春の七草を求めて、無農薬のお店に行くと、やや赤味のある鮮やかな黄色い小粒の果実が目に入る。先端にある突起の形状が独特なので見間違えるはずがない。もうベルガモットの季節なのね。感慨深く、そして突然の予期せぬ出会いに心躍らせ、そっと一つを手に取ってみる。むっちりとした重量感が愛おしい。紙袋に幾つか入れながら、早速何を作ろうかと思考を巡らせる。
ベルガモットの皮と玉ねぎと合わせたスタッフィングで、丸鶏を低温でじっくり焼き上げるレシピに心惹かれる。キンカンも幾つか手に入れる。
我が家に帰り、キッチンで買い物袋から紙袋を取り出す。芳醇な、それでいて高貴な香りがどんどんとキッチンを満たしてくれる。一つは、ご先祖様にお供え。一つは、皮をそっと削ってみると、たちまちにして橙色の香の粒が拡散される。そう、まるでトパーズ色の香気のように。
レモン哀歌
高村光太郎
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉のどに嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓さんてんでしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう
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