2021年11月20日土曜日

一攫千金を夢見て

 





買い物に行こうと通りに出たところで、声を掛けられる。真向いのマダム。80歳のお誕生日をお祝いしたのが数年前。無花果を持っていかないか、と誘ってくれる。


マダムの庭には見事なキーウィ、パッションフルーツ、さくらんぼ、そして無花果がなる。マダムは一人でひょいひょいと梯子に上って果物を収穫するが、他人様が落ちたら申し訳ないとかで、私には梯子を上らせてくれない。健康で元気とは言え、それこそ80歳を超えたマダムを梯子に上らせて、隣で指をくわえて待っているだけの状態は、とてもではないが遠慮している。それこそ、何かあったら大いに後悔してもしきれない。最近はお孫さんが収穫の手伝いに来ているようだが、ここ数日は来ていないのだろうか。


急いでいない時は、声を掛けられれば出来るだけマダムの家に寄ることにしている。マダムの庭は本当に手入れが行き届いていて、きっちりとしていて見事なもの。今年は雨が多く、暑い日も少なかったから、無花果の実が大きくならずに、未熟のまま霜が降りる日を迎えてしまうと、いたく残念そう。確かに大ぶりな無花果の木の枝や幹には何百ものたくさんの実がついているが、これが小さく、色も辛うじて一部紫になっている程度で硬くて青い。


こんなことは初めてだという。そう言っている傍から、どんどん実を摘んでは籠に入れている。ジャムにすれば良いと聞いたので、良かったら持って行って欲しいと言われる。手の届く範囲だけでも大層な量となるが、これを全て廃棄処分にするなんて、とても考えられずに、あまり深く考えずに頂くことにしてしまった。


スーパーに行くはずが、買い物袋にぎっしりと無花果の青い実をもらってきてしまう。


さあ、どうしようか。口にしたが、ちっとも旨味がない。甘みがなくても、ドライフルーツにすれば、美味しいものなのだろうか。ジャムとなると、大量のお砂糖を使うことになるし、何しろ我が家のジャムの消費量は限りなくゼロに近い。


未熟の無花果の実は、しばらく置いておいても追熟しないとか。ピクルスにしたらどうだろうか。意外とさっぱりとサラダに向いているのではないだろうか。勝手に想像を膨らませ、ごろごろと実を洗う。ミルクのような白い液が出ているので、洗った水が白濁している。


必要は発明の母と言うではないか。新たな食べ方がうまい具合に大当たりしないとは言えまい。一攫千金を夢見る、秋の夜長。



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