エッフェル塔のまばゆい光が遠くながらも真正面にきらめいていて、セーヌの暗闇の中を、その流れのように、かなりのスピードで絶え間なく車が走っていく。
携帯で時刻を確認。
コトが起こってからよりも起こる前が期待感で最高とは言うけれど。いや、それは二人が手と手を取り合ってからコトが起こるまでの時間のことか。
あと10分。
そのメッセージをもらってから、時が永遠に続いているように思われた。
道に迷っているのだろうか。まさか、同じ名前の別の場所に行ってしまったのではないだろうか。しっかりと住所を記せばよかったか。妄想が迷走し、遠くのどこかでセーヌの波の流れとなって走っている車を想像する。
ヘンデルのバイオリンソナタの世界が破られ、電話の呼び出し音となる。
場所の確認をする疲れたしゃがれた声が聞こえてくる。
そう、セーヌの河岸で間違いない。今どこなの?
裏手にいるよ、と言って通話は切られる。
場所が分からないと言っていたが、私にさえ簡単に分かったのだから何が問題なのだろう。待っているものにありがちで、イライラした口調の相手を責める言葉が溢れかえんばかり。
ふと、先程の疲れの溜まったしゃがれた声が思い出される。
こんな時に優しくできたらいいのに、と思う。にっこりと微笑んで。
いや、馬鹿馬鹿しい。なんでそんなに時間が掛かったのよ、ととっちめないと。
そう思った瞬間、そう思ったことこそ馬鹿馬鹿しくなる。
もうエッフェル塔の輝きもセーヌの暗闇も車の流れも一切目にも耳にも入らない。
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