「65歳には死ぬつもりだよ。それまで国に奉仕すれば十分だと思っている。そうして生まれ変わりたいんだ。」
手も握ったこともない初恋の相手との再会はフェースブックで。侮るなかれ、ソーシャルネットワーク。今夏、日本の友人がソマリを飼ったので、写真を定期的にアップするからフェースブックに入れと誘う。ああいったものは、卒業したと高を括っていたが、ソマリの写真見たさにメンバーに。すると、仲間捜しコーナーが。ひょっとしたら、と、学生時代の友人、知人の名前を片っ端から入れてみる。日本人は同姓同名が多く、一人見つかったのみ。そして、ゲイと思しきオーストラリアの友人にハローのメッセージ。ふと、あの彼の名前を入れてみる。これまでも何度グーグッたことだろう。ヒットしたことはない。と、似たような名前を聞いてくる。この方ならいらっしゃいます、と。ひょっとしたら、20年近くもたっているし、忘れるはずがない名前なのに、いつの間にか記憶違いなんてあるかもしれない、と、その相手にメッセージ。「私のこと知っていたら返事ちょうだい。」
翌日、メールアカウントにフェースブックから連絡。彼からの返事が入っているという。会社ではフェースブックへのアクセスは禁止されている。いっそのこと、家に帰ってしまおうか。会社がパリ市内ではないことを怨む。ネットカフェに駆け込むこともままならない。と、彼から2度目のメッセージが入ったことを知らせる案内メール。そして3度目のメッセージには彼が自分のメールアドレスを公開してくれる。震える手でメールを送る。
「長いこと捜していたわ。」
直ぐに返事が彼から直接来る。
「こっちも長いこと捜していたよ。」
信じ難い。
「どうして私だって分かるの?」
「オーストラリアで会ったじゃないか。」
ビンゴ!!! 1年間の北京駐在を経て戻ってきたばかりと言う。国民軍のパイロットは今や国で3番目に大きな基地の総督。何度も死ぬかと思う場面を経験し、今があると言う。 和平が成立したのは去年。何百通と送ったであろう手紙。その度に書いた筈の彼の名前。『i』が抜けていた。『愛』が抜けていた?彼も彼で、私の名前に『h』が抜けていた。『エッチ』が抜けていた?そうして、同姓同名の別人に電話をしたこともあったとか。
縺れた糸、繋がらない糸、それが絡み合う糸に。。。
昔私が送った小包が軍で問題になり、彼が日本のガールフレンドからだと主張しても、取り合ってもらえずに、最終的に爆破したという。今では笑い話。
「じゃあ、私の100通以上の手紙は届かなかったの?」
返事はない。どんなに大切に思っているか、死ぬほど捜して、漸く奇跡的に見つかった、もう失いたくない、なんて、以前は言わないことをはっきりと言う。どうして前に言ってくれなかったの?「だって、あの頃は幼かったじゃないか。高校生の男なんて、、、」 「違う、違う。あなたの国に会いに行った時のことよ。」 「戦争中だったんだ。将来のない僕に何が言えた。君が帰る日に、空港に見送りに行けなかったよね。君の乗る飛行機のパイロットは知り合いだから、彼に手紙を託したよ。」 「え?手紙?もらっていない。なんて書いてあったの?」
それには返事をせずに彼は続ける。「あの時、ミッションに行くために戦闘機を操縦しなきゃならなかった。その時のコーパイロット、撃たれて死んだよ。」
君は仏教徒だよね。なら、分かるだろう。生まれ変わるなら、どこが良い?
恥ずかしそうに彼の国の名前を告げる。小さい声だったからか、また聞き返される。今度は、アフリカかな、と言う。
一体何を言っているんだ。日本という幸せな国から、何が悲しくて飢餓で苦しみ、紛争が絶え間ないアフリカに生まれ変わりたいなんて言うんだ。俺は65歳で死んで生まれ変わりたい。できることなら、日本に生まれ変わりたいよ。
一年前に書いたものですが、私の原点にも繋がる彼との再会について記録に残しておくことにしました。これから、この彼についても、触れていくことになると思います。
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