2013年9月27日金曜日

心とろけるマンゴーレモンを








我が家の目の前に住む未亡人のマダム。

自慢の消防士の息子は、未だ勘当が解けていないらしく、
ここ二、三年は姿を見ていない。

ほぼ時を同じくして、失業し、パリのアパートを売り払って
ノルマンディーの片田舎で広大なる土地と古い田舎家を買い、
何十羽もの鶏、兎を飼い、養蜂に勤しみ、馬を操り、
悠悠自適とは程遠いかもしれないが、それでも、
二人の子供は立派に成人し、
別居して久しい旦那は一緒に住まなければベストパートナーとかで、
いつもバッタ達に産みたての卵をお土産にしてくれる娘は、
月に一回顔を見せるか、見せないか。

三人目の子供は、
三歳の時に、道路で車に撥ねられ、その短い一生を終えてしまっている。

だから、我が家のバッタ達がもうちょっと幼い時は、
道路の横断に、こちらが驚くほど神経質で、
ちょっとスピードを出した車が通ろうものなら、
手を振り上げて注意する。

亡くなった子の名前は長女バッタと一緒。
だから、特に長女バッタを可愛がっているのかと思っていたが、
どうやら、
姿かたち、顔の表情もそっくりさんは、末娘バッタらしい。
年齢的にも、末娘バッタが三歳の時に引っ越してきており、
三歳の女の子が持つほっぺの膨らみ、真っ直ぐな眼差し、
甘い香り、なんかが、共通していたのであろう。

四、五年前に軍人であった人生のパートナーを失って以来、
一人で家事は勿論、庭仕事も元気に溌剌と手掛けている。

が、それでも夕方には孤独のブルーズに襲われるとか。

「でも、一人がいいわよ。孫たちは可愛いし、娘は大切だけれど、私は自分の時間が大切だし、私のやり方を通したいもの。」

時々、そんなマダムにちょっとしたデザートの差し入れをする。
このところはインプラントの歯の調子が悪いと嘆いているので、
ゼリー系、ムース系を中心に。

驚くほど、隠し味や材料をずばりと当ててくれる。
今回はレモンマンゴークリームプリン
勝手に憧れ敬愛している、素晴らしくセンス良く、幸せたっぷりなお料理ブログをお書きになっているFleur de selさんによる一品。

いつもながら、突然の訪問に驚いて喜んでくれ、
もうお昼近いのに、パジャマ姿なことを恥ずかしそうに詫びる。
どうやら腕を骨折したらしく、右腕を吊っている。
一人では、どんなに不便な生活を強いられているのだろう。

そんなこちらの心配も、ちっとも意に介していないようで、
そうだ、と椅子を勧められる。

「話があるのよ。」

一体何事か。緊張して椅子に座る。

「アラームをつけようと思って。」
防犯アラーム。
マダムは、昨年、真昼間に娘と旦那のお墓参りに行っている隙に空き巣に入られ、
軍人であった旦那の狩猟銃を数丁、宝石類とともに盗まれており、以来、セキュリティーに関して、トラウマの様になってしまっている。
ノルマンディーの娘のところに、宝石、絵画、置き物、書籍、家具、食器など、あらゆる品を運び込み、がらんとした家にしてしまっていた。
生きていく上での潤いや楽しみをもたらす品々を全て放棄したストイックな生活。
それでも飽き足らず、今度は赤外線センサーを張り巡らせ、
24時間継続ビデオ撮影のカメラを随所に設置すると言う。

その素晴らしさ、
セキュリティーの心配をしないで安眠出来る幸せを
隣人に説いて回っているという。

「勿論、設置するわよね。」
左隣のマダムも、数軒先のムッシューも、どうやら、皆設置するよう手配しているとか。

私は、と言えば、ジョージオーウェルの世界じゃないか、と唖然としてしまっている。

そこまでして得なければならないのか。
24時間連続で、我が家の玄関の前をビデオ撮影することの無意味さ、不気味さ。
防犯アラームぐらいは、必要かと思ってはいたが、
実際に我が家にある宝は、私にとっての宝であるバッタ達だけ。
勿論、マニアックな人々なら、彼らのバイオリンに目をつけるかもしれないが、
それだって、所詮高が知れていよう。

にも拘らず、何かあるかと思われて、窓や鍵を壊されて侵入された日には目が当てられまい。
それでも、である。
何かが違う気がする。
人間として生きていく上で、
そこまで周りを防備しなければならないのか。

そこまでトラウマに陥ってしまったマダムの心情を思い、
胸塞がる思い。

マンゴーとレモンの絶妙な味わいが
舌先でとろけるプリンが
少しでもマダムの心を癒しますように。

そう願って、お暇をする。
次回は、クエッチのクランブルにしようか。






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