2023年11月25日土曜日

夢のエベレスト街道トレッキング~カトマンズ編 コペルニクス的転回






今度は驚く程スムーズにカフェの青年が伝えてくれた場所を確認しながら、歩いて行くことができた。カフェの青年は、ちゃんと我々が間違えそうな箇所を心得ていて、アドバイスが的確だったのである。日本に留学した程なのだから、きっと大きな夢を持っているのだろう。青年よ、大志を抱け!である。


そろそろ目指す銀行の建物が見えてきてもいいかと思っている時に、比較的大きな近代的建物の工事現場が現われ、なんと屋上の看板には我々が目指す「ヒマラヤン銀行」と書かれていた。改築中なのか、建築中なのか、判断に困るところだったが、どこかの階で営業をしているに違いあるまい。


それにしても、建物の入り口はどこなのか。若者達が作業の手を止めて、物珍しそうにこちらを見ている。どこが入り口なのか、窓口はどこから行けば良いのか、そんなことを英語で尋ねた。しかし、彼らの反応で、そんなものはない、と言うことが分かった。


なんと。私が持っていた情報は古過ぎたのか。漸くたどり着けたのに、どうやらネパールルピーに手持ち現金を両替する真の目的は達成できそうになかった。しかし、銀行にしても、改築工事なのか、新築工事なのか分からないが、営業が出来なかったら困るだろうに。さて、それこそ困ったな、と思ったが、まあ、レートが悪くても他の両替所もあるだろうし、いざとなればATMで現金引き落としも出来るかと、気軽に考えることにした。


比較的大通りに出てきていたので、ショッピングセンターと思しき建物もあり、入ってみるとATMがどうぞお使いください、と言わんばかりに隅に備え付けてあった。空港で少しは両替していたので僅かながらルピーを持ってはいたが、ATMが使えるかどうか確認する上でも、現金引き落としを試みてみた。


何のことは無い。フランスにもあるようなATMの機械で、カードを挿入し、暗証番号をタイプし、引き落とし希望額をインプットすると、手数料が500ルピー程度になります、との表示が出てきて、確認ボタンを押すと、現金がさっと出て来た。非常に明朗会計のように思われ、その手軽さに驚いてしまった。


現金があると思っただけで、これまでの緊張感が解れ、大胆な気持ちになるから、人間とはそれこそ現金な者である。


ぶらぶらと真っすぐ通りを歩いて行くと、「ヒマラヤン銀行」との名称が明記されている非常に手狭な、小さな扉が目に入った。「両替」との表示もある。ちょっと!ここだったのか!では、先ほどの工事現場は別のものだったのか。


なんと、なんと。百聞は一見に如かず、とはこのこと。工事現場にいた若者たちとちゃんと会話が成立していたら、両替所はこの先にあると教えてもらえていたのかもしれない。いや、彼らはそんなことは、全く知らないで作業をしているのかもしれない。


とにかく、その小さな扉を押して、中に入ってみた。制服をきっちりと着た警備員がいて、一人しか対応できないような小さなカウンターがあり、その向こうには男性と女性の二人組が座っていた。警備員が両替ならこの用紙に必要事項を書け、と言わんばかりに紙を渡してくれた。


漸く朝からの目的が達成されようとしていることに、大きな喜びを感じ、パスポートを出して、必要事項を書きこむ。使う機会がなかなかなかったオーストラリアドルを、思い切ってネパールルピーに両替してしまおうと思っていた。


サインをして、用紙をカウンターに提出すると、女性がテキパキと対応してくれた。その様子に、漸くそこの小さな空間をじっくりと見る余裕が出て来た。壁に掛っているカレンダーと思しきものが目に入る。それを何気なく見ていて、驚嘆の声を上げてしまった。


カレンダーの数字が、なんとアラビア数字ではなかったのである。これにはたまげてしまった。そして、そこで、これまで何人もの人に道を尋ねながらも、どうにも要領の悪い反応であった背景に思い当たり、はっとした。


そうか。彼らは純粋にアルファベットやアラビア数字を使わないのか。だから、地図に書いてあるアルファベットも数字も読めないので、対応に困っていたのか。コペルニクス的転回であった。


カレンダーの写真を撮りたかったが、どうも重々しい雰囲気だったので、警備員に撮影許可を願い出た。と、最初は驚きの面持ちだったが、すぐに、もちろんだ、お前にはこのカレンダーの貴重さが分かるのか、とばかりに、カレンダーを取り出し、好きなだけ写真を撮れ、と言ってくれた。


すると、カウンターの向こうにいる男性が、外に出て撮って欲しい、と言って扉を示した。その時初めて、我々がいるスペースは何かの入り口で、中庭に出ることができるようになっていることが分かった。


警備員はそれまで厳めしい顔をしていたのに、にこやかに誇らしげにカレンダーを持って、扉を開けてくれた。驚くなかれ。そこは恐らくは仏教とヒンドゥー教が混合したと思われる木造の建物が、幾つも並んでいた。


明るい太陽の光の下で、カレンダーをめくりながら、警備員は誇らしげに写真の説明をしてくれる。こちらの関心は、記載されている数字だとは言い出せずに、感謝しながら、月々のカレンダーの画像をカメラに収めた。


しかし、両替所を入り口とする神社仏閣があるとは思いもよらなかった。これもコペルニクス的転回。嗚呼、カトマンズが如何にカオスに満ちていて、それでいて陽気で、魅力に溢れているか、少しはお分かりいただけただろうか。







夢のエベレスト街道トレッキング(これまでの章)

プロローグ

カトマンズ編 出会い 

カトマンズ編 迷子




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

PVアクセスランキング にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