これまで何度も目にしたキャロットケーキ。あの時のものではないことは、一目瞭然だし、半ばあきらめながらも、つい買ってしまう。口にして、分かり切っているものの、がくりとする。思い出したように時々レシピも片っ端から検索してみるが、探しているものは見当たらない。
オーストラリアの留学時代にホストファミリーから贈られた料理の本に載っていたキャロットケーキ。
確か、大学生の頃だったか、一度作ってみたが、その素朴な美味しさにとにかく心震えた。卵白をしっかりとメレンゲ状に撹拌したことを記憶している。そして、粉は入れなかった、筈。
どのレシピをみても、小麦粉が入っている。
一度、メレンゲに栗クリームを入れて焼き上げる、粉なしのマロンタルトのレシピを見た際には、これだ、と思った。そのレシピに沿って作ったマロンタルトはしっとりと上品な味わいだったし、それから何度も何度もマロンタルトを作ったが、一度もキャロットケーキに応用したことはなかった。
この冬、ふと思い立ち、栗のクリームではなく、マッシュした人参をメレンゲにふわりと入れ込み、焼いてみた。
結果は惨敗。末娘バッタからは非難轟轟。お菓子作りに失敗するなんて、前代未聞のことをしてしまう。そもそも、素材がそろっているのだから、形が悪かろうが、味に問題はない筈。ところが、見事にいただけない。メレンゲ作りに失敗したのか、砂糖を入れすぎたのか。完敗。
そんな折り、新聞にこれこそ最高のキャロットケーキと銘打って掲載されているレシピを発見する。食い入るように材料をチェックするが、矢張り小麦粉が入っている。小麦粉が入らないと思っていたのは、私の勘違いなのだろうか、とぼんやりと思ってしまう。
丁度ケーキを作ろうとしていた末娘バッタが、板チョコがないことを嘆いていたので、キャロットケーキを作ってみないかと誘ってみると、意外に素直に乗ってきた。そして、小論文が終わっていないからと、あっさりとキッチンを明け渡してくれた。
そこで、急いでレシピを書き写す。
材料:
摺り下ろした人参 250g
アーモンドプードル 175g
砕いたピーカンナッツ 50g
干しクランベリー 25g
卵 4個
小麦粉 75g
砂糖 175g
塩 小匙1/2
レモン 1個
シナモン 小匙1
粉末ジンジャー 小匙1/2
キャトルエピス 一つまみ
バター 20g
あれだけ末娘バッタからは、レシピに忠実に作って欲しいと言われていたが、今回も畏れ多くも食の神様か食通のご先祖様か、どなたかが降臨するのだろうか。レシピを読みながら、気が付いたらかなり勝手に解釈し、作っていた。
ピーカンナッツなどないので、手元にあるアーモンドで代用。アーモンドに軽く火を入れ、香ばしさを出し、さくさくと、やや大粒に砕く。クランベリーもないので、これもレーズンにて代用。レモンの皮の代わりに、オレンジの皮を使おう。
更にケーキの上に載せるフロスティングは省略。型に塗るバターも割愛。
砂糖175gなぞありえなく、ブラウンシュガーを100g弱使用。また、シナモンは気が付いたら小匙を大匙とし、たっぷり1杯。粉末ジンジャーも、シナモンで使った大匙にて、えいやあ、と少な目ながらも1杯。キャトルエピスなどという洒落たものは、調味料棚にあるべくもなく、粒胡椒とクローブを少々粉砕機で粉状にし、そこにナツメグを削り入れる。えも言えぬ香りがぱっと散る。香辛料こそが大航海時代をもたらしたと言われるのも、納得がいこう。確かキャトルのうちのもう一つはジンジャー。先程多めに入れたので、ここでは割愛。
卵黄にブラウンシュガーを混ぜ、丁寧にもったりとするまで十分撹拌。そこに削ったオレンジの皮、小麦粉、塩、アーモンドプードル、アーモンドを順々に混ぜていく。ガレットを作ったばかりで、アーモンドプードルは指定された量より幾分少なめだが、まあ良しとしよう。そして香辛料を振り入れる。かなり硬めの生地となり、なかなか均一に撹拌しづらい。
ここに摺り下ろした人参を入れると、漸く生地に柔らかみが戻り、混ぜやすくなる。レモンの汁。フーム。レモン一個分となると、かなりの量。生地の均一化を目指す。最後にレーズンを入れて、ひとまず完成。
別のボールで卵白をしっかりと撹拌し、角が出る程硬いメレンゲを作る。メレンゲの3分の1を先程の生地に入れ込み、すっかりメレンゲと混じった生地を、残りのメレンゲに入れ、メレンゲが潰れないように混ぜる。
とは書いたものの、実は適当。生地が均一となることが肝要。
そして、型に入れて、何回が上から落とし、余分な空気を抜く。
丁度オーブンが180度になったと知らせのブザーがなり、中段に入れて焼くこと45分程度。
黄金に艶良く焼き上がる。
最近は滅多に母親のケーキなど学校に持って行かず、自分で作る回数の方が多くなった末娘バッタだが、翌日は喜んで持って行った。ジンジャーを入れすぎてしまったのでは、砂糖が少ないのではないか、などと心配したものの、すっごく美味しかったよ、と元気な声で報告してくれた。クラスの皆であっという間に食べてしまったとか。いつだってお腹の空いている高校生ではあるが、また作ってね、の一言に、ついつい頬が緩んでしまう。
一切れぐらい失敬しても分からなかっただろうが、何せ36人のクラスというので、ホールケーキを持たせてしまっていた。従い、幻のキャロットケーキに近づけたのか、実のところは分からずじまい。
幻とは、そういうものかな。
キッチンにはいつまでもシナモンの香りが漂う。
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