2012年3月25日日曜日

一人遊び~ソリチュード(孤独)




今にして思えば、
あんなこと聞かなければ良かったのだと思う。
知らなくて良いこと、知っても、どうしようもないこと、というものは、
この世の中、実は少なくない。

次の土曜の夜は、末娘バッタのダンスの発表会の日。
パパとの週末となるが、どう時間調整するかと末娘バッタがパパに電話。
留守電だったので、その後、長女バッタの携帯にパパから電話が入る。

長女バッタが、自分も発表会は見たいと声高に主張しているところを見ると、
どうやら末娘だけ、その週末はここに残ることをパパが提案したらしい。

長女バッタのダンスの発表会は、
嫌がる私などお構いもせず、毎年パリからやってきては、家族の一員のようにバッタ達の隣に座っていたのに。

今年は長女バッタがダンスを止めているので、彼女は発表会には出ない。
なんて分かりやすい人なのだろう。

まあ、それはそれで仕方がない。
そうして、イレギュラーながら、今週末にバッタ達が連続でパパのところに行くことになる。土曜日は、彼の誕生日でもあり、アイディア的には悪くはなかった。

ところが、
土曜の夕方まで末娘バッタはダンスの発表会の予行練習となってしまう。

土曜日は、彼の誕生日。

翌日の日曜は、試験を控えている長女バッタを朝一に迎えに行くことになっていたので、
連日パリに行くことになるが、仕方がない。ダンスの練習が終わった土曜の夕方、末娘バッタをパリに連れて行こうと思っていた。

ところが、彼の反応は全く違ったもの。
それでは大変だろうから、翌日の朝、私が長女バッタを迎えに行った時、末娘バッタを連れてくればいい、とのこと。
誕生日のお祝いを一緒にしなくて良いのだろうか。

なんだか、そう言われると、ちょっと切なく思ってしまう。
末娘バッタは、パパのところで楽しんでいるのだろうか。
十分愛されているのだろうか。

馬鹿なことに、息子バッタに、ふっと振ってみる。
末娘バッタは、パリでいつも何している?

意外な答えが返ってきた。

「いつも一人だよ。一人で、ソリチュード(孤独)ってトランプの遊びをしているよ。」

え?
えっ?

長女バッタは何しているのか?
「かわいそうなぐらい、いつも宿題や勉強をさせられているよ。」

で、お前さんは?
「うん、まあ。遊んでいる。」

気まぐれな子供の言う言葉。
あまり真剣に受け止めないことにしている。
事実には違いあるまいが、事実の一部しか反映していない一言に、
どれだけ振り回されたか。

そうして、土曜の夕方ダンスに末娘バッタを迎えに行ってから、次の日の朝まで一緒に過ごし、車でパパのところに送っていく。帰りの助手席には長女バッタ。

掃除や洗濯をし、長女バッタの勉強をちょっと見てやり、と一日はあっと言う間に経ち、
気がつくと、末娘バッタが泣きそうな顔をして腕に飛び込んでくる。
疲れた顔をして、息子バッタが続く。
「パパは?」
長女バッタが訝しげに聞く。
末娘バッタがトイレに行っていなくなると、息子バッタが報告を始める。
どうやら、末娘バッタは午後一杯、一言もパパと口を利かなかったらしい。
それに腹を立てたパパは、バッタ達を家の前で降ろし、勢い良く帰って行ってしまったという。

心がとんがっているのか、
些細なことで、長女バッタといがみ合いを始める末娘バッタ。

声を掛けて抱きしめてあげると、泣き始める。

どうしたの?嫌なことがあったの?
首を横に振る。
そうして、声を絞り出して、「ママといたかったの。」と言う。

背中をさすりながら諭す。
ゆっくりと、
ゆっくりと。

分かっているよ。ママも同じよ。ママもみんなと一緒にいたい。
でもね、ママと一緒じゃないからって、つまらない顔をしていれば、他のみんなもつまらない思いになるでしょ。

人間はね、鏡なのよ。
つまらない顔をした人の周りには、つまらない人が集まって、
意地悪な顔をした人の周りには、意地悪な顔をした人が集まるの。
うれしそうな、楽しい顔をした人の周りには、うれしそうな、楽しい顔をした人が集まって、みんな楽しく過ごすのよ。

そう言いながらも、鼻の奥がツーンとする。

せっかくの春の晴れた日曜日。
あなたの自慢の鼻で、せいいっぱい美味しい香りを吸い込んで、
大いに楽しんで欲しかったな。

ママはね、
あなたが楽しんでいるってことが、一番嬉しいのよ。
さあ、一緒に、外に出て、春の香りを吸い込もう。

チューリップの蕾が赤みを射し始めている。




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