昨年の6月あたりからお隣さんの庭が騒々しい。
東側のお隣さんは我が家と同じ縦長の敷地だが、我々が引っ越してきた当時は、鬱蒼とした庭の中に一軒家が建っていた。引っ越しの挨拶に伺った時には、マダムが外で洗濯物を干していたところだった。やんちゃな男の子がいて、木に登っては我が家の方を見ているから、なんだか監視されているようで嫌な思いがしたことを覚えている。気候が良くなると、外のテラスで食事をする日も増えたが、その度に隣の木の上から覗かれるのは良い気がしない。
その子には、とても美人な若いお姉さんがいた。ある時通りで、二人乗りのバイクが彼らの家の前で止まったところに出くわした。私自身は丁度買い物に出るところで、家の前に停めたいた車に乗るところだったように記憶している。その時、バシンっとものすごい音がして、バイクの後ろから降りた人が吹っ飛んだので、心臓が止まる程驚いた。バイクに乗っていた人が、後ろに乗っていた人の頬を平手打ちし、その衝撃で通りに倒れたという事実に思考がついていかなかった。
倒れた人は隣のお嬢さんの様で、立ち上がると、家の門を開けて入って行った。
犯罪現場に出くわしてしまいながら、その状況に余りに衝撃を受け、何もできずに震えている無力な自分。あの時の衝撃は今でも忘れられない。私自身がまだ若かったし、お隣の家庭事情にまで踏み込む勇気も、手を差し伸べる心の余裕もなかった。引っ越してくる前に、前の家主から、お隣のマダムはとてもシャイで、あまり幸せな様子ではないけれど、悪い方ではないとだけ教えられたことを思い出していた。我々が引っ越してから、ご主人を見かけることは一度もなかった。
だからなのか、男の子はいつも賑やかな我が家を木に登って観察していたのかもしれない。今なら、その子に、一緒に食べにおいでよ、と誘ってあげられただろうのに。あの当時、我が家もパパ不在という新たな環境に、私自身がひどく打ちのめされていたので、とても誰かを優しく受け入れる懐の深さや心の広さを持ち合わせていなかった。
子供達は隣のお兄ちゃん、といった存在の彼と仲良くなるのに時間もかからず、薔薇の花を交換したり、一緒にボール遊びをしたりしていた様だった。隣の家はリラの木がたくさんあって、マダムが薔薇をとても大切にしていることは、男の子の話からも伝わってきていた。
しかし、リラが次の年に咲くのを待たずに、彼らはひっそりと引っ越してしまったようで、あれよあれよと言う間に、鬱蒼としたリラの木も、薔薇の木も、いやそれどころか、家さえも破壊され、平地となり、その後3階建てで屋上にベランダまである4棟のマンションが建ってしまった。男の子が登って我が家を観察していた杉の木だけは残され、切り落とされた枝の跡が初めこそ生々しかったが、今ではすっかり3階まで枝なしの、大木となってしまった。
地下駐車場を作るとかで、ものすごい騒音と振動で我が家も崩壊するのではと心配した時もあったし、建物の影で庭に日が当たらない時間が多くなったり、何より景観が全く異なってしまったが、まあ、我々とて、最初は外から移り住んできた異邦人。とやかく言える立場にはないと思っている。
4世帯になったお隣さんの、南側の一家がなんだか遺跡でも発掘するかの勢いで今年の夏から庭をショベルカーでボーリングしている。プールにするのか、屋外円形劇場でも作るのか、階段を作るかの如く、土の掘り方が段階的に違っている。4世帯ともに、確か地下の駐車場の漏水処理に問題があり、全般的に修繕とかで、土を掘り起こして、ものすごい騒音で辟易したのが今年の夏。それが漸く終わったらしいと思っていたところ、工事の延長をするかのような発掘作業には頭を捻ってしまう。
まあ、しばらく様子をみてみよう。何か新しい発見があるのかもしれない。ちょっとした楽しみが増える。
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