がばっと起き上がると、分厚いカーテンを開けて外を覗き込む。果たして、あれだけ分厚い雲が嘘のように晴れ上がり、天空は今まさに夜が明けようとしていた。
山の端が薄っすらと青みがかってくると、目の前に立ちはだかる山頂が朝日に焼け始めた。瞬く間に他の峰も先端が焼け始め、次第に空の色に青みが増していった。そして、あっと言う間に真っ白な雪と氷河を抱いた荘厳なる山脈が真っ青な空を背景に姿を現した。
手元の地図と照らし合わせる。
アイガー(Eiger)、メンヒ(Mönch)、ユングフラウ(Jungfrau)の3つの名峰、「ユングフラウ三山」。
一体、目の前に広がる壮大な山々のどれがどの山なのだろうか。
いや、名前などこの際些細なこと。
いやいや、そうだろうか。この時に、もう少し自分の思い込みの激しい性格を自覚し、しっかりと調べ直していたら、理解も深まっただろうのに。ヴェンゲンの村からはユングフラウ三山が見渡せると思い込んでしまっていたので、そして、母も私の話を聞いてそうなのだと思ってしまっていたので、地図と目の前の山並みがどうしても一致せずに、解けない数学の問題を抱えた不消化感を覚え始めていたのも事実。
それでも、取り敢えずは素晴らしく晴れ渡った山登り日和の今日一日を如何に楽しもうかと、前日検討していたトレッキングコースを母に披露し、相談する。
先ずは目の前のロープウェイを乗ってメンリッヒェン(Mânnlichen)に。そこからクライネ・シャイデック(Kleine Sheidegg)まで歩き、次に登山鉄道でユングフラウヨッホ(Jungfarujoch)展望台に行く、というものだった。帰りは、アイガーグレッチャー(Eigergletscher)からクライネ・シャイデックまで歩き、そこからまた登山鉄道でヴェンゲン(Wengen)に戻ってもいいし、余裕があれば、歩いて帰ってもいいと思っていた。
二つ返事で了承を得ると、腹ごしらえに早速朝食をとりに階下のレストランに向かった。大きなガラス窓からは、雄大な山並みが見晴らせ、爽快な朝のスタートとなった。朝の珈琲を愉しみながら、静かに微笑む向かいに座る母の姿に、自然と笑みが広がる。
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