2023年3月4日土曜日

ルイとの出会い

 





人間同士に相性があるように、犬にも相性がある。体形よりは気質の類似性の方に比重が多く、出会った途端にお互いに何かを認識し、抱擁するかの如く後ろ足で立って絡み合う。もちろん、これはトンカの場合。


先日も、森の散策の時にすばしっこい若いブリタニー・スパニエルに出会った。二匹は出会った瞬間から、人生で最高の相棒と言わんばかりに抱擁し、おい、行くぜ、と疾走劇を開始した。


フルスピードで前方に疾走したかと思えば、急回転をし戻ってきたり、横の藪に駆けこんだりと、こちらが目を回してしまう程のリズムを二匹で軽やかにやってのける。二匹のスピードは恐らくほぼ同レベルで、時々一方が仕掛けをし方向を変えるものだから、相手は必至になって追いかける。こちらは抱腹絶倒。笑いが止まらない。


スパニエル君はルイという名前で、フランスの国王の名前としても有名だが、今でも我が子に付ける名前としては群を抜いているだろう。その名を愛犬とはいえ、犬君に付けてしまうのだから、驚いてしまう。


そういえば、トンカの最愛の相棒の一人に、ラブラドールのラムセスがいたことを思い出した。ラムセスと言えば、エジプトの王様の名前だが、ルイと同様に今でも生まれて来た子供にラムセスと名付ける親は多いだろう。


とすると、トンカは王族のやんごとなき方々と親しくなる傾向があるのだろうか。


つまらない俗な思いを打ち破るが如く、二匹がもつれ合いながら脇を疾走していく。変にぶつかって倒れないように気を付けねばならない。ルイを連れて来た青年と一緒に歩く格好になったが、彼がとつとつと話を始めた。


丁度息子バッタと同じような年齢だろうか。くりくりのカールが愛らしい天然の黒髪で、ぱっちりとした目元が、ミケランジェロのダビデ像を思わせた。普段は口数が少ないと思われるが、やんちゃなトンカに手を焼いていると察知したのか、散歩や躾の上でのヒントを、ルイのエピソードを交えながら教えてくれる。


控えめながらも、ゆっくりと丁寧に、ルイの猟犬としての特性を考慮して、それに合わせたゲームをしながら躾をしたことや、森で迷子にならないための訓練を紹介してくれる。きっと、トンかもルイと似たような気質だろうからと、教えてくれているのだろう。


いつの間にか森を抜け、丘の斜面を上ると目の前に夕方の空が広がった。丁度夕日が沈むところで、地平線上に真っ赤な太陽が最後の光を放っている。草原ではルイとトンカが走り込んでいて、夕日に染まったトンカの毛並みが黄金色に輝いている。


綺麗だ。


彼は一人そっと呟いた。


息子のような年齢の青年が、こんなに打ち解けてくれて、自然と自分をさらけ出してくれたことに、驚きと嬉しさが込み上げてきた。なんだか息子バッタと一緒にいるような気さえしてしまった。


ルイとトンカが見せてくれた自由奔放な、まさしく自然界の力のお陰なのだろうな、と思う。夕日に染まりながら、優しい気持ちに包まれ、感謝の気持ちが自然と湧き上がってくる。思わず、心の中で首を垂れる。



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