「あら、随分と痩せているのね。がりがりだわ。」
夕方の散歩をしていると、暗闇からそんな声が掛けられた。こちらは懐中電灯をぶら下げ、トンカは青く光る首輪をしているが、相手は何も持っていないので、本当に暗闇がしゃべっているようだった。
トンカの周りには、わらわらと数匹の犬が寄ってきて、それこそ品評会のように匂いを嗅ぎ始め、ぐるぐると犬同士で会話をし合っている。どうやら3人ぐらいで、スイスシェパードやジャックラッセルなど5匹と散歩をしている様子だった。その中でも一番体躯の小さい犬がきゃんきゃんと吠え出した。
大きさや速さで凌駕できないと分かると、声量で威嚇し自己顕示するタイプなのだろう。往々にして小型犬に多いが、それなりに理に適っていて応援したくなってしまうが、どうやら一緒の連れはそうは思っていない様子で、しっつ、と叱り始めた。
「こんなに痩せていて!」
また批判の声が響いた。それはトンカに対してではなく、トンカの連れ、つまり、私への非難の声であった。ちゃんと餌を与えていない、可哀想に、と。え、ちょっと待ってください。トンカが痩せているって、それは運動量が多いから、フィットしているってことなんです。
いや、それよりも、この暗がりで何が見えるというのだろう。私の懐中電灯で照らされた、陰影の濃い姿ではないか。
早々に別れたものの、その後も彼女の声が頭の中でこだましていたが、いつの間にか長女バッタが生まれた時のことを思い出していた。初産。嬉しさと、誇らしさ、そして、不安がないまぜになっていた、あの頃。
出産後の二日目か三日目だっただろうか。入院していたクリニックで、看護婦さんから新生児の体重が落ちているので、母乳ではなくミルクを与えるようにと小さな瓶を渡された時、大病の宣告でも受けたかのように落ち込んでしまった。
母乳で育てようと漠然と思っていたのだが、生まれてきて未だ数日も経っていないのに、既に母親として彼女を守り切れていないのか、と愕然としてしまった。
新生児検診でいらした小児科のイスラエル先生に、ミルクを与えるようにと言われた話を伝えると、周囲の看護婦さんたちに「みんな、この赤ちゃんをどう思う?」と、いつもの穏やかで、優しい眼差しで問いかけた。
皆口々に、可愛い、可愛い、と言ってくださる。「そうでしょう?とっても可愛い赤ちゃんですよね。とても幸せそうですよね。ママの母乳で十分に満足しているってことなのですよ。赤ちゃんにもそれぞれの個性があって、体重の変化だけを見ていては大切なことを見落としてしまうのですよ。」
そして、お母さん、安心してくださいね。と、ウインクをしたように思う。それ以来、イスラエル先生は私からの絶大なる信頼を勝ち得、以降、息子バッタ、末娘バッタを診ていただいた。
そう、その通り。トンカは、こんなにも愛らしく、嬉しそうに跳ね回っているではないか。何ら問題もない。スリムな体躯がトンカの個性であって、誰かに何かを言われたからといって、食生活を再考する必要はあるまい。
ね、トンカ。
トンカと散歩をしながら、何度言われたことだろう。その度に、実は餌の量を増やしてみたりもしたが、どうも今の量がトンカにはぴったりだろうと思われる。量を増やしても、拾い食いの習慣は止めないし、逆に用を足す回数が増え、やや軟化してしまい、むしろトンカの胃腸に過度な負担となってしまうと思われた。
それでも、確固たる自信などない。トンカの様子をしっかりと見ながら、成長に合わせて、必要な量を与えていきたい。もちろん、大好物の煮干しや干し芋、ビーフジャッキー、チーズも適度に楽しみながら。
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