冷蔵庫に鎮座している薄朱色の卵たち。前の家のマダムの娘さんが、ノルマンディーの田舎で野放しで育てている鶏の卵。殻には糞やら土やらがしっかりとついていて、いかにもワイルド。卵を割る時には殻を洗わないと、うっかりと余計な栄養までついてきそう。
バッタ達が幼かった、ちょっと前まで、日曜の朝食だけは一緒にゆったりととっていた。バッタ達が目覚める前に家を出ていたことからも、皆で朝食を一緒にとることは優雅さを伴っていた。そうはいっても、特別な料理をするわけでもない。それでも、「たまご、食べる?何がいい?」と聞けば、いつだって元気な声で「とろんとしたの。」「ふわふわの。」と答えが返って来ていた。
そう、あの頃。いや、今だって卵料理はちょっとした贅沢。時間をきっかりと見て作る半熟卵の美味しさは格別。そういった余裕があることが美味しさを一層際立たせるかのよう。オムレツにしても、チーズをすべりこませ、トロリとチーズがとろけ出るオムレツは最高。目玉焼きだって、黄身に薄っすらと白く膜が張った状態を目指す。いつだって真剣勝負。
そうして、泥のついた野放し卵を手にしつつ、20年以上も前の光景が突然思い起こされる。オムレツと言えば、卵オンリーの一品だとばかり思っていたあの頃。玉ねぎのスライス、赤と緑のポワブロンのみじん切り、緑の唐辛子、そして摩訶不思議な香辛料が入った、熱々のオムレツを目の前で調理してもらい、お皿にするりと入れてもらった瞬間。一口食べて、その美味しさに心震わせたあの日。
不思議なことに、記憶の底に押し込まれていて、今まで取り出したことさえなかった。沢山の思いが重なってしまって、このアイテムは忘れ去らていたに違いない。
そうだ、あのスリランカオムレツを作ってみよう。
先ずは、この元気いっぱいの泥つき卵を洗うとしようか。
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