高速道路沿いの低木に、
時折、深紅の光沢が目に留まる。
気が付いた時には、
既に遠くに置き去られており、
何の木なのか、判断材料はほぼない。
瞬時の出会いであることが、
なんだか、余計価値あるもののように思え、
あそこまで深い紅の植物名が知りたくなる。
ドウダンツツジかな、とちらりと思う。
高速を抜けると、
遠くの地平線近くの雲間に、
太陽の燦燦たる輝きが炎のように黄金に燃え盛って見え
神々しいまでの光の線を幾つも大地に放っている。
どうやら目的地は西にあるらしい。
鬱蒼とした、既に夜の帳が下りたのかとさえ思われてしまう森の中を、
潜り抜けては入り込み、入り込んでは潜り抜け、
漸くナビが目的地に到着したことを告げる頃には、
本格的に夜の帳が下りようとしていた。
時計を見ると約束の時間。
この芸術的な素晴らしい出来栄えに、
一人悦に入っていると、
携帯が震える。
どうやら相手は今、目的地に向かって出発したらしい。
このメッセージがもたらす情報は、一体どんな価値があるのか。
そもそも、どこにいたのか、が分からない。
つまり、どこを出たのか、が分からない。
従って、目的地まで目と鼻の先なのか、
或いは、小一時間も遠いところにいるのか、が分からない。
しかし、
本人は十分に分かっているのだろう。
何しろ、場所と時間を指定して来た張本人なのだから。
まあ、そう、カリカリしなさんな、と自分に言い聞かせる。
暫くすると、今度は携帯が間延びした様に震える。
「やあ、今、どこ?」
相手は至ってご機嫌。
「ん?もう待ち合わせ場所にいるよ。
約束の時間には、ちゃんと着いていたよ。」
ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ、ちいちゃい山椒の粒を散らばす。
「それで、そちらは?
今、どこ?もうすぐなの?」
もうすぐだったら、電話なんかしないだろうのに、と思いつつも、
聞いてみる。
「いや、それがさぁ。」
どうやら、ネットで調べた時には、ものの15分のご近所だったらしいが、
実際に車のナビに住所を叩きこんでみると、
随分の遠回りを提示しているのか、30分は掛かると言う。
あら、じゃあ、あと10分ね、と言えば、
いや、これから30分なのだ、とのこと。
「おおっと!!!
いやぁ。びっくり。今、鹿にぶつかるところだったよ。
下手をすると、事故死になるぞ。これは、気を付けて行かないと。」
私に説明をしているのか、自分に気合いを入れているのか、
きっと両方なのだろうが、
とにかく安全運転かつ出来るだけ早く着くようにする、
と相矛盾したことを言って、通話が途切れる。
鞄に忍ばせておいた文庫本も、
こう暗くては読む気にもなれない。
日が暮れてしまったことが、
急に時間まで奪われてしまったかのように思われ、
なんだか焦燥感が募る。
幾つかの、
気になると言えば気になるが、
どうでもいいと思えば、どうでもいいような事務的なメールの遣り取りをし、
出掛け間際に一瞥し、分かっていた結果と言えばそうではあるが、
それでも、やはり気落ちしたメールの内容を何度も丁寧に読み直す。
周波数がうまく拾えず、
ラジオからはノイズに混じった音楽が途切れ途切れに流れており、
時々、突然にして静寂が訪れていた。
幾台ものヘッドライトを見送って、
一時に比べれば、暖かさが戻ってはいたものの、
日が暮れてからは急速に温度が下がってきたように思われ、
エンジンからの熱がすっかり発散され、
徐々に鉄の塊に化そうとしている車体の中で、
自分の体温だけが頼りとなってくる。
と、
今度のヘッドライトは通過せずに、
ゆっくりと隣に滑り込む。
一人の世界に入っていた時間が長く、
冷え込む空間で待っていることで、
心も身体も若干意固地になり、動けずにいた。
ちらり、と隣を覗くと、
運転席からは、こぼれんばかりの笑み。
さっと飛び降りて、スキップするように走り込み、
こちらの運転席のドアを開けてくれる。
放たれたドアからは、
栗のイガ、銀杏の葉、ナナカマドの実、蔦の葉、
鹿の鳴き声、キノコ、ポプラ、楓、、、錦秋の彩と香りが押し寄せてくる。。。
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