長かった一週間を終え、それでも、その一週間を引き摺りながら鍵を開け
たったこの瞬間まで誰かいた空間に足を踏み入れる。
庭に面したリビングの窓のカーテンは全て開け放たれ、
テーブルと椅子を駆使してシーツとタオルが干されている。
未だ洗濯物は湿っている。
キッチンはシンクこそ空っぽだが、洗ったお皿やコップ、ボールが山のように積まれている。
テーブルの隅に書類の山。
その上に小さな紙切れのメッセージ。
まま。
行ってくるね。
チョコケーキ食べてね。
ままの分も作ったから。
びず びず
ケーキ?一体どこにあるのだろう。
昨日、長女バッタがクラス全員を呼んで我が家でパーティーをし、ケークサレを二つ作ったので卵がなくなり、真向いのマダムに幾つか貰いに行ったらしい。
そのお礼に、末娘バッタがケーキを焼いたと聞いていた。
ママにも作ってくれたというケーキはどこにあるのか。
蛇口の傍に、耐熱カップに入ったチョコレートケーキに気が付く。
生地をちょっとばかり失敬して、カップに入れたらしい。
にんまりと笑みが漏れる。
食事の前にPCの前に座ると、オレンジのポストイットが幾つか目に入る。
まま 元気でね (熊の足跡)
別のポストイットには
「今日もままのアカウント使ってコピーしました。」
とある。
末娘バッタの仕業。
すっかりと行動を読まれているらしく、跡を辿るようなポストイットが微笑ましい。
すっかり遅くなり、さあ夕食でもと思うとSMSが入る。
「お休みなさい。おいしかった?」
ごめんごめん。まだチョコレートケーキ、味見していないよ。
パパと一週間のバカンスに出掛けて行くバッタ達。
特段と声を掛けるでもない、抱きしめるでもなく、いつも通りに早朝に会社に出て行く母親に、最近ではバッタ達の方がメッセージを残してくれる。
庭からは純白のリラの馥郁たる香。
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