タパスの用意なら何とか準備できたよ。
だから、アペロ、タパスそしてお喋りの夕べ。それでいい?
そんなメールが舞い込む。最近こそ日曜日に午前中なら開店するスーパーが見られ、祝日も例外ではなくなってきたが、それでも、流石にメーデーの日はどこもシャッターを下ろしていると思われた。そんな日の誘い。
タパス。それなら、タパスっぽいデザートを用意しよう。
冷蔵庫に転がっているグレープフルーツを使ってのムース。バナナゼリーなんかどうだろうか。ミラベル酒のゼリーも悪くあるまい。
勿論、純白、薄紫、濃紫のリラの花束も忘れずに。
招待されているのが、私一人なのか、聞こうかとも思った。心の準備ではないが、デザートの準備というものがあるだろう。でも、何人いても、二人だけでも、いいではないかと思い直す。
アペロなら、何時に行けばいいのか。これも聞きそびれてしまう。いつ行っても、きっと歓迎してくれるだろう。
もう何度目かになる道をリラの馥郁たる香に包まれて驀進する。一年ぶりになるのだろうか。いつもの笑顔で迎えてくれる。キッチンのテーブルにはサラミ、オニオンペースト、オリーブ、ヒヨコ豆、サラダ、オムレツ、ピザなどが盛り付けられた小ぶりなお皿が所狭しと並んでいる。
海外からのオファーの話。どのような条件なのか、新たな環境について詳細に語ってくれる。生き生きと嬉しそう。最初は乗り気ではなかった家族も、今では賛成しているらしく、良かったなと心から思う。今度は私の仕事について聞かれる。今は、話したくないの、と言いながらも、ついつい、語り始め、気が付くと、大演説をしてしまっている。それから、今のフランス社会の持つ問題点を語り合いながら、久々にこんな話ができて嬉しくなってしまう。立ち止まらずに駆け足で、がむしゃらに走っていて、こういった時間を持ててこなかったことに、気が付く。
別れ際に、ポツリと彼が漏らす。未だ最終契約を交わしていない段階であり、今の職場には伝えていないので、どうもやりにくい、と。既に彼の心は新天地での新たな生活で一杯なのだ。しかし、今のポストだって、そう簡単に辞められるものではないだろう。後任者の選定や引継ぎだってあるだろう。そう言うと、いつものにんまり顔で「Personne n'est irremplaçable!」と笑う。平たく言えば、誰かの代わりが見つからないことなどない、ということ。
貴方は唯一無二よ!
がしっと抱きつかれ、キスが舞い降りる。
8月の引越までに、また会えるといいけれど。ひょっとしたら、これが最後かな。一瞬頭を過ぎる。
晩春の夜は暖かく、リラの香りが漂っている。
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