2023年11月28日火曜日

夢のエベレスト街道トレッキング~出発編 ラメチャップへ(人生観)

 





カトマンズからラメチャップへの道は、前半は比較的平坦な道だったが、後半になるとアップダウンが激しく、時に山を駆け上がり、時に駆け降りる、スピンのきついカーブあり、と、ジェットコースター並みだった。これが夜中の運転だったら、どんなに恐ろしいことだろうと思い、日中に出掛けることにして正解だったと、胸を撫で下ろしたものだった。


景観が良い場所にくると、Rajさんは車を停めてくれた。その最初が、まるで村を見守るように巨大なシバ神像が聳え立ち、その背景にヒマラヤ山脈が白く輝いて見えるところだった。


遂にヒマラヤ山脈の麓に来ていると実感でき、大いに感慨深かった。緑美しい段々畑も、この地が亜熱帯であることを思い起こさせ、見入ってしまった。観音様や大仏様ではなく、ここはシバ神なのか、と改めて思った。


そういえば、Rajさんは自己紹介の時に、確か自分はブラフマンであると言っていた。つまり、ヒンドゥー教であることを暗に示しているわけだが、ここでブラフマンという所属カーストを公表したことに興味を持った。ブラフマンとはカーストの最上級の司祭にあたるのではあるまいか。


しかし、車の中で色々話をして、彼が田舎の農家の出身であることが分かっていた。特に豪農というわけでもなく、恐らくは村自体が農業のみで成り立っているような場所で、誰もがそうであるように、農業を営んでいるといったところではなかろうか。インドのカースト制度の概念が、ネパールにそっくり入り込んだわけでもなさそうだった。


そして、村人同士の繋がりは非常に強いようで、この旅行会社のオーナーであるラクスマンさんとは、同郷であると言っていた。奥さんも同じ村の出身とのことだった。そういえば、確かホテルのレセプションの男性は、ラクスマンさんのところで働き始めて、もう長いと言っていた。年功序列、終身雇用、会社への忠誠心、そういったものがネパール社会にもあるように思われた。


長い道中、色々な話題になったが、ある時、Rajさんと相棒が、お互いの家族のことで盛り上がっていた。彼らが自分たちの子供のそれぞの年齢やら、今していることを紹介し合っているのをぼんやりと聞いていたが、気が付くと二人の視線が私に向けられていた。


え?私?


非日常を味わい、ヒマラヤ山脈の麓に漸くたどりついたことに心動かされ、これからのトレッキングに胸騒がせていたところだったので、咄嗟にバッタ達の顔さえ浮かばず、正直彼らのことを口にする気にもなれなかった。


だから、ああ、まあ、ねえ。とスルーしてしまった。すると、何か悪いことを聞いてしまったのか、との気まずい空気が流れそうだったので、慌てて、「いえ、3人の子供がいて、幸せにしているわよ。皆大きくなって、家を出ているけれどね。」程度で、にんまりとしておいた。


その時だったのだろうか。どのタイミングでRajさんに離婚していることを伝えたのかは覚えていない。ラメチャップの小さな空港で、ルクラ行きの飛行機を待っている時に、小さなスチールの椅子に並んで座りながら、彼が「人生は一度きりです。だからこそ、大いにエンジョイすべきだと思っています。そう思いませんか」と話しかけてきた。


そして、新しいパートナーと一緒になることは、素晴らしいことだと思う、というようなことを力説し始めた。ええっ?それはそうだと思うし、別に、これまでだって誰かとの出会いを拒んできた訳ではないけれど、特にご縁がなかったということかしらね。


正直なところ、最近は特にトンちゃんを迎えて心豊かな生活をしていると自負していたし、以前は新たな出会いをと思っていた時期もあったが、今更パートナー願望などなくなってしまっていた。


が、そんな野暮なことは言わないで、にんまりと、今回出会いがあるかもしれないわね、と言っておいた。


すると、嬉しそうに、そうですよ、きっと良い人との出会いがあります、と真面目に言うではないか。なんだか可笑しくなってしまい、そして、ヒマラヤ山脈で心ときめく出会いがあるのも悪くないわね、なんて思ってもしまい、大いに笑ってしまった。


確かに、この地の男性は彫りが深く、精悍な顔立ちをしていて、私の好みにぴったりなのよね、と思うと同時に、冗談交じりとはいえ、彼の人生観を窺い知れたことは大いに興味深かった。と言えば大袈裟だが、つまるところ、ネパールでも日本でもフランスでも、人間の思うところはそう変わらない、といったことろか。


そう、人生謳歌しようじゃないか。ひょっとしたら、輪廻転生があるかもしれないが、とにかく、今生きているこの世は、今しか生きることが出来ない。であれば、大いに楽しまねば。


それが彼のもともとの宗教観からくるものなのか、20年のガイド歴の中で出会った、様々な国の様々な旅行者相手に得た体験から導き出したものなのかは分からない。それでも、そのように思っている彼に大いに興味を持ったし、何より、夢のエベレスト街道トレッキングで、心ときめく出会いもあるかもしれないと思ったら、にんまりしてしまった。



ということで、この旅行記、全く通常の旅行記の呈をなしていないのだが、ビスターレ、ビスターレ。その時々の思いを綴るのも、悪くはないではないか。



夢のエベレスト街道トレッキング(これまでの章)

プロローグ

カトマンズ編 出会い 

カトマンズ編 迷子

カトマンズ編 コペルニクス的転回

カトマンズ編 政治談議

出発編 ビスターレ、ビスターレ



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