悔しいと思うと、
涙が頬を伝いそうで、食いしばる。
都会の薄明るい夜空でも
くっきりと真ん丸な月が輝いて見えるが、
兎の耳の形さえ慰めにはならない。
空きっ腹にアルコールがいけなかったのか。
これが18年間務めてきた会社での集大成なのか。
悔しい。
何が悔しいかって、
あの、こまっしゃくれた火星人のような、10センチもするヒールを履く、
世間なんて、ちっとも知らない、
舌足らずの彼女が言ったことが、
実は、当たらずと雖も遠からず、であるから。
しかし、あんな言いようがあろうか。
気がつくと30キロはスピードオーバー。
夜の高速をガンガンと飛ばしてしまう。
バッタ達はひっそりと寝静まっている。
と、長女バッタが出てくる。
一通り捲くし立てる。
「ママさぁ。
そんなの、真っ直ぐに受けないで、はぐらかして答えないと。」
そういえば、成績会議はどうだったの?
あっという間に消えてしまう。
母親の憤懣が我が身に落ちることを上手に避ける術をすっかり身につけたらしい。
熱いお風呂に入りながら、
ぎょっとする。
そうか。。。
あの時。
そう、昔むかし、
日本で会社を辞める時に、
大変お世話になった、別の部署の方々が、壮行会をしてくださった。
確か、後楽園近くの飲み屋。
あの時、
お酒をいただき、好い気になっていたのだろう。
うかつにも、入札案件が無事落札する割合を聞いてしまった。
普段は静かで、落ち着いた部長が、
震える声を振り絞るように、
「僕は滅多なことでは怒らないのですがね…」
と仰った。
しまった、
と思ったときは既に遅し。
どう謝ったのだろうか。
うやむやにしてしまったのか。
あの時のヒヤリとした思い、
胸の底に冷たく走った思いが、
甦る。
若さ、なのか。
今になって、
あの時の自分の発した言葉が、
宇宙を巡って、
戻ってきたのか。
重い心を引き摺って、
それでも、気になることがあったので、
仲間達に連絡メールを送る。
つい、甘えて、
今晩は色々あって落ち込んでいる、
とのフレーズを滑り込ませてしまう。
今朝、オフィスでメールをチェックしていると、
朝の5時きっかりに、
メールが入っている。
「どうした?大丈夫?」
嬉しさと、甘えた自分を見透かされた思いが交錯する。
午後に、
別の連絡事項もあって、
かつ、
つい、誰かに慰めて欲しい気持ちが働いて、
気がついたら長いメールを書き送っていた。
それでも、
以前、友人から、自分の辛さを人に言って、慰みを求めることほど醜いことはないから、そんなことはしなさんな、
と忠告されたことを思い出す。
厳しい忠告ではあったし、
正に傷口に塩ではあったが、
おかげで強くなれたかもしれない。
すぐに長い返事が来る。
会社のことで辛い思いをしたんだね。
これまで、どれだけ多くの工場で働く労働者達が不当な扱いを受けてきたか。
そうして、今、それが、高等教育を受けた、優秀で、能力のある人材にも及んでいる。
資本主義は容赦しない。感情なんてない。
喰うか喰われるか。
それだけがルール。
こんな言葉が慰めになるとは思っていないよ。
いつだって必要な時は泣いていいんだし、助けを求めていいんだよ。
泣くことは、悲しみや孤独を振り払ってくれる。
いいかい。
今、君の会社で起こっていることは、ちっとも個人的なことなんかじゃないんだよ。
君でも、君の仕事でも、そして恐らく君の会社が問題でもないんだ。
喰うか喰われるか。
それだけなんだよ。
と、言うことはだよ。
君のその凄まじいばかりのエネルギー、君の心の豊かさ、君の魂には、ちっとも変わりはないんだよ。いや、この時期を経験することで、君は人間的にもっと豊かになっていくのかもしれない。
君を愛する全ての人々にとって、君はいつだって我々の君なんだ。
君はいつだって僕の心の妹なんだよ。
涙が止まらない。
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