2023年9月28日木曜日

焼き立てのチーズスフレケーキ、忽然と消えるの巻

 





一週間ほどご長女のいるノルマンディーに出掛けていたお向かいの90歳になるマダムが、帰ってきたら丁度お庭の無花果が熟れていると、薔薇の花をあしらった小皿に幾つか盛って差し入れをしてくれた。


丁度庭の林檎でアップルケーキを焼いたところだったので、一切れお返しにお届けすることにした。無花果の粒は歯にはさまるから食べなくなったマダムだが、焼き林檎ならば大丈夫だろう。林檎の皮を剥いてはいないが、十分にフライパンで焼き色を付けてから、じっくりとオーブンで焼き上げたので、皮の存在を感じさせない仕上がりになっている。


あら、まあ、と円満の笑みで嬉しそうに受け取ったマダムだったが、アルミ箔をぱっととってケーキを見て、一瞬にして顔を曇らせてしまった。思い込みとは恐ろしいもので、「アップルケーキ」と伝えた筈だったのに、以前作って大好評を博した「チーズスフレケーキ」を期待していたらしい。


なんて純真なんだろう。そして、とても分かりやすい。


冷蔵庫に丁度クリームチーズがあったことを思い出し、翌日、例の割れないチーズケーキの焼き方を復習し、テレワークで自宅にいたことを良いことに、昼休みにぱぱぱっと焼き上げた。程よく冷めたところで、お皿に載せて写真を撮り、トンカの散歩に出掛ける時に、マダムに渡すことにした。


それから、ちょっとした仕事が舞い込んで、集中して作業をし、なんとかトンカが騒ぎ出す前に仕事を終え、トンカに夕食を与え、洗面所で手を洗って戻って来た瞬間、何か違和感を覚えた。何かがおかしい。


焼き立てのやわらかな甘い香りだけを残して、お皿からチーズスフレケーキが忽然と消えてしまっていた。お皿には、まだ温かさが残っていて、しっとりと湿り気があったが、それ以外は何もない。テーブルクロスに乱れもないし、椅子もきっちりとテーブルに収まっている。


え?


ぱっとトンカを見ると、舌をぺろぺろとしている。


え?君、夕食を食べたばかりだよね。その足で、勝手にデザートまで食べちゃったの?


おい、おい、おい!クリームチーズ200グラム、卵3個、砂糖60グラム、牛乳50㏄、バター30グラム、これ、みんなトンちゃんのお腹に入っちゃったの?


で、お味はどうだった?せめて、もうちょっと、味わって欲しかったなあ。


実は、準備していた焼き型に入りきれなかった分を、一人分程の量だがマグカップに入れて焼いていた。今回はマダムにはこれを差し上げよう。


その夜、すっかり満足したであろうトンカは、ぐずること一切せずに、お腹を見せてぐっすりと寝入っていた。まあ、時にはいいかな。一事が万事こんな調子なのだから、躾なんてちっともできていない。気持ちよさそうな寝息を立てるトンカに、ケーキが如何に美味しく焼けたかの答えを見た気がした。



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2023年9月27日水曜日

林檎讃歌

 





庭の隅にある小さな林檎の木の枝がしなる程に、今年は林檎の実が鈴なりになっている。朝日が差し込む頃に、林檎たちの弾んだおしゃべりが聞こえてきそうなぐらいに、小さな実が輝いている様子がキッチンの窓から見て取れる。


長女バッタがフィレンツェに旅立つ前に我が家で週末を過ごしたが、庭の林檎たちの様子を見て、もうちょっとだわ、と言っていたことを思い出す。その代わりではないが、爽やかな香り高いヴェルヴェンヌの葉を摘んで、お茶用にと紙袋に入れて持って行った。


我が家の林檎は、とても素朴な、それでいてこれこそが正統の林檎だわと思わせる、落ち着いた赤色をしていて、齧れば、その実はぱりりと瑞々しく、小粒ながら爽やかな酸味と穏やかな甘みを持っている。


