだが、本人も嬉しがっているに違いない。まったく、こんな画像を送ってくるなんて、どういう料簡なのか。

中学時代、書道教室で筆をとろうとカバンを開けたら縫いぐるみが出てきて慌てて隠したことを思い出す。学校でも、スポーツバックに入れられたっけ。あの頃とちっとも変っていない。

やれやれ。
嫌味の一つでも書き送ろうかと思っていると、メッセージが届く。
「元気でた?」

モノトーンの世界から一瞬にして鮮やかなカラーの世界に。
優しい思いがゆっくりと身体中に伝わる。

ありがとう。
元気、でたよ。





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2017年1月16日月曜日

ふっとちょの鳩









ふっとちょの鳩が一人地面をついばんでいる。
仲間はどこへいったのか。

遊びに来る鳥たちは、時間割でもあるかのように、決まって集団行動。
コマドリやキツツキが時々、一人できままに遊びにくるぐらい。
スズメもカケスもカササギも、仲間で遊びにくる。鳩も例外ではない。

ところが、寒い中に珍しく太っちょ君は一人。

凍った地面にミミズでも見つけたのか、嬉しそうにぷるぷる震えながら、しきりについばんでいる。

くーと鳴くでもなく、一心不乱のその姿は愛嬌さえ感じられる。


鳩への特別の思いなんて、今まで感じたことがないのに、突然の温かな感情に自分でも戸惑ってしまう。


冬の斜めから差し込む太陽の光を浴びて、ぬくぬくと一人地面を歩き回る姿に見とれてしまう。


その図太さ、気に入ったぞ!





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2017年1月15日日曜日

ある冬の土曜の午後







「ねえ、雪が降ってきたよ。」

水気をたっぷり含んだ大きな一片がぽとりぽとりと舞い降りている。

「積もるかな。」
土曜の午後、一人で家に残っていた息子バッタが応じる。

地面にたどり着く前に溶けてしまいそうな雪片。
あめゆじゅ。

そのうち、雪が降っても、伝える相手がいなくなるのか。

ひっそりと静まり返った庭に、あめゆじゅだけがぽとりぽとりと舞い降り、
地面にたどり着く前に、
溶けて、消えてゆく





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2017年1月13日金曜日

新年のメッセージ







新年早々にメッセージが届く。

そうね。
近いうちに会えると本当に嬉しいけれど。


年を重ねると、時間の流れが速いと感じると同時に、若い頃のように、この瞬間に、すぐ!といった焦燥感が薄れてくる。我慢強くなるというか、気長になるというのか、人生のなんたるものかを分かり始めてきたというのか。

本当は、今、この瞬間に会いたい。
それでも、そう思う気持ちをゆっくりと楽しむ余裕も出てきてしまっている。

そっとしておこう。
大切に。






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2017年1月11日水曜日

プルースト効果









このマドレーヌには、レモンが入っているのですか?

鱸を捌こうと、出刃包丁を丁寧に研いでいると、こんなに熱心に長い間包丁を研いでいる姿を見たことがない、と面白そうに感心していた青年が、今度は先程食べたマドレーヌの話をする。

そうよ。分かった?

そう言うと、嬉しそうに頷く。

正確に言えばライム。丁度レモンを切らしてしまったので、濃厚な緑色のライムの皮を削り入れた。爽やかな香りと、思いがけない彩を生地に添えていた。青年の嬉しそうな表情に、ライムだったわ、とも言えずに、まあ同じ柑橘類だから、いいか、とする。これが息子バッタなら、ベルガモットでさえも、レモンと一括りにしてしまうと煩いところ。

出刃包丁なんて、普通のフランスのご家庭ではお目見えしないのだろう。ましてや、それを研ぐなんて、滅多に見られまい。

フランスに留学で来てすぐに、マルシェで買い求めたものが研ぎ石。フランスの全く切れない包丁に呆れていた時、目にし、すぐに手に入れた。

久々の長女バッタがいる食卓に、お刺身をと張り切ってしまう。きっとバッタ達も親となれば、いつか子供たちのために包丁を研ぎ、お刺身を造るのだろう。

くだんの青年は、いつかまたライムの香りが豊かなマドレーヌを口にする時がくれば、包丁を真剣に研ぐ姿を思い出すだろうか。

どうやらプルースト効果は、作り手にも現れるようである。





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2017年1月9日月曜日

凍てついた日には






凍てついた冬の庭で、何かが白く光っている。
慌てて外に出て見ると、蜘蛛の巣。すっかりと凍ってしまっている。

長女バッタが幼い時、雨が降る前に慌てて蜘蛛は巣を張るんだよ、と言うと、「あ、蜘蛛さん、間違っちゃったかな」と、あどけない表情で空を見上げたっけ。

彼女の見上げた向こうには、雨なんかの気配はちっともなく、真っ青な空が広がっていた。


凍った蜘蛛の巣の主はどこへ行ったんだろう。
風が吹いてしまえば、ぱりぱりと音を立てて壊れてしまいそう。

いや、蜘蛛の巣が奏でる音楽って、ちょっと悪くない。
秘密のメッセージが込められていそうな気さえしてくるから不思議。

そう。
凍てついた日には蜘蛛の巣でメッセージを送ろう。
相手に届く頃には丁度よく溶け始め、しゃらしゃらと音楽を奏で始めるだろう。

メッセージは一度だけ。
どうぞ心して聞いてください。








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