ママ、具合が悪いの。午後の授業出れない。
携帯の向こうから、蚊の鳴くような声が聞こえる。長女バッタ。一体何事か。
学校から欠席の連絡を受けて初めて我が子の欠席を知ることが多い高校生。どうやら、教務課に連絡さえしてあれば、特にお咎めはなく、しかも、親のサインも必要ないと言われ、かなり面食らったもの。勝手に体調が悪いからと親に無断で授業を欠席をする娘を叱ったこともあったが、フランスの高校生は自己管理もしっかりしているのかと呆れつつも感心したものである。が、一体どうしたのだろう。
だって、本当は授業に出たいんだけど、本当に気持ち悪くて。
泣きそうな声が返ってくる。これは、どうやら、かなり具合が悪いらしい。心細くなったのか。案の定、学校に特に連絡する必要はないと言う。それなら、家に帰って寝ていてね、と告げて電話を切る。
仕事をしていると、子供の病気は辛い。バッタ達が幼い時も、我が家の辞書には病気という言葉はない、と宣言し、子供たちの体調管理には気を遣ったもの。バッタ達が目覚める前に家を出る為、オフィスに彼らから電話をもらった時には溜息が出たもの。彼らも一人でベッドで寝ているなんて心細いことはよっぽどでないとしたくない。すごすご学校に行ったことも何度もあった筈。
早く帰らないと、と思いながらも、その日もいつもと同じような時間帯になってしまう。もうすぐ9時になろうとしているのに、夏が近くなっているお蔭で外は未だ明るい。我が家も未だお昼のような空気が漂っている。キッチンは閑散としており、声を掛けるとレポートの宿題に取り組んでいた末娘バッタが大慌てて出てくる。息子バッタときたら、のんびりお風呂を楽しんでいるらしい。そうか、我が家は受験生の長女バッタに夕食をいつもお願いしていたのか。
長女バッタの部屋に行くと、真っ赤な顔で寝込んでいる。どうやら熱があるらしい。しかもかなりの高熱。あちゃ。
翌朝も39度の熱。お医者さんに電話をして予約し、自分で行ってもらえるかな。そう言うと、泣きそうな声で無理だと言う。腰が痛くて歩けないし、バスにも乗れない。ママ、連れて行って、と蚊の鳴く声。
随分な弱気。いつもは親なんて必要ないよ、の勢いなのに。この夏からは親元を離れちゃうんだぞ。一人で大丈夫か。それより、長女バッタがいなくなったら、我が家の夕食はどうなるんだ。しかし、受験生に夕食を任せている親って、結構世の中、多いんだろうな、と思ってみる。持ちつ持たれつ。
菖蒲色のカキツバタの花が直立し空を仰いでいる。
にほんブログ村
↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています
0 件のコメント:
コメントを投稿