遥か昔のことになるが、フランスに来た当初過ごしたパリの郊外にある大学のキャンパスは、驚く程周囲に何もなく、森を駆け抜けて漸くたどり着く、一時間に一本あるかないかの2両程度の電車が通る、小さな駅の近くに、猫の額ほどの小さな慎ましいお店があるだけの場所だった。


唯一実社会との繋がりを保てる気がするそのお店で、幼い頃を思い出させる林檎に出会い、思わず手にして、幾つか買ったことを今でも覚えている。ぱりりと瑞々しく、爽やかな酸味と穏やかな甘みを持っていた。なんて美味しいんだろう、そう思って、大切に、大切に、味わった。


不思議なことに、あの時の林檎を店頭で見掛けることはなくなってしまった。パリのスーパーやマルシェでも、これかなと思って手にする林檎は、どれも柔らかすぎたり、甘すぎたり、或いは酸味が強すぎたり、そして、毒々しい赤であったり、ピンク色が強すぎたりとしていた。


それがどうだろう。ここ二、三年で実がなり出した我が家の庭の林檎が、正に、あの留学時代に心震わせて食べた林檎と同じ味がするのである。いつの間にか、家主の嗜好が庭の植物たちにも伝わるものなのだろうか。


今年は林檎の当たり年。自然の恵みに感謝し、ありがたく頂くことにしよう。いただきます。



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2023年9月25日月曜日

天高く馬肥ゆる秋




 


どこまで踏み込んでいいのか、

どこまで踏み込むべきなのか。


自立した成人となったのだから、相談されないのであれば、話があるまで待つべきなのだろう。


それでも、親が子の幸せを願い、子の将来を心配するのは、当然のことではあるまいか。


天高く馬肥ゆる秋

そんな言葉がふっと唇にのる程晴れ上がっている秋空を仰ぎながら、溜息ひとつ。


なるようにしかならない。

大丈夫だよ。ママは何があっても君を応援しているし、君が選んだ道こそ、今の君が通るべき道なんだと思っているよ。


さあ、空を見上げてごらんよ。天空を駆ける駿馬が見えそうじゃないか。



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2023年9月23日土曜日

最高の賛辞






ひょんなことから、この9月から一年間、一週間に一回ではあるが、高校生を我が家に預かることになった。夕食を共にするわけだが、好き嫌いはないらしく、完食してはくれるが、美味しいからなのか、礼儀正しいからかなのかは、正直なところ分からない。と言うのも、おかわりのリクエストはなく、成長盛りの高校生なら、もう少し食べてもいいのではと、若干物足りなく思う程だからである。


以前、友人宅でご馳走になった時に、翌日のお弁当のおかずにと、ポテトサラダをお土産にいただいたことがあった。食べてみて、その繊細な味わいに思わず唸ってしまった。日本のおかずの代表格のポテトサラダではあるが、作り手によって味がこんなにも変わるものかと大いに感動したものだった。


そうか。ひとつ、このポテトサラダを作ってみようか。そう思ったら、リュックを背負ってジャガイモ、人参、玉ねぎ、胡瓜を買いに外に飛び出していた。


先ずはジャガイモと人参を良く洗って、ジャガイモは適当に切り分け、人参は大きめの塊のままで鍋に入れ、水を被る程度で、塩をぱらりと振り入れ茹で始める。玉ねぎはスライスにし、塩もみをして、辛味と苦味をしっかりと取り出し、水に晒しておく。胡瓜も、玉ねぎ程にはぎゅうぎゅうに揉まないが、塩もみをしておく。


ジャガイモの茹で上がりと同時に、人参も取り出し、ジャガイモを鍋に戻して粉吹きを作る要領で水気を飛ばし、熱いうちに若干の砂糖、お酢を振って下味をつける。人参は、好みの薄さに切り、玉ねぎと胡瓜は水洗いをして塩気を除き、十分に水気を切っておく。


ジャガイモはちょっと塊が残っている程度につぶし、マヨネーズ、お醤油一たれ、マスタードを入れて味付けをし、そこに玉ねぎ、人参、胡瓜を入れて混ぜ、ジャガイモを茹でたお湯で別途作っておいた茹で卵を手で細かく割り入れ、ふんわりと混ぜて、完成!


