細い瓶の底に溜まっている飴色の液体を透かしてみながら、発酵が上手く完了したことが告げられている気がした。
この魔法の瓶を手に入れて、もう三週間になるだろうか。
人の気配がするので、のんびりとドアを開けてみたところ、門の扉に、大きな紙袋が確認できる。紙袋を届けてきた主は、シマリスのようなすばしっこさで、もう既にその場にはいなかった。
紙袋は思った以上に重みがあり、数冊の本とピンクのラッピングの上に、手紙が添えられていた。ピンクのラッピングからは、ぎっしりと豪華なナッツのタルトがのぞいている。手紙を読むまでもなく、贈り主が分かり、驚きと嬉しさで一杯になる。ふっくらとした頬、くりくりとした愛らしい瞳。正にシマリス。
シマリスさんの豪華ナッツタルトは本当にリッチ。ピーカン、ヘーゼル、ウォール、ありとあらゆる美味しいナッツがぎっしりとピスタチオの生地に埋め込まれている。一口で百倍の元気がでそうなスペシャルタルト。
紙袋には細い瓶も入っていた。お米をふやかした塊のようにも思えたが、シマリスさんは何を用意してくれたのだろう。
「塩麹なんです。あ、でも、多分未だ完成していないの。一日一回、中味をかき混ぜて下さい。とっても美味しくて、お野菜にもお肉にも、何にでも合うんですよ。」どうやら、子狐さんに紹介してもらったらしい。「今度、使い方をメールしますね。」
お礼の電話を入れると、シマリスさんは嬉しそうに声を弾ませ、魔法の瓶のことを教えてくれた。塩麹。麹なんて、どこで手に入れたのかしら。
ウキウキしながら、毎日瓶を掻き混ぜ、さあ、どうかしら、と見守っていた。
でも、シマリスさんからは、それ以来、何の便りもない。
そのうちに、瓶の中の塊は半分ぐらいになり、その代わり、飴色の液体がじんわりと出てきていた。
塩麹の魔法が最高に活かせるのは、豚肉ではないかしら。勝手な思い込みで塊を仕入れる。そして、ぺっとりとした塩麹を表面に塗りまくり、ラップでぴっちりと包む。
それが5日前。
そろそろ、魔法が効いてきたころだろうか。
塊ごとオーブンで焼こうか、スライスしてフライパンで焼こうか。
幸せな香ばしさで一杯になろうキッチンを思い、にんまりとする。
さて、シマリスさんに、どう報告しようか。
いやいや、先ずは、焼いてからのお楽しみとしよう。
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