2014年9月20日土曜日

ジャック



夜中にメッセージ。
いや、厳密に言えば、夜中にメッセージをもらっていたことを翌朝確認する。
送り主はジャック。
ああ、ジャックリーヌか。
「随分久しぶり。ぜひ今度夕食を一緒にどうかしら。ジャック。」

昔の会社の同僚。早期退職プランをとって、早々に仕事を辞めていた。
両親ともにベトナム人の彼女の快活な笑顔を思い出す。幼い時にフランスに来ているとはいえ、小柄で小麦色の肌はアジア系。それなのに、「私はフランス人よ。」と言い切って、私を驚かせていた。フランスではアジア系は年齢不詳と言われており、確かにジャックリーヌの年齢は誰もが知らなかったし、想像もつかなかった。彼女は若く、若者と一緒に仕事をしていても全く違和感を感じなかった。だから、彼女が早期退職プランをとると知って、皆が驚いた。一体、ジャックリーヌって、何歳なの?

退職してからも、彼女の気さくな、そして大胆な性格のお蔭で、数年は会社へのアクセスは警備員への笑顔でフリーパスだった。自由な時間を使って、ベトナムに何度も行き、ボランティア活動に精を出していた。

それにしても、夕食か。いつもはランチを一緒にすることが多いのに、今回は改まってどうしたのだろう。

そう思い出すと、違和感がぐっともたげた。ジャックリーヌが自分をジャックって呼ぶだろうか。
ひょっとしたら、ジャックリーヌではないのでは。

男性のジャック!
そう考えると、思い当たらないでもなかった。一年以上も前に、知り合いに夕食に誘われ、レストランに行ってい見ると、彼の会社の同僚も同席。適当に会話を合わせてはいたが、知り合いが席をはずした途端に、言い寄って来た。確か、あの時は、いい加減に巻こうとするが、駐車場が怪しげなところで、ボディガード代わりについてきてもらい、コンコルド広場の、車が激しく行き交う大変な場所で降ろした覚えがある。もしかして、あの時のジャックだろうか。

そうなると、もらったメッセージは、読み替えねばなるまい。
「随分久しぶりだね。良かったら今度夕食を誘いたいのだけれど、どうかな。ジャック」

大きなため息が出る。
ジャックリーヌと思い込んで、早々に返事を出さなくて良かったとの思いが先ず支配する。
どうにも思い出せないジャックの面影に、手を合わせて頭を下げる。
ごめんね。

人は一人では生きていけない。
ジャックも人恋しく思って声を掛けてきたのだろう。
こちらにその気のない時は、無視に限る。下手に返事をしようものなら、お互いにとって面倒くさいことになることは、既に経験済み。

何の下心なく、普通に会う分には問題ないのだが、そうそう、この年で友情もないだろう。
それでも、友情の方が貴重だってこと、そろそろ分かってもいい年頃ではないか。

ジャック、久しぶり。
お誘いありがとう。元気そうで何より。ぜひ、また、何かの機会で。

送信しないメッセージの内容をつぶやく。
遠くに花火の音が聞こえる。






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