2018年9月5日水曜日

大いなるエール








今年は、週末は家に帰らないで寮にいることにする。

息子バッタがそう宣言したのは、夏休みも終わろうとする一週間前。初めての寮生活となった昨年は、週末はパリのパパの家と、ママの家とで交替で泊まりに来ていた。二年目は皆、週末も寮で過ごすのか、と思ったが、どうやら義務ではないらしく、地方からの学生以外、大半は週末に家に帰るという。

週末に帰ると言っても、土曜の夕方まで試験があり、土曜の夜から漸く家でのんびりし、日曜は朝から勉強。午後にちょこっと一緒に買い物をする程度で、基本午後も勉強。そして夕食を終えて寮に戻ることになる。親としては、その間に一週間分の洗濯をし、一週間分の美味しい食事を作ってあげることしかできない。

突然の宣言に、心の準備をしていなかった情けない母親は露骨に悲しい顔をしてしまったと思う。

ロッテルダムの大学に未だ帰っていなかった長女バッタは驚いたように無言になる。そこに末娘バッタが、私は聞いていなかった、と彼女らしく斬る。そして、これからはパリのパパの家に一人で行くことになるのは困る、と、これまた彼女らしい発言をする。

にっこりと笑うだけの息子バッタに、誰もが彼の固い決心をみる。

その夜、夕食の準備をしていると、末娘バッタの誘いで息子バッタがバイオリンを弾き始める。バイオリンを弾かなくなって早3年は経ってしまった長女バッタは、いいねぇ、と感心するだけで、一緒に混ざろうとさえしない。色々な懐かしいレパートリーが聞こえてくる中、おっ、っと思わず聴き入ってしまう曲がハイテンポで響き始める。弾けんばかりの音の粒。長女バッタを顔を見合わせ、「Fiocco !」と小さく叫ぶ。

息子バッタの旅立ちの曲。FioccoのAllegro。
「陽気な、朗らかな、快活な」と言った意味のイタリア語。

心の底から大いなるエールを送る!





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