恐らく、生涯で初めて作ったポテトサラダ。しっかりとした歯応えがありながらも、ちゃんと茹で上がっている人参、しゃきしゃきの食感の玉ねぎと爽やかな緑の風を運んでくれる胡瓜、控えめながら、やわらかな優しさをもたらす、隠し味的存在の卵、そして、時々見え隠れする皮が元気な大地を思わせるジャガイモ。悪くない、ちっとも悪くない!


その晩、朝8時から授業が開始し、17時までノンストップでみっちりのスケジュールに加え、夕方の課外授業を終えてへとへとに帰って来た高校生君。夕食のメニューは、胡瓜のサーモン巻き、熱々のご飯に豚の細切れと糸コンの煮物、そして、ポテトサラダ。


お箸で器用にポテトサラダを取り、口にした途端、「Ah, c’est bon.」うっ、美味しい、声が漏れた。


やったね。これ程の賛辞はあるまい。




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2023年9月21日木曜日

思わぬ差し入れ

 





トンカとの散歩から帰ってくると、玄関脇に小さな包みがちょこんと置いてあった。おおっつ!近所に住む苔庵のマスターからの差し入れに違いない。散歩の途中に、別件でメッセージのやり取りをしていて、彼女が苺大福を上手に作れたことを知っていた。しかし、差し入れしてくれるなんて、感謝、感激、雨、霰。


果たして、真っ白で気品のある大福様がお出ましに。やわらかな甘い香りがふっと漂う。お皿に載せて、恭しく改めてご挨拶。かすかにピンク色が見えるところが、奥ゆかしくも艶やか。





さっとナイフをあてると、ぱっとルビー色の香気がたった。


うーん。ルビーというよりは、もうちょっと柔らかで、甘そうなイメージを彷彿とさせるものを考えないと、しっくりとこないか。


望月や ゆるりと割れば 初苺


望月や むっちり肌の 初苺


望月や みどりごの肌 初苺


大福は期待を裏切らないもちもちさ、白餡は甘すぎず、苺の甘さを優しく引き立ててくれている。感動の一品。マスターありがとう。



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2023年9月20日水曜日

9月の奇数週

 





日本に一時帰国して驚くことが沢山あるが、驚く内容が大まかに言って二種類ある。青年期まで過ごした日本との違い、そして、現在住んでいるフランスとの違い。その両方ともに当てはまることも少なくないが、その一つにごみ収集がある。


住んでいる自治体により、厳格さ、分別の仕方など様々であろうが、日本では兎に角仕分けの種類が多いことに驚いてしまう。実家では、風呂場前のドア一面に自治体から配布されたごみ収集に関する大きなポスターが貼られている。


上半分は廃棄物の仕分けの内容および廃棄する際の注意点をイラストで解説されてあり、下半分は一年のカレンダーとなっていて、色別、形別で、どの日にどのごみの収集日かが分かるようになっている。非常に工夫され、誰にでもわかりやすくなっているので、大いに感心してしまう。


一方、フランスの現在住んでいる地区のゴミの分別方法は、非常にアバウトである。大体、遵法精神というものが日本とは全く違うのであるから、推して知るべし、と言えようか。今回は、この点についてではなく、別の観点からの驚きの発見について語りたい。


以前から違和感があったことは確かである。それが、今回、在仏30年にして、漸く確信するに至ったのだから、全く今まで何をしていたか、と言う事にもなる。人間とは、無関心であろうと思えば、一向に何も考えずに生きていける。ただ、換言すれば、人によってはちっとも大きな発見でもない、となろうか。まあ、その辺は感性の問題なので、ここでとやかく言わないことにしよう。


さて、大まかに言って、生ごみ、紙ごみ・缶、ガラス、の3種類でゴミは仕分けされ、地区ごとに収集日が決まっている。生ごみは毎週2回、紙ごみ・缶は毎週1回、そして、問題のガラスが、自治体から配布された手に入るようなカードによれば、月の第1、第3週に1回、となっている。


