バッタ達とパリに向かうRER(高速電車)で、角のボックスを占領し、賑やかにしているところに、リュックを背負って、大きなカバンを押した女性が、通路向かいのボックスに入り込む。
実は通路まではみ出してバイオリンを置いていたので、彼女を通すために、ちょっと場所移動が必要であった。日曜の朝なので、電車はがら空き状態。角を占領する我々の戦略がよっぽど利口に見えたのか。
女性は肩までのグレイのセミロンググで、お元気そうでかくしゃくとしていながらも、つい、お手伝いをと手が出てしまいそうなお年頃。ところが、しっかりとにこやかに断り、ご自分でカバンをどうにかボックスの隅に収めてしまう。
バッタ達は瞬時おとなしくなるが、すぐにまたもとの賑やかさで、飴やらガムやらを交換し合って騒ぎ始める。末娘バッタが、青と白のべろりと長い飴をとろけんばかりの表情で食べていると、マダムがおいしそうね、と笑いかける。ちょっとしたピクニックの仲間感覚が生まれる。マダムは我々の飴の申し出を優しく微笑んで断ると、あら、バイオリニストなのね、と嬉しそうに話しかける。
穏やかな微笑みにつられ、いつの間にか会話が弾み、マダムがシアトルに住んでいて、これからポワシーに住む息子一家とノエルを過ごす予定であることが分かる。
マダムのフランス語からも、彼女が生粋のフランス人であろうことが推して測れたので、いつからアメリカに住んでいらっしゃるのか、ちょっと聞いてみる。すると、穏やかな笑みを絶やさずに、何十年も前に連れ合いの仕事の関係で渡米した旨、でも、今ではその連れ合いとは別れてしまったこと、それでも、アメリカに住み続けていることを話してくれる。その語り口調が余りに優雅で自然であったので、つい、私自身も似たような境遇である旨伝える。
そうなのよね。一旦住むとそんなものよね。といった感じで話が弾み、バッタ達がいるので、別れた旦那とは今でもしょっちゅう連絡し合っていることや、彼がパリに住んでいるので、ややこしいことなど話始めたところで、息子バッタから日本語でブーイングが入る。
「あら、抗議が入ったわね。」
穏やかな笑みを絶やさずに、マダムが指摘。
「分かるわよ。私も随分娘から言われたわ。ママはプライベートなことを話しすぎるって。」
二人は顔を見合わせ大笑い。
すると、今度は長女バッタが、ママ、静かにしてよ。その笑い声、かなり目立つよ、と。
バッタ達よ。ママはこんな嬉しいことはないのよ。
こうして自分の幸せな人生の一部として語ることができるようになるなんて、思っても見なかったのよ。
そう、ママの人生の特徴の一つにしか過ぎないのよ。それが今実感として分かったのよ。こちらのマダムのように。
だから、許せよバッタ達。ママはあんまり嬉しくて、つい、うきうきとしてしまったのよ。
マダムはエトワールの駅で降りる。
爽やかな笑顔を残して。
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皆様からのコメント楽しみにしています。
素敵なクッカバラさん!出会いがますますクッカバラさんの素敵さに色を添えてくれてますね。一期一会。
返信削除あかうなさん
返信削除人と人との関係は鏡の様ですよね。きっと、マダムが私の何かを引き出し、私がマダムの何かを引き出す。。。今年もそんな出会いを大切にしていけたら、と願っています。