「あのぉ。間違っています。読んだわけじゃないんですけど、ぱっと目に入って。すっごく迷ったんですけど、仕事関係のメールだったら困るんじゃないかと思って。ごめんなさい。」
30度以上の茹だる暑さの中、夜の電車に揺られながら、一件大切なメールを送っていないことに気が付き、慌てて書き認め、さあ送ろうとしようとしていた時だった。隣から声が掛かる。暑さと、一日の疲れで頭は朦朧としており、それでも必死で文章を書いていた最中、突然の一言に驚き、かつ、不快指数が一気に上昇する。
「えっ?それって、この文章を読んだってことかしら。」
思わず尖った声になる。
「いえ、違います。ぱっと間違いだけが目に入ったんです。」
隣の若者は顔を真っ赤にして、今にも消え入りそうな様子。「ごめんなさい、ごめんなさい。」を繰り返している。
人事関係の内容だったので、人に読んでもらいたい内容ではなかった。ただ、自分の世界に没頭していた自分がいけないのであろう。それにしても、隣から読まれているとはちっとも気が付かなかった。それよりも、間違いを他人に指摘されたことが不快感を一層引き上げていた。が、相手は非常に恐縮している。
「で、どこが間違っているのかしら。」
「あのぉ、«e» がいらないんです。」
「ん?どこ?」
この際、画面を彼女に見せる。
「ここです。」
おっ、最初の一文にある «une erreure» ではないか。確かに随分迷った。 «une erreur» と書いて、 «une » なら、最後に «e» がつくのではないかと思い、« erreure » と書き、やっぱり変かなと « erreur » と書いては消し、書いては消し。その繰り返しを何度かし、取り敢えずは « erreure » として放って置いたところ。
そうか。ありがとう。微笑むと、消え入りそうに身を小さくしていた彼女もにっこりとする。「お仕事の関係のメールだったら、お困りになると思ったんです。文章は読んでいないですから。」
あ~あ。エラー、間違い。それこそ、エラーをしてしまったか。お節介な彼女の素直さに感謝し、やれやれと思いつつ、メールを改めて読み直し、送信する。
電車内の熱気は一向に下がらないが、なんだか爽やかな思いに包まれる。
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