珍しく携帯が鳴り続けている。
最近はLINEにしろWhatsAppにしろMessengerにしろ、とにかくメッセージでの連絡が多い。なぜアプリを使い分けるのか。皆が同じアプリを使ってくれれば楽なのにと思う反面、どのアプリでも簡単にメッセージを見ることはできるし、そう不便でもない。
携帯を確認すると、相手は寮生活中の息子バッタ。
パック(イースター)のロングウィーケンドはパリの父親のところに行く予定だが、どうかしたのだろうか。
「具合が悪いんだ。熱が38度8分ある。」
辛そうな声が届く。
フランス人と日本人は一般に体温が1度は違う。37度で微熱があって辛いなどと言おうものなら、フランスでは驚かれるか馬鹿にされる。なぜなら、彼らの平温が37度以上なのだから。
働く親にとり、子供の病気とヌヌ(ベビーシッター)の休みは、できるなら避けたい事態。バッタ達が起きる時間には会社にいた私にとって、子供が病気だからと飛んで帰る余裕はなかった。我が家の辞書には「病気」も「医者」もない、と言えるほど、バッタ達はなんとか乗り切った。熱があれば一人でベッドで寝て回復を待つ。
だから、息子バッタからの電話に、声を失ってしまう。しかし、さすがに学校の寮だけあって、医務室もスタッフも充実しているらしく、午後には医者に診てもらえると言う。皆が授業を受けている間、閑散としている寮で一人寝る心細さを思う。
咳をしても一人。
「ママにできること、ある?」
「ない。」
そう言って電話は切れた。
夜、その話を末娘バッタにする。
「ママ、言っちゃったんだ。それって言われると一番つらい言葉だよ。」
え?どうして?何がなんだか分からない。
「だって、別にママにどうかして欲しいわけでもなくって、ただ、ママに聞いて欲しかっただけだもん。」
そうか。
生姜をすりおろして、レモンを絞り、蜂蜜を入れたホットドリンクを作ってあげたい。
二年前、中国に留学していた長女バッタから熱がひどくて声も出なくて寝ていると連絡が入ったことを思い出す。あの時も、何もしてあげられなかった。
彼らは、こうして、自分たちで困難を乗り越えていくようになるのだろう。黙って見守るしかできない。
幼い頃、獅子は我が子を千尋の谷に落とす話を母から何度聞いたか。厳しい母だった。泣きながらその話を聞いて、自分がライオンの子にまるでなったかの様に思い、どんなことがあっても、這い上がって行こうと思った。
千尋の谷に子を落とす程肝が据わった親ではないが、結果的に色んな場面で、谷に落としてきたのだろう。その度に這い上がってきたバッタ達。
そろそろバッタのネーミングも変える頃なのかもしれない。
ひとり、冷たい芯が残った春の風を頬に受けながら、暮れなずむ空を仰ぐ。
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