2014年3月27日木曜日

大満足の最高の境地




ぼんやりとしていて、腹の底から力が出てこない。こんな時って、無性に美味しいものが食べたくなる。でも、どうやら今回の無気力は、それこそ体の奥底からのものらしく、珍しく、何もアイディアが浮かび上がってこない。

「何か、とっても美味しいものが食べたいよね。」
そうつぶやいたら、息子バッタがすかさず、「うん!熱々の白いご飯が食べたいっ!」
そう来たか。分かるけど、ちょっと違う。そうじゃないんだよね。その無言の思いが通じたのか、今度は『餃子』が食べたいという。餃子、ね。

スーパーに餃子の皮なんて便利なものは売っていない。タピオカの粉さえ売っていないのだから。そうか、アジア食料品店を経営しようか。店頭では珍珠奶茶あたりを扱えば人気になろう。一人悦に入っていると、隣で息子バッタが浮かない顔をしている。大丈夫。千と千尋の神隠しに出てくるような店構えにして、それこそ、名無しのようなお面を被るから、誰も君のママだとは分からないわよ。「そうじゃないよ。」小さな声が返ってくる。「ここでは、そんなに需要はないと思うよ。」

そうかなぁ。確かにテイクアウトの中華は何軒か街中にある。中国人や台湾人たちは、そこで外帯(ワイタイ)しちゃえば事足りるし、わざわざ自家製に拘る必要もないのか。しかも、お店だって実のところパリの中華街から仕入れているのだろうし。時々、むらむらっと美味しいものを手作りしたくなっちゃう顧客向けの食材屋など、儲けが見込めるどころか、商品の回転が悪くて冴えないか。一瞬にして、提灯まで外に出して、朱色を基調とした店構えで、いそいそと名無しのお面をつけて学校帰りのアド(ティーン)達に珍珠奶茶や紅豆湯を振る舞っている姿が消え、白い蛍光灯がぼんやりと、山積みの在庫の上の埃を照らしている様子に変転してしまう。

ま、取り敢えず、今日は餃子にしよう。

小麦粉に水。
確かに、これだけで餃子の皮ができちゃうんだから、食材屋なんて必要ないか。ひとまとめにして、ラップをかけて放置している間に、餃子の中身を用意する。ニンニクと生姜はみじん切り。キャベツはちょっと大きめサイズのみじん切り。ニラがないのでほうれん草を適当に切って、全てボールに入れ込むと、ソーセージの中身となるらしい豚肉と混ぜる。そこに醤油、ごま油、オイスターソース、冷蔵庫にあった白ワインを混ぜる。

餃子の皮は息子バッタに手伝ってもらう。

自分の発案が採用されたからか、喜んで手伝ってくれる。真っ白になりながら、それなりに器用に生地から丸い皮を作り出していく。

その皮にニンニクとごま油が香ばしい中身を入れて包んでいく。あれよ、あれよと24個。足りるのか、足りないのか。

しっかりと熱したフライパンに油をとり、静かに餃子を置いていくと、ジュッツ、ジュッツと心地よい音がする。底がうっすら焼けた頃に、熱湯を回して蓋をして蒸し焼き。欲張り過ぎたか、餃子を沢山入れたことからフライパンは身動きがとれない状態。這う這うの体でお皿に載せると大歓声。

餃子のタレはお醤油とお酢、と言っても、バッタ達は醤油しか用意しない。好きな味付けで食べることが最高なのだから、まあ良しとするか。

皮は思った以上にもっちりとしていて、こんがり焼けた底が香ばしい。野菜たっぷりの身もジューシー。

あっという間に二回目に焼いた餃子も一つを残してなくなってしまう。

「一人6個の勘定。6個以上食べたと思う人は権利なし。」

厳かに宣言すると、末娘バッタと息子バッタは10個以上食べた気がする、と、こそこそし始める。

「へえっ。じゃあ、あたしが食べていいの?」
嬉しそうに長女バッタの箸が伸びる。

あれだけ手間暇かけながら、一瞬にして焼き上がり、一瞬にしてなくなってしまった空っぽのお皿を目の前に、なんだかはぐらかされた思い。

いやいや、これこそ、大満足の最高の境地。
天晴れ、天晴れ。





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