明け方に入ってから霧のように細かい雨が降ったのだろうか。地面はしっとりとしていたし、原っぱの芝生は柔らかく濡れそぼっていた。
雨は匂いを洗い流すのではなく、水分が蒸発することで、むしろ匂いを引き立たせる役割をしているようだった。トンカの歩みは一向に進まずに、ひとところに留まりがちで、付き合ってあげたい気持ちと、朝の忙しない気持ちとが心の中で拮抗していた。
夕方なら、たっぷりと付き合ってやるからね、と先を促す。森の中では自由に駆け回り、思う存分好きなことをしているからか、意外に聞き分けがいい。
そう、森の中では鹿の群れを追ったり、飛び立つ雉を追い回したり、猪の家族の後についていったりしている。深追いだけはしないでおくれよ、と走り去る背中に声を掛けるが、届いているのだろうか。
目の前をどでかい黒い塊が、どどどどどーっと物騒な音を立て、しかも猛スピードで駆け抜けた時には、さすがに度肝を抜かれた。そして、その後ろをこれまた猛スピードで追っているトンカの姿を目にした時には、愕然とした。嗚呼、トン!お前さん、相手は牙を持っているんだよ。
思い切りが良いのだろうか。猟犬としての本能に目覚めていないのか、今のところ暫くすると無傷で戻ってくる。本人は一緒に遊びたい思いの方が強いのだろう。しかし、不思議なことに、これが相手が犬だと先ずは相手を見定めるために立ち止まり、警戒する。相手が複数であれば、時には逃げる時さえある。それなのに、見ず知らずの鹿や猪相手となると、立ち止まって考えるよりも先に体が動いているように思われる。本能のなせる業なのだろうが、一体どういうことなのか。
丸い無邪気な瞳を向けて甘えてくるトンカだが、何かを追いかけて本能のままに疾走している姿の美しさに心打たれるし、それが本来の姿なのではと思ってしまう。いやいや、ちゃんと戻っておいでよ。待っているからね。
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