左手がないと気が付いた時、いつもの様な切迫感も逼迫感も悲壮感もなかった。
失くした時がコンサートの帰りであることは分かっていた。
冬にしては暖かな日々が続いており、手袋を外すことが多かっただけに、こんなことなら、最初から手袋をしていなければ良かったのにと思うも、車の中を見ても、鞄を見ても見つからない。そして、ふと思い立ち、前回失くした手が右手であることに気が付き、こんなこともあるのかな、とちょっと大きさの違う左手の手袋をしてみる。左右のサイズも形も違う手袋であっても、手を寒さから守ってくれることには違いない。そう、ほっとしたことも事実。
一週間ばかり家を空け戻った日に、末娘バッタをバイオリンのレッスンに連れて行く。帰り道、末娘バッタが先生の家に携帯を忘れてしまったと大騒ぎするが、我が家に戻ってしばらくすると、トランクに見つかったと報告がある。暗い中、大慌てするからよ、良かったわね、と笑ったものだが、その夜、改めてトランクを開ける機会があった際、そこに失くしたと思っていた茶色の皮手袋の左手が見つかる。
ひんやりとして、手にはめるとぴしっとした装着感が嬉しい。
両手を握りしめ、優しく口づける。
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