どうしても手に取りたくて金曜の夜、閉店間際の本屋を目指す。日本の書籍を扱っている本屋は、パリ広しと言えども一軒のみ。一時期Book Offが事業展開していたが、採算が取れなかったのだろうか、閉店してしまっていた。
20時にあと数分。
どうしても、という念が通じたのだろうか。地下鉄の乗り継ぎもスムーズに、駅から地上に出て走りゆけば、目指す書店から明かりが見えている。
すぐに欲しい本をカウンターで問い合わせることもできたが、余りにも無粋。できることなら、本との出会いの一瞬まで楽しみたかった。
いつもの癖で文庫コーナーに急いで目を走らせる。年末にバッタ達と訪れていて、数書購入していたが、気になる作家を探し当て、作品名を追う。
葉室麟。
『潮鳴り』、『蜩ノ記』、『無双の花』、といずれも心揺さぶられていた。今回も二冊手にとる。
平野啓一郎。
『葬送』に出会った衝撃といったらない。『日蝕』を再読してしまった。それから、『決壊』、『かたちだけの愛』など彼の幾つもの作品を読んでいるが、年末に手にした『空白を満たしなさい』には、震えてしまった。表紙絵のゴッホの自画像がいやにリアリティを持って迫ってくる。小説の世界だからありえるストーリーながらも、現実の世界に生きる我々にメッセージがしっかりと届いており、大いに考えさせられてしまう。『マチネの終わりに』とは全く違った作品。今回も新たに一冊を手にしてしまう。
瀬戸内寂聴。
彼女の作品は以前に数作読んでいる。岡本太郎の母親、岡本かの子を扱った『かの子繚乱』は圧巻。日経に掲載された『いよよ華やぐ』も非常に楽しめた。最近、平野啓一郎が瀬戸内寂聴にインタビューをしている記事を読み、『青鞜』を読みたくなってしまった。そうして手にした『烈しい生と美しい死を』。また当時の問題作『花芯』、最近の作品『爛』。
本を手にすると気持ちがどうしても昂ってしまう。
急がねば、レジが終わってしまう。当初気になっていた本をカウンターで問い合わせると、既に売り切れで取り寄せねばならないと言われる。最初に聞いていたら、迷わず取り寄せてもらうところだが、既に読みたい本を数冊手にしてしまった今では、執着度が激減。別の機会に委ねることにする。
かくして、金曜夜、文庫本を数冊抱え、愛しい人達からの恋文をこれから読むような心持で、ひとり電車に揺られる家路につく。
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