このマドレーヌには、レモンが入っているのですか?
鱸を捌こうと、出刃包丁を丁寧に研いでいると、こんなに熱心に長い間包丁を研いでいる姿を見たことがない、と面白そうに感心していた青年が、今度は先程食べたマドレーヌの話をする。
そうよ。分かった?
そう言うと、嬉しそうに頷く。
正確に言えばライム。丁度レモンを切らしてしまったので、濃厚な緑色のライムの皮を削り入れた。爽やかな香りと、思いがけない彩を生地に添えていた。青年の嬉しそうな表情に、ライムだったわ、とも言えずに、まあ同じ柑橘類だから、いいか、とする。これが息子バッタなら、ベルガモットでさえも、レモンと一括りにしてしまうと煩いところ。
出刃包丁なんて、普通のフランスのご家庭ではお目見えしないのだろう。ましてや、それを研ぐなんて、滅多に見られまい。
フランスに留学で来てすぐに、マルシェで買い求めたものが研ぎ石。フランスの全く切れない包丁に呆れていた時、目にし、すぐに手に入れた。
久々の長女バッタがいる食卓に、お刺身をと張り切ってしまう。きっとバッタ達も親となれば、いつか子供たちのために包丁を研ぎ、お刺身を造るのだろう。
くだんの青年は、いつかまたライムの香りが豊かなマドレーヌを口にする時がくれば、包丁を真剣に研ぐ姿を思い出すだろうか。
どうやらプルースト効果は、作り手にも現れるようである。
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