マイエンフェルトの街、いや、村は、拍子抜けする程閑散としていた。駅のロッカーにザックを預けようと思っていたので、プラットフォーム沿いにあるこじんまりとした建物に、母と入ろうとドアに向かったところ、プライベート、無暗に訪れるべからず、的なメッセージの張り紙が目に入る。おっと、無人駅か。
スーツケースは預けたものの、背中のザックには二日分の衣類やら化粧道具が入っている。ガイドブックも背負っている。ちょっと手にした母のザックは、恐らく私のものより重いと思えた。
駅前のカフェにでも預けるか、と思って通りに出て見るも、カフェなんてない。ちょっとしたアイスやら雑貨を売っている、いかにも観光客向けのキオスクが目に入ったので、しめたとばかりに声を掛けるが、驚いたことに英語が通じない。マイエンフェルトは、観光地化してしまったわけではないのか?ザックを示して、預かって欲しいと手ぶり身振りでお願いするが、迷惑そうに、大きな案内看板を示し、それを見ろと言う。道に迷っているわけではないのだけど、と思うが、ここは仕方ない。ドイツ語圏なので、フランス語など、猶更通じない。
こんな時、母の決断は早い。さっさと覚悟を決め、ザックを背負って歩いて行きましょう、となる。では、と気を取り直し、曇りがちの中、歩き始める。靄が掛かっている山が見え始める。葡萄畑を通り、村を一周するような道をたどり、ハイジハウスへ。そこまでは、母親に連れられた小さな女の子を見ただけで、道には我々のみ。不思議な感じがしていたが、このハイジハウスはアラブ系、インド系、そしてアジア系の家族連れの観光客でにぎわっていた。一体、彼らはどこから湧いて出てきたのか。
このハイジハウスでザックを預かってもらうことを思いつく。ここまで、距離的にはなかったものの、背中のザックはずしりと重く感じられ始めていた。
ここでも驚いたことに、ハイジハウスの裏手に回ってのコースを歩いて行く人は誰もいない。一瞬にして観光客の喧騒は消えてしまい、爽やかな山道が続く。と思ったのは最初のうち。じぐざぐとつづら折りが続き、かなりの急斜面もあり、久しぶりの山歩きでもあり、そろそろ山頂に着いて欲しいと思ってしまう。途中で木彫りの鷲、おじいさん、ハイジとピーター、クララの車椅子など、休憩するにはもってこいのオブジェや、景観があり、休み休み登る。そんな中、牛がのんびりと昼寝。いやいや、時間的には未だお昼前。
漸く辿り着いたハイジヒュッテでランチ。ハイジのイメージそっくりの少女が、お母さんと二人でサービスをしてくれる。夏の間のアルバイトだろうか。ここでもちっとも英語が通じない。取り敢えず頼んだソーセージ。恐らく自分では買わないだろうな、と思われる色合い。ボイルしてある一切れを口に入れると、ぱっと酸味が広がり、その酸っぱさ、そして塩辛さに驚いてしまう。マダムがおっと、忘れていましたとばかりに、市販のマヨネーズのチューブを持ってきてくれる。勧められるまま、びゅっと塗り、また一口食べてみると、驚く程味が落ち着いている。母にも慌てて勧める。飾られたオレンジの花は、庭で咲いていて、食べられるのよ、と教えられる。エディブルフラワーらしい。
その日、一体何人のトレッカーがここを訪れるのだろうか。我々の前にカップルがいて、我々の後に4人の家族連れが来ていた。その間、一人が休憩に立ち寄るが、何も注文せずに出て行ってしまっていた。本当に気儘な夏のバイトなのかもしれない。
さあ、そろそろ下りなくては。達成感に包まれ、久しぶりの山歩きの爽やかさに満足しながら、とんとんとんとリズミカルに下山。とんとんとん。。。
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