学校の冬のフェットでのお手伝いアンケートが届く。
和菓子レシピ付き。
咄嗟に友人の顔が浮かぶ。
「貴女のリクエストのレシピが付いているから、和菓子作成部隊に加わらなきゃね」、と
書き送る。
すぐに返事が来る。
「違うのよ。あのレシピを見て、がっかりしたわ。私は抹茶ケーキのレシピをお願いしたのよ。私には餡子を炊いたり、糯米を買ったりと、手の込んだことはできないわ。以前、心も体も疲れていた時に、手作りの抹茶ケーキを頂いて、どれ程和んだか。保護者会の伝統レシピらしいのよ。作ってくれた方に頼んでも、お返事だけで、レシピはいただけず、催促もしなかったけど、今回、機会があって、保護者会にお願いしてみたの。捜してくれるって言うから、とっても楽しみにしていたのだけど。」
レシピとの出会いは、ちょっとした運命的なものがあるのかもしれない。
別の知り合いの顔が浮かぶ。
ひょっとしたら、彼女のレシピかもしれない。そうでなくても、彼女なら持っているかも。
お料理上手な友人は、すぐに、これかしら、
とスキャンをして送ってくれる。
そのレシピを見て、今度はこちらがハッとする。
末娘バッタと長女バッタの昔の同級生のママによるレシピ。
随分前に引っ越して行ってしまったので、最後にお会いした時はいつになるか。
ブラックアフリカ出身ながら、上品な日本語を話し、柔和で、
お料理は勿論、裁縫も得意で、末娘バッタと同級生の女の子は、いつもオリジナルな洋服に身を包んでいた。
彼女には、静かに、しかし、厳しく批判され、目を覚まされた思い出がある。
全てのことが我が身を襲う敵のように思えていた頃。
「旦那がパリに女を作り、出て行った」って子供たちが噂しているけど、
相談する相手を選んだ方がいいんじゃない、と知り合いから忠告の電話が入った夜。
誰かに相談せずにいられずに駆けつけた友人宅の小学生の娘さんの口から噂が流れていたと知った時のショック。
「あなたが妊娠していたなんて知らなかったわ。それで、いつなの?」
受話器の向こうの無邪気な声に返す言葉もなかった、あの日。
末娘バッタが幼稚園で皆にパパのところの赤ちゃんの誕生を告げていることを知り愕然。
「可愛いお嬢さんよね。とってもおしゃべりで、お宅のことは、なあんでも知り尽くしちゃったわよ。」
意味のない会話に、悪意を読み取ってしまう日々。
家族の話をする同僚に、意地の悪さを感じ、
公園や道端で家族連れに会うと、心臓が鉛のように重くなり、
誰とも食事をせず、電話も取らず、
貝殻に閉じこもったカタツムリとなっていた、あの頃。
気の重い運動会。
親子の仲を見せつけられる場。
それでも、バッタ達はとっても楽しみにしていて、そんなバッタ達を応援に行こうと前向きになっていた時、
送られてきた紅白の名簿を見て愕然とする。
バッタ達の組が違う。きょうだい同士で同じ組の家族が大半なのに、なぜか、末娘バッタだけが長女バッタと息子バッタと違う組。
咄嗟に、嫌がらせじゃないか。
そう思ってしまった。
兎に角、慌てて、名簿を見直して、きょうだいで紅白の組が違う家族を必死で探す。
今思えば、あれは何だったのだろう。
多分、精神的に病んでいたのだろう。
我が身を振り返っても、小学時代に特にきょうだいと同じ組であることに、何らこだわりもなく、むしろ、違う組で対抗し合っていたのではと思われる。
正常とは言えない精神状態で、全てが悪意に満ちていると思われ、バッタ達を守らねばと必死で思い、一人辛かった、あの頃。
その狂気の目に、我が家と同じ境遇の別の家族が映る。末娘バッタと同級生。二人とも、違う色の組。そして、驚くことに、そこの家族の二人のきょうだいも、妹とは違う色。つまり、末娘バッタと、同級生のお友達が、紅白入れ替われば、きょうだい同士、他の大半の家族同様、一緒の色になる。
この素晴らしい発見に狂喜した私は、即、同級生のママにメールをする。
いや、運動会実行委員さんにメールをしたのかもしれない。
すると、同級生のママから思いもよらない返事がくる。
「私は、反対です。どんなに大変な思いをして、実行委員の方が組み分けをしたか考えたことがありますか。でも、実行委員さんの方から、交換してあげてください、と言うので、承知しました。」
最初は、相手も喜んでくれると思っていただけに、両の頬を思い切り叩かれたように驚く。
そして、何がなんだか分からなくなる。
それから、次第に、自分の狭い料簡でしか物が見えていなかったことに気が付き、
非常に恥ずかしくなる。
言い訳をしようと試みたり、
謝ろうと思ったりしたと思うが、
実のところ、ちゃんと関係者に謝ったのか、覚えていない。
それでも、彼女の両頬への往復ビンタは効果があり、
翌年、ボランティアがいないから開催が危ういとされた運動会の実行委員に手を挙げ、
気が付くと、
また、太陽の下、上を向いて歩けるようになっていた。
そんな彼女のレシピならば、
疲れたものの心を癒す魔法があるに違いない。
だからこそ、先の友人も、どうしても忘れずに探していたのに違いない。
友人にレシピを送ってから、
スーパーにバターを買いに走り、
早速我が家でも焼いてみる。
ナイフを入れるとサクッとした切れ味。
一切れ口に運ぶと、
こくのある抹茶の香りがしっとりと心に行き渡り
あらゆる疲れを癒してくれる。
目を瞑り、彼女を思う。
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