問題は、ガラス廃棄物の収集日。月の第1、第3週に1回と明記されているのだから、当然の様に、収集指定日が水曜であれば、第一水曜と第三水曜と思うではないか。そう思って指定のゴミ箱にガラス瓶を入れて、指定されている通りに我が家の玄関脇に出して問題がない日もあれば、夕方になってもちっとも収集に来てくれない日もあった。


ガラス廃棄物なので、お隣さんをちらりと見ても、毎回出している訳ではないので、当てにならない。ぽつねんと玄関脇に出ているゴミ箱に、時々通りがかりの人が勝手にごみを入れていくこともある。信じがたい話ではあるが、黒いゴミ袋が入れてあったこともある。これまた信じがたいことだが、使用済みの妊娠検査のスティックが入っていたこともあった。


通りに投げ捨てなかっただけでも良しとするのか、何故に自分の家のゴミ箱に入れないのか、理解しがたいと怒るべきなのか。妊娠検査に至っては、妊娠を希望していない高校生あたりが慌てて検査し、証拠隠滅とばかりに捨てたように思われ、その軽々しさに教育上問題があると感じ、ゴミ箱から取り出し、通りに晒して置いておいた。それを見て我が行為を少しでも恥じ入り、以降もっと自覚した生き方をしていってくれれば、などと思ったものだが、はてさて。


それが、トンカと毎朝散歩をするようになって、別の通りを歩くにあたり、皆ちゃんと同じ日に、申し合わせたようにガラス瓶を入れたゴミ箱を出していることに気が付いた。そして、その日は必ずしも第一水曜と第三水曜ではないことにも気が付いた。


最初は地区が違うのかと思ったが、そんなことはない。通りの名前こそ違え、大通りから入った我が家の通りと並行した隣の通りなのだから。そして、まさか、まさか、と思いながらも、第一水曜と第三水曜という概念ではなく、月の第一週、第三週の水曜日、という概念なのではないかと思うに至った。


そして、そのまさかであった。自治体のホームページで廃棄物収集日を調べてみたところ、ガラス廃棄物の収集日は、「奇数週」の特定曜日という書き方がなされていた。嗚呼、驚くなかれ。そうであった。フランスは不思議なことに一年を通して、週に数字を振っている。


例えば、2023年9月19日、月曜から始まる週は第38週となり、偶数の週。


例えば、今年の9月は上表のようになっている。よって、9月の奇数週、つまり第一週と第三週の水曜日とは、6日と20日のこと、と思っていた私にとって、青天の霹靂。フランスでは、9月の奇数週とは、第37週と第39週のことで、その水曜日とは9月は13日と27日になる。


なんと非効率で分かりにくいことか。だから、フランスの学校やオフィスには大抵机サイズのボール紙のカレンダーがあって、ゾーン別の学校のバカンスが色分けして表示されてあり、月や曜日だけでなく、何週なのか表記されているのか。


ちょっと、ちょっと、ちょっと。在仏30年目にして分かったなんて、ちょっと恥ずかしい話だろうか。バッタ達は分かっているのだろうか。今度彼らが家に帰った時にも、聞いてみよう。こうなると、毎年年末になると押し売りのように消防署や郵便局が持ってくるカレンダーも取っておかねばなるまい。



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2023年9月18日月曜日

砂風呂ならぬ土風呂

 





最近のトンカは、泥で体温を下げることがお気に入り。泥と言っても、雨がちっとも降らない日々が続いているので、地面が掘り起こされて、柔らかく冷たい土が表れているところを探して、寝転がっている。


実際のところ、誰が地面を掘り起こしたのかは分からない。猪かもしれないし、他の犬仲間かもしれない。地面を掘り起こしている現場は見たことがないのだが、比較的あちこちで、柔らかくしっとりとした土がこんもりとしている。


そこに鼻を突っ込んだり、脚を投げ出したり、身体を横たえたりと、大いに楽しんでいる。


これって、砂風呂みたいなものかしらん。砂浜に連れて行ってあげたら、きっと大喜びで砂を掘って、身体を横たえるのだろう。なんだか、二人で仲良く砂に埋まっている様子を思い浮かべて笑ってしまった。


トン、いつか海に行こうね。